表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
婚約破棄された悪役令嬢は、農業チートで大地の女神に成り上がる〜隣国のイケメン王子と二人三脚で世界を豊かにします〜  作者: 黒崎 隼人


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
2/16

第2話「絶望の領地と一筋の光」

 翌朝、私は老執事のセバスに案内され、ヴェルモント領の現状を見て回ることにした。

 屋敷から一歩外に出た瞬間から、その惨状は明らかだった。

 かつては手入れの行き届いた庭園だった場所は雑草に覆われ、領地へと続く道は至る所がひび割れている。

 馬車に揺られながら窓の外を眺めれば、広がるのはどこまでも荒れ果てた土地ばかり。


「これが……ヴェルモント領……」


 私の呟きは、馬車の走行音に虚しくかき消された。

 畑だったであろう場所は、固くひび割れた土が剥き出しになり、雑草すらまばらにしか生えていない。

 痩せた土地、というレベルではない。

 これはもはや、死んだ土地だ。

 領地の中心にある村も酷い有様だった。

 傾いた家々の隙間を乾いた風が吹き抜け、すれ違う村人たちの痩せこけた頬には生気がなく、その身を包む布は擦り切れている。

 彼らは私たちの馬車を見ても、感情の抜け落ちた虚ろな目を向けるだけだった。

 かつて領主一家が通れば、皆が道を開け、頭を垂れたものだが、今は侮蔑すら感じられない。

 ただ、無関心。

 それが一番、胸にこたえた。


「セバス、どうしてこんなことに……」


 私の問いに、セバスは静かに首を横に振った。


「……旦那様は、王都での体面を保つことに必死で、領地の経営を顧みられませんでした。数年前からの不作続きで税収は落ち込み、それを補うためにさらに重税を課すという悪循環……領民たちの心は、とっくに離れております」


「父様……」


 見栄とプライドのために、足元にある一番大切なものを切り捨ててきた結果がこれだ。

 王都で華やかな生活を送っていた自分も、同罪ではないか。

 唇を噛み締めると、鉄の味がした。


「お嬢様、お気を落とさずに。まずはご自身のことを……」


 セバスは慰めてくれるが、そんな気休めは耳に入らなかった。

 このままでは、ヴェルモント家は間違いなく破産する。

 そうなれば、私たちは路頭に迷い、領民たちは見捨てられる。


『冗談じゃない……!』


 ゲームのシナリオでは、断罪されたリリアナの行く末は描かれていなかった。

 けれど、きっとこんな絶望的な状況に放り込まれ、プライドだけを支えに生き、惨めに死んでいったのだろう。

 そんな結末、絶対に受け入れられない。

 記憶が戻る前の「リリアナ」は、確かに傲慢でわがままな令嬢だった。

 でも、この領地で生まれ育ったのだ。

 この風景が、かつては豊かで美しかったことを、私も知っている。

 馬車を降り、私は乾ききった畑の土を、一掴み手に取った。

 サラサラと指の間からこぼれ落ちる、生命力の欠片もない砂のような土。


『でも……』


 その時、私の脳裏に、前世の記憶が鮮やかに蘇った。

 大学の研究室で、教授が熱弁していた言葉。


『どんな痩せた土地でも、土壌改良で再生は可能だ。必要なのは、知識と、時間と、そして何より根気だよ』


 そうだ。

 私は、ただの悪役令嬢じゃない。

 農業を専門に学んだ、農学部の学生だったんだ。

 この世界の農業技術は、驚くほど原始的だ。

 天候と土地の地力に頼るばかりで、体系的な知識がない。

 連作障害なんて概念も知らないだろうし、緑肥や堆肥の重要性も理解されていない。

 この死んだような土。

 でも、よく見れば、わずかに生き残っている草がある。

 どんなに過酷な環境でも、生きようとする生命がある。

 なら、まだ希望は捨てられない。


「……セバス。私、やるわ」


「お嬢様……?」


 振り返った私の顔を見て、セバスは息を呑んだ。

 きっと、今まで見せたことのない表情をしていたのだろう。


「私が、この領地を立て直す。この手で、この荒れ地を、豊かな農地に変えてみせる」


 それは、絶望の淵から生まれた、確かな決意だった。

 もう、誰かに与えられる幸せを待つのは終わりだ。

 悪役令嬢としての運命も、没落貴族の現実も、全部まとめてひっくり返してやる。

 私の武器は、前世の記憶――農業に関する膨大な知識。

 そして、この世界ならではの力、「魔法」。

 そうだ、この世界には魔法がある。

 水や土に働きかける魔法を使えば、土壌改良も灌漑も、もっと効率的にできるはずだ。

 乾いた土を握りしめる。

 指先に、ほんのわずかだが、魔力が流れていくのを感じた。

 私の魔力量は平凡だが、それでも無ではない。


『知識と、魔法。これを組み合わせれば……』


 目の前に広がる絶望的な風景が、今はもう、無限の可能性を秘めたキャンバスに見えていた。

 悪役令嬢リリアナ・ヴェルモントの人生は終わった。

 今日この瞬間から、農業家リリアナ・ヴェルモントの人生が始まるのだ。

 一筋の光が、厚い雲の隙間から差し込み、乾いた大地を照らした。

 それはまるで、私の新たな門出を祝福しているかのようだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ