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『勇者召喚』

 大移動による世界の混乱。

 この世界―――――すべての原因である『女神』のシナリオ道理ではあるが、俺がいる時点でそのシナリオに綻びが出は始めている。


 本来のシナリオでは5人の戦姫が治める『ブリューナル』、『トレランシア』、『スクリロス』、『フォルティス』、『アグノス』の国々を飛竜(ワイバーン)が襲い壊滅的被害を与える予定であったが商業都市『シェール』で食い止めたため被害はほとんどなく大移動は過ぎ去った。

 それでも大移動が世界中で起こったことでそれまでの世界は一変した。


 魔物によって人類の生活圏が侵され、家族、家、国を失った人々が溢れた。安全な土地、食料、水を求め国同士、人間同士の戦争が起こりはじめた。世界中の人間が手を結ぶところを想像してみるのは自由だが、残念ながら人間にはそれだけの包容力と叡智えいちは備わっていない。


 そこで俺は絶対的な貧困に虐げられていた者達を軍事的に組織した。

 異世界初の民間軍事会社プライベート・オペレート・カンパニー―――――PMCの誕生である。


 傭兵とは、過酷で困難で危険な仕事である。今のご時世では過酷で危険なのは一般市民でも同じだが。

 労働力を戦争という仕事に売りつけている人間たちは、個人経営の場合が大半である。大きくても僅か数名で世界の各戦場で契約していた。

 基本的に傭兵たちは、いかなるイデオロギー(歴史的、社会的立場に基づいて形成される、基本的なものの考え方)、どこの民族意識、宗教思想にも心動かされることはない。支払われる報酬こそが関心のすべてなのだ。


 全員に銃を配備できればいいのだが、数が数なだけに管理が曖昧になりかねない。そのため剣や槍、弓といったこの世界の武器、防具も今後も使っていく。熟練の傭兵なら長年使い慣れた獲物の方がいいだろう。銃火器は体格的に大人に劣っている子供たちを中心に運用していく。

 戦争をするには、剣や槍、銃といった武器を使う。うまく戦争には兵士たちに適切な訓練を施し、適切な装備を提供、適切な作戦を計画する術を教える。


 机に座りながらコーヒーを片手に書類を片づけていく。

 目の前には中々減らない書類の山。

 現場に行って仕事をするとすぐに事務関係の仕事が溜まってしまう。書類に目を通しながらサインをし、書類を専属の秘書に渡していく。秘書も非常に優秀な人材をかき集めた。現在、俺の担当になっている秘書は元貴族の女性である。大移動により国を失った人間は多い。

 彼女も生まれ育った国から命かながら逃げてきて路頭に迷っているところをスカウトしたのだ。他にも彼女のような境遇の人間は少なくない。もちろん雇うにあたりその人物の経歴をしっかりと調べてある。


 新しい書類に目を通している時に無線通信を担当している隊員が息を切らせながら飛び込んでくる。


「報告します! レムール王国で勇者召喚の動向があると情報部から連絡がありました」

「レムールか・・・・・引き続き王都での情報収集を継続してくれ」

「了解しました。詳細はこちらに」

「ご苦労」


 極秘と赤い判が付いた資料を受け取り、隊員の敬礼に答礼をして送り出す。うちの組織の情報部は、国の諜報部にも匹敵する。メンバーの大半が元諜報員、情報部で固めてある。そして、その情報部を取りまとめている責任者は『人間』ではない。


吸血鬼(ヴァンパイア)』―――――東欧を中心としてヨーロッパ全土に伝承や伝説が数多く残る、死んだ人間が吸血の特性を持って復活した存在。吸血鬼は姿を消したり霧のような状態になってあらゆる場所に入り込めるため諜報活動にはとても向いている。それでだけではなく変身能力もあり、特に夜行性の生物に化けることもできる。


 情報部は様々な地域に工作員を配置している。その工作員から南の『レムール王国』で『勇者召喚』の動向が確認された。



 『勇者召喚』―――神が遣わした勇者を異世界より呼び寄せる儀式である。


 その勇者によりこの世界は救われるらしい。

 『勇者召喚』で喜んでいるのは想像力が足りない馬鹿どもだけだ。忌々しくて反吐が出る。

 要は自分たちではどうしようもないから違う世界の人間を拉致して無関係な世界の為に戦わせる。


 南の端の王国が神の信託を授かったなんて頭のおかしなことを騒ぎ出したのが1カ月前。それから瞬く間に勇者召喚を行うべきだという国が増えた。

 赤信号、みんなで渡れば怖くないだ。


 5人の戦姫が治めている『ブリューナル』、『トレランシア』、『スクリロス』、『フォルティス』、『アグノス』の国は勇者召喚には反対の態度を取っている。この世界で唯一、大移動による損害が軽微で済み他国に支援をする余力がありその発言力は大きい。その支援を受けている国も反対の姿勢を取っている。政治的なところが大きいだろう。

 戦姫たちが治めている国の次に国力がある『ダスラ帝国』では賛成派と反対派が存在しており、このまま馬鹿どもが増えてくれば帝国でも手に置えなくなり賛成派に傾いてくるだろう。


 俺たちは戦姫たちが治めている国を中心に部隊を展開し、『ダスラ帝国』にも小規模ではあるが拠点を何か所か確保している。しかし、現時点での戦力では作戦行動も限度がありどうしても王国までの部隊展開をしてしまうと兵站(へいたん)に穴が開いてしまう為することができない。


 兵站の中心は補給だ。部隊が必要とする食料、武器、燃料、燃料、交換部品、衣服、医薬品など膨大な量になる。この世界の軍隊は現地調達が基本だ。完結に言ってしまえば略奪である。

 異世界人にとっては忌避することだろうがこの世界ではそれが平然と行われている。国連のような機関が存在しない世界なのだ。仕方のないことだと言えるだろう。もっともその我々の世界の国連もしっかりと機能していたかは微妙なところだが。


 現地住民との軋轢を生んでしまうのは必然だろう。そのため我々は現地で物資を調達することはせず逆に無償で物資や医療などを支援をしている。自分たちから物をぶんどっていく輩よりは極めて良好な関係を気づける。支援のさいにかかる費用は必要経費である。

 少しでも部隊の危険がなくならばいくらでも金は使ってもいいぐらいだ。


「さて、ようやく紙の束から解放された。各方面に通達、進撃せよ」


 世界がいかに残酷で容赦のないか教える必要がある。

 勇者を使って助けてやるから言うとおりにしろなんて言っている奴らを蹴り飛ばしてやる。



  






 




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