第三話 能力レース⑥
明日香たちは身を潜めて戦いを眺めていた。
「うむ、明日香。戦いに参加しなくてもいいのか?」
蘭が戸惑ったように小声で囁いた。
「ええ。狼牙たちが曲がり角を折れるまではね」
明日香はちらり、と蘭を見て視線を戻す。その視線の先では仲間たちが次々と倒れていた。
『獣クモだぜ!』
狼牙が叫び、蜘蛛に姿を変貌させた。
『蜘蛛の糸』
狼牙の口内からネバネバした糸が発射された。仲間の何人かが食らって動けなくなっていた。
『ほあぁ!』
仲間は気合を入れて必死に抜け出そうと試みていた。が、ネバネバした糸が身体に絡まって動けないようだった。
仲間は徐々にこちら側に押し出されていき、狼牙たちは曲がり角を折れようとした。
「闇の反射」
明日香は目の前に薄く延ばした真っ黒な円形の物体を出現させた。
明日香は廊下へと出て行き、先ほど吸収した赤色の花による破壊を射出――否、反射した。
闇を纏った高密度のエネルギーが赤色の光線となって放たれる。その光線が仲間ごと狼牙たちを吹っ飛ばした。
身体の一部分を抉られた者、上半身を失った者、半身を失った者などがおり、血液と肉片を撒き散らしながら廊下に伏していく。壁は血液で汚れて肉片が付着し、瞬く間に廊下は血の海と化した。
「うふふふふふ」
その光景を見て明日香は笑う。
「うむ、やりすぎではないか?」
蘭は非難するような視線で明日香を見た。
「何事にもやりすぎということはないわよ」
「……いや、これはやりすぎだと思うが」
蘭は目の前の光景から視線を逸らし、俯いた。
「蘭。視線を逸らしてはいけないわ。ちゃんと見なさない。彼らは必死に戦って戦死したのよ」
そう言って明日香は涙を流す。
「……自分でやっておいて涙を流すとは」
蘭はほんの少しだけ怯えた表情をする。
「か、勝手に殺すなだぜ」
狼牙がふらつきながらも立ち上がる。呼吸が荒く、額に汗が滲み出していた。
「し、死にそうではあるがだぜ」
狼牙の右腹が半月の如く抉られている。ジャージが血液で染まり、背後には右腹と思われる残骸が散らばっていた。
「闇の影」
無数の闇の影が左右に揺らめきながら、姿を現した。
「私の可愛い影たち、存分に痛めつけてやりなさい」
無数の闇の影が瀕死の仲間たちを避けながら進み、難を逃れて無事だった者たちに襲い掛かる。
『のあぁ!』
相手は闇の影に手も足も出ず、呆気なく吹き飛ばされる。
☆☆
菫は壁にもたれて休憩していたが、建物が揺れた途端、即座に立ち上がった。
「お姉ちゃんが闇の反射を使ったんだ」
菫は呟き、どうするか考える。
明日香は菫に対し、後は仲間に任せなさい、と言った。仲間の事が信じられないの? とも。それに対して信じているよ、とだけ菫は答えた。
「……信じている。けど、仲間の危機かもしれない時に立ち上がらなくていつ立ち上がるの」
菫は自分の身体に鞭を打ち、階段を駆け上がる。
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