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スプリングナイフの氷河  作者: 神通百力


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第七話 能力雪合戦⑤

 菫は足場から降りると、青色の(ブルー)花による(フラワー)壁(ウォール)を解除した。雪濠の内側に戻ると、明日香と狼牙チームの様子を伺い始めた。

 俺も同じように様子を伺う。すると明日香チームの雪濠の前に十体の人形が出現した。さほど大きくはなかった。いったい何をするつもりなのだろうか?

 警戒していると、右端の人形の横に薄く延ばされた真っ黒な円形の物体が出現した。十体の人形は吸い込まれるかのように、闇の(ダークネス)反射(カウンター)の中に飛び込んでいく。すぐに反射され、十体の人形は闇を纏った状態で出てきた。まさか闇の(ダークネス)反射(カウンター)が人形まで強化できるとは思わなかった。菫の方を見ると、どことなく嬉しそうに見えた。きっと自慢の姉なんだろうな。明日香にとって菫が自慢の妹であるように。

 視線を戻すと、十体の人形の口内から小型の人形が放出されていた。だが、小型の人形は縦横無尽に雪の上を駆けまわるだけでこちらに向かってこなかった。それにパワーアップした人形も仁王立ちしているだけで動こうともしていない。明日香が何を考えているのかが分からなかった。

「ああ、なるほど」

 菫は納得したように頷いた。何がなるほどなんだろうか? 俺の疑問を察したかのように、菫は小型の人形を指差した。そこでようやく俺も小型の人形の行動の意味を理解した。小型の人形は雪(・)を(・)踏(・)み(・)固(・)め(・)て(・)い(・)た(・)。それはすなわち歩きやすくなるという事に他ならない。パワーアップした人形が動かなかったのは先ほどのように、雪に足を取られる可能性があったからだ。

 準備は整ったとでも言うかのように、十体の人形が踏み固まった雪面の上を走り出した。しかし、十体の人形はすぐに止まった。怪訝に思っていると、無数の泡が雪面のギリギリまで浮遊して止まった。狼牙チームの方を見ると、波斬が雪濠から身を乗り出していた。

「泡の爆発(バブルプロミネンス)」

 波斬が叫ぶと、無数の泡が爆発した。爆風により雪が解け、畳二畳分ほどの水たまりと化した。それに続いて烈土が大量の砂を水たまりに沈めた。数秒ほどで浮かんだ砂は水を吸収し、泥と化していた。烈土の能力『砂(サンド)』は水を吸収することで『泥(マッド)』に変化する唯一の能力だ。

「泥の球(マッドボール)」

 泥は球状に変化し、雪面に向かって放たれる。すぐに雪を纏った状態で雪面から飛び出し、ゆっくりとしたスピードで十体の人形に向かって突き進んでいく。いつの間にか鷲に変貌していた狼牙が風を巻き起こした。加速した泥の球が歩みを再開していた十体の人形に激突する。しかし、泥の球をものともせずに十体の人形は前進する。闇の(ダークネス)反射(カウンター)により攻撃力だけでなく、防御力もパワーアップしたのかもしれない。

「氷河! 水の放射(スプリングブースト)を使って攻撃して!」

 菫は指示を出しながら、緑色の花による(グリーンフラワー)刃(ブレード)を投げてきた。俺は緑色の花が幾重にも重なった刃を受け取ると、かかと周辺から水の渦を噴出させて加速した。十体の人形は攻撃を阻むかのように、口内から小型の人形を放出した。

 俺は迫り来る小型の人形を緑色の花による(グリーンフラワー)刃(ブレード)で次々と薙ぎながら、突き進んでいく。勢いを殺さぬまま、十体の人形を真っ二つに切断した。いくらパワーアップしているとはいえ、加速により攻撃力が上がった緑色の花による(グリーンフラワー)刃(ブレード)の切れ味には耐えきれなかったようだ。

 俺はそのまま明日香チームの陣地に向かった。すると雪濠の前に木が出現し、何本にも枝分かれした。鉛筆のように先が尖った木が襲い掛かってくる。後方に下がりながら、緑色の花による(グリーンフラワー)刃(ブレード)で木を切り刻んでいると、明日香が雪濠の前に飛び出てくるのが見えた。それと同時に背後から闇が出現し、触手に形成された。

 明日香は雪面の上を駆け抜けながら、闇の触手で雪玉に回転を加えて放ってきた。雪玉は木の間を上手くすり抜けてこちらに向かってくる。

 俺は右で木を切断しながら左で雪玉を蹴散らしていると、数メートル先まで迫っていた明日香が何かを投げてきた。それは俺と明日香、蘭の三人で一緒に風呂に入った時の写真だった。いつの間にこんな写真を撮ったんだ? まさかあの時の光はカメラのフラッシュだったのか? やっぱり気のせいではなかったんだ。蘭の歯切れが悪かったのは明日香に口止めされたからかもしれない。あるいは蘭自身も撮られているから恥ずかしかったのかもしれないな。あの時、明日香は手にカメラを持っていなかったが、写真を撮った後、すぐに、闇の(ダークネス)反射(カウンター)で吸収して隠したのだろう。

 写真に映った明日香の裸に見惚れていると、いつの間にか明日香が目の前にいた。慌てて後ろに下がろうとしたが、時すでに遅く、至近距離で大量の雪玉が放たれる。回転が加わった雪玉は重く、俺は無様に倒れてしまった。

 明日香は俺を一瞥すると、すぐに前を見て構えた。明日香の視線の先を確認すると、薄弱が雪玉を投げる動作をした。手には何も持っていないように見えた。透明の雪玉を投げたのだ。明日香は微かに微笑むと、闇の触手を俺の体に巻き付け、強制的に立ち上がらせた。

「私の盾になってもらうわ。ここでリタイアすることになるかもしれないわね」

「ちょ、ちょっと待って――」

 喋っている途中にも関わらず、明日香は俺を薄弱に向かって投げつけた。薄弱が驚いたように目を見開くのが見えた。それと同時に背後からヒュッと風を切るような音が聞こえてきた。多分、明日香が闇の触手で回転を加えた雪玉を放った音だろう。このままでは大量の雪玉に体が挟まれてしまう。

「水……」

 能力を発動しようとした瞬間、体の正面に衝撃が走った。数秒の間をおいて背中にも衝撃が駆け抜けた。能力を発動する間もなく、俺は意識を失った。

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