『真実』
今回の話は主人公が異世界に来ることになってしまった原因についてです。
そこは何もない真っ暗な空間だった。しかし、自分の姿は見ることができる。
ここが自分の夢の中なのかそれとも地獄の底なのかはわからないが、異世界が存在しているので地獄も夢の世界も存在しているのだろう。問題は、なぜ今ここにいるのかだ。
「ようやく、来たのね」
不意に背後から声が聞こえた。
振り返るとそこには真っ暗なドレスを身に纏った美しい黒髪の少女が佇んでいた。
すぐに違和感に気が付く。少女からは人間のような気配は一切感じられない。見た目は美しい少女ではあるが、どこか人間とは違う存在であることはわかった。
「この時を待っていたわ。あなたがここに再び現れるのをずっと」
いったいなんのことを言っているんだ。
再び現れる?
俺は以前にもここに来たことがあるのか。
わからない。
まったく、覚えていない。
「ッ!?」
思い出そうと考えていると激しい頭痛が襲ってきた。
まさに、頭が割れそうな痛みだ。膝をつくが少女からは視線は逸らさない。
苦しむ俺をよそに少女は微笑んだ。
身体は酔ったように熱く、そして凍えるような悪寒に包まれる。自分の身体が自分の物ではないみたいいだ。
歯を食いしばり立ち上がる。
「予想どおり、記憶はまだ戻っていないのね」
「お前は、いったい何だ?」
「あなたは知っているはずよ。私がいったい何なのか・・・・・・そうねぇ、私の名前も憶えていないのは少し癪に障るわね。なら、無理にでも思い出してもらわなくちゃ、ふふ」
軽く微笑むと彼女は両手を広げ抱きついてくる。
どす黒い死の予感が、血管にみっしりと詰め込まれていくような感じがした。
「ッああああぁぁぁぁ!?」
再び凄まじい痛みが頭をうつ。先ほどの痛みを数百倍にしたような激痛だ。
奈落の底のような場所に、獣の咆哮のような叫びが響き渡る。
体に力が入らなくなり、立ってられない。そんな俺の体を少女が支える。
「すべて思い出すのよ――――――あなたの為にもね」
◆
夕食を取りパソコンを開いて明日の大学の講義内容を確認していく。
初めは面倒であったが3年もすれば慣れてくる。
講義内容の確認が終わり一息つこうとすると玄関で何かが落ちる音がした。
時計の針は既に深夜0時を通り越しており、こんな時間に郵便が来るのも可笑しい。にも拘わらず玄関には黒い封筒が落ちていた。
茶色や白などの封筒ならともかく黒い封筒は始めてみた。そんな驚きと共に気味が悪い感じもした。
黒い封筒には赤い蝋で封がされていた。受取人、差出人の名前はなく当然のことながら出自が一切の不明である。
そこで中を確認するか、そのまま確認せずに捨てるか迷う。
迷った末にしかたなく封筒を開ける。
すると、突然に感じる浮遊感。
そこには先ほどまで見慣れた自分の部屋は存在せずただ闇が広がっているのみだった。
突然の事で焦る気持ちを何とか落ち着かせる。
目を閉じ、深呼吸をしてからもう一度周りを見渡す。だが、そこには闇が広がるだけ。
考えられる原因はこれしかないだろう。
今も持っている黒い封筒・・・・・・。
やはり開けずに捨てるべきだった。
忌々しく黒い封筒を睨み付けるが当然のことながら何の反応もない。
しかし、思ってもいないところから反応が来た。
「そんなに見つめても何も返ってこないわよ」
「ッ!?」
突然の声で驚き、声の発生源の方に視線を向ける。そして、思わず呼吸が止まる。
そこには周りと同じ―――いや、それ以上に黒いドレスを纏った肌の白い美しい少女がいた。
その少女の美しさに息が止まった。存在その物に圧倒的に自分とは違う存在に対して無意識の内に体が反応した。その少女を存在感を例えるとすれば『神』若しくは『怪物』だ。
今まで生きてきた人生で『神』若しくは『怪物』などにはあったことはない――――会いたいとも思わないが、他に表す言葉が見つからない。
「ようこそ、私の世界に」
「・・・・・・」
「私の名前は残念ながらないわ。ずっと魔神や邪神なんて呼ばれていたから」
「・・・・・・ふざけてはいない様だな」
「ええ、もちろん。あなたをここに呼び込んだのは私ですもの」
「目的は?」
「ふふっ、順応性が高くて助かるわ。そうね、あなたとの取引かしら」
「取引だと?」
「そうよ。あなた妹さんがいるでしょ?」
この少女から聞かされた内容は、これから俺の妹がある異世界での戦いに巻き込まれるということだった。その戦いは仕組まれたものであり防ぐことはできないそうだ。だが、その仕組まれた戦いのシナリオを変えることはできるらしい。
こんな話を信じるほどおめでたい頭ではないが。実際にこの不思議空間が存在している為、真実に近いことこのうえない。
「なぜ、俺なんだ?」
それが一番の疑問である。
成績は良くもなく悪くもなく、運動もそこそこできる。自称一般人である俺が選ばれる要素が見当たらない。
妹や友人に普通だろと聞くと何故か全員が首を横に振る。
「それわね、あなたが一番素質があるからよ。世界を破壊するね―—――――――」
世界を破壊する素質―――――そんなくだらないものは、ゴミ箱ごと燃やしてやる。どうせならもう少し日常生活に役立つ素質が欲しい。切実に・・・・・・。
「その、シナリオを壊すのにどうすればいい。正直言って俺には何の力もないぞ」
「力は私があげるわ。それで、取引は成立かしら?」
「・・・・・・・・ここで、断れば妹は死ぬのか?」
「死ぬかもしれないし、死なないかもしれない。結局のところあなたの妹は異世界でいいように使われる駒になるだけよ」
「わかった。ただし、やるなら徹底的にやってくれ。俺という人格が変わろうとかまわない」
「やっぱり、人間はおもしろいわね。それじゃ、遠慮なく」
これまで忘れていた記憶が押し寄せる。
そうだ、俺はこの世界に妹の為に来たのだ。さまざまな代償を払って。
頭痛と共にすべてを思い出した。
いまだに俺を抱きしめている『怪物』の名前も――――。
「ようやく思い出した。ミラ、すまない」
「まったく遅過ぎよ」
ミラはさらに抱きしめる力を強める。
「ここまで記憶が戻らなかったのは予想外だったがうまく奴のシナリオに紛れ込むことができた」
なにも記憶がなかったのは偶然ではない。意図的に記憶を消していたのだ。
本来、このシナリオには俺は入ることができなかったが記憶を消したままならば奴のシナリオに紛れることができた。記憶を消した後は、ミラに頼みPDAを持たせてもらいある程度まで道を示してくれた。
PDAにいろいろと指示を出していたのはミラだ。
そして、この世界に銃を欲したのは俺自身。
自分ひとりがよくゲームに出てくる主人公のような莫大な力を手に入れてもダメなのだ。
どんな強大な力でもたかが一人。数の力には敵わない。そのため俺は誰にでも扱うことができる銃とそれに関係する知識を望んだ。
その対価としてある一定以上の感情を奪われてしまったが後悔はしていない。
『怪物』と闘うならこちらも喜んで『怪物』になってやる。
ようやく始まるのだ。
全ての原因となった奴との戦いが―――――。
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