『管制官に災いあれ』
趣味で書かせていただいている小説ですが、読んでいただきいただきありがとうございます。
今回のお話の主人公はある女性です。
視界が真っ白な空を1機の航空機が飛行している。
アメリカ軍 海兵隊の空中給油兼輸送機『KC130 ハーキュリーズ』。
通常の貨物搭載能力に加え、飛行しながら他機に燃料を供給する、いわゆる空中給油装置を搭載しているのが何よりも特徴だ。
その航空機の機長をしているのが私―――アリアン・D・クレファーである。
今回の任務も簡単な輸送任務である。これまでも何回も行ってきた。イラク、アフガニスタンといった紛争地域も飛んだ。言ってしまえばベテランでもある。しかし、現在直面しているこの問題は初めて経験する。
「こちらアメリカ軍航空機ヴァルキュリー、ニーズヘッグ基地応答願う」
『ザァァァァ――――』
「こちらアメリカ軍航空機ヴァルキュリー、ニーズヘッグ基地応答願う」
『ザァァァァ―――――』
「ダメです通じません」
「別の周波数も試してみて。もう何なのよこの霧」
離陸する際に管制からは『今日は穏やかな快晴だ。なにも心配はいらない』なんて言葉をいただいた。 なにが快晴だ。視界ゼロの目隠し飛行じゃないの。給料もらってるならしっかり仕事しろってのよ。
職務怠慢な管制官に災いあれ。それに加えて無線機、レーダもなんの反応もない。
何度も確認しているが機器に異常は見られない。
「何か視認できた?」
「いえなにも見えません。視界ゼロです」
副操縦席に座っているのが新人のモレア・ウィルソン中尉。ブロンドの髪を後ろで束ねている。そして、私よりも出るところは出て引っ込むところは引っ込んでいる。由々しき身体である。それなのに彼氏の一人もいない。理由を聞いてみると自分の体目的に寄ってくる男は碌な奴はいないということだ。
他人の彼氏の心配している私にも彼氏がいない。自分に自信がないわけではないが、彼氏ができない理由としてあげるなら父が厳しすぎて男が寄り付かないことである。
一昔前は、空母の艦長も務めていたが年齢を理由に前線から退き輸送艦の艦長として着任した。つい先日に急に任務が入って私の誕生日には帰れないかもしれないと連絡があった。ただでさえ親バカなのに母が病気で亡くなってからは更に私の事を心配するようになった。
『こちら、―――応答――――う』
「ッ! こちらアメリカ軍航空機ヴァルキュリー」
ようやく無線にノイズ以外の音が聞こえるようになった。
さらに霧も少しずつ晴れていき視界が開けてくる。どうやらずいぶん予定航路を外れているようだ。真下には森が鬱蒼と茂っている。
『こちら、サイリス基地応答願う』
「サイリス? モレア、そんな基地あったかしら」
「いえ、目的地周辺にはそんな基地は存在しないはずです」
いよいよ不味いことになってきた。
現在位置がまったく把握できない。取りあえず無線で応答をしておこう。
「こちらアメリカ海兵隊航空機ヴァルキュリー、機長のアリアン・D・クレファー大尉。サイリス航空基地応答願う」
『こちらサイリス航空基地、応答感謝する。現在貴官は航空禁止区域に接近中である。ただちにこちらの誘導に従い着陸せよ』
「こちらアメリカ海兵隊航空機ヴァルキュリー、我々は指令本部の命令を受けている。よって貴官に従うことはできない」
『こちらサイリス航空基地、ただちにこちらの誘導に従い着陸せよ。これが最後通告である。従わない場合は撃墜する』
「ッ!? レーダに反応あり!」
「なんですって!」
撃墜するとは穏やかでない返答である。
レーダーに反応があった。寄りにもよって真後ろにだ。ここまで接近されてようやく後方に戦闘機がいることに気が付いた。ステルス戦闘機? 相手はロシアか中国あたりかしら。
戦闘機がコックピットから見える位置に着くと私は驚愕した。
どこから見てもそのステルス戦闘機はアメリカ軍の新型『F—35B ライトニングⅡ』である。
この『F—35B』は、V/STOL(垂直・短距離離着陸)機バージョンで、水陸両用戦隊の旗艦である強襲揚陸艦からの作戦はもちろんのこと、滑走路の有無によらず、わずかな啓開地からでも作戦行動に入ることができる。こうしたV/STOL(垂直・短距離離着陸)機ならではの能力に加え、通常型の戦闘攻撃機と同様にマッハ1.5以上の速度を持ち、高性能な火器管制制御装置を装備し、制空戦闘能力も高い。
いったい何者なのこいつら。
新型機が強奪されたなんて情報は一切聞いてない。さらに、離脱しようにもこの機体じゃどうやっても適わない。
「こちらアメリカ海兵隊航空機ヴァルキュリー、機長のアリアン・D・クレファー大尉。サイリス航空基地、了解した指示に従う」
『こちらサイリス航空基地、了解した。誘導に従い着陸せよ。協力感謝する』
「くっそ! なにが協力感謝するよ!」
非常に腹立たしい。
このまま着陸すれば私たちは拘束されるか殺されるだろう。だが、ただで奴らの思い道理になんてなってやるもんですか。そうと決まれば即行動あるのみ。
「モレア、操縦変わって。私ちょっと準備してくる」
「ちょッ! 大尉、準備してくるって! 待ってくださいよ何するんですか!!」
私は燃料、弾薬が満載の貨物室に走り、目的の物を手に取って次々に仕掛けていく。
準備が整い操縦席に戻ってくると滑走路が眼下に見えてきた。
森を切り開いて作ったのだろうがしっかりとした滑走路がそこにはあった。
管制塔に航空機の機体を入れるバンカー、燃料タンク集積所。火災が発生した際の消防車両まである。
「こいつらいったい何なんですか?」
「中尉いい質問ね。テロリストではないはずよ今のところ」
「テロリストが新型ステルス戦闘機を持ってたら今頃本土が戦場になります」
車輪が地面に付き、軽い衝撃が伝わる。どうやら無事に着陸できたようだ。無事なのは今のところだが現状は未だに危機を脱していない。
「モレラ、外に出てアイツらが私たちを拘束するか殺すかするならこの機体を吹っ飛ばすわよ。いい?」
「やっぱりそうなるんですね。はぁ・・・・・・軍に身を置いている以上覚悟はできてます」
『速やかに機体から両手を挙げて出てきてください。私たちはあなた達に危害を与えるつもりはありません』
スピーカーを使ってこちらに呼びかけが行われている。
貨物室の窓から外をちらりと見ると、『F—35B』の他にも『ハンヴィー』などの車両も確認できる。
さらにはロシア製の対空機関砲まである。ここには、兵器の展示会の如く多くの国の兵器がある。その銃口が私たちの機体に向けられてなければもう少し違った気持ちで見ることができただろう。
「私たちが何しようかわかってるみたいね」
周りを囲んでいる兵士は、距離を取っており機体を爆発したとしても被害を与えることは難しい。
どうやら覚悟を決めなければいけないようだ。
機体の後部ハッチを開けて、両手を挙げてゆっくり外に出ていく。
正面から1人歩いてくるのがわかる。その人物の後ろには『F—35B』が着陸していることから操縦士なのだろう。 日本人のような顔立ちに黒髪で鋭い目つきの対Gスーツを着た男だ。顔は・・・・・・合格かな?
何考えてるのよ私は・・・・・・。現実逃避はここまでにしよう。
モレラなんて神様に祈り始めたし。
私は祈らないけど。
さらに男はこちらに近づいきて驚くべき行動をとった。
「本当に申し訳ない」
「・・・・・・・はぁ?」
その男は私たちに偉そうに命令をするでもなく突然頭を下げて謝った。
思わず口から声が出てしまう。
返してほしいさっきまでの私の決死の覚悟を・・・・。
簡単な輸送任務がこんなことになるなんて、本当に私ってついてないわ。
そんな私の気持ちに喧嘩を売るかのごとく空は雲一つない綺麗な空であった。
どうなっちゃうんだろ・・・・・。
ご意見やご感想があればよろしくお願いします。
次のお話では本編を進めていく予定です。




