第12話「愛する人と、新たな大地へ」
私たちの結婚式は、歴史に残るものとなった。
王族と農民が同じ席で祝いの酒を酌み交わし、両国の歌を歌い、夜が更けるまで踊り明かした。
それは、身分や国境を越えた、新しい時代の到来を象徴するような光景だった。
数日後、私たちは新たな人生への旅立ちの準備をしていた。
フォレスティア王国へと向かうためだ。
少し寂しそうな両親やセバス、そして組合の仲間たちに見送られ、私たちは豪華な王家の馬車に乗り込んだ。
沿道には、ヴェルモント領の、いや、南部組合の領民たちが、旗を振って集まってくれていた。
彼らは「お元気で」「カイル様、リリアナ様を頼みますぞ」「またいつでも帰ってきてください」と、次々に温かい言葉を投げかけてくれる。
彼らの笑顔と涙に、私も思わず目頭が熱くなる。
「ありがとう、みんな! 必ずまた帰ってくるわ!」
私は窓から大きく手を振った。
この土地と、ここにいる人々が、私の原点だ。
それを忘れることは、決してない。
馬車が走り出し、見慣れた景色が遠ざかっていく。
私の隣で、カイルがそっと手を握ってくれた。
「寂しいか?」
「ええ、少しだけ。でも、不安はないわ。だって、あなたと一緒だから。それに、向こうにも私がやるべきことがある」
私の言葉に、カイルは満足そうに頷いた。
「ああ。フォレスティアの民も、新しい王妃様の到着を心待ちにしているぞ。特に、農業ギルドの連中が、お前の講義を受けられると息巻いている」
「ふふ、楽しみね。私の知識が、あなたの国でも役に立つといいのだけれど」
「役に立つに決まっている。お前は、俺の、そして俺たちの国の、豊穣の女神なんだからな」
カイルはそう言うと、私の手の甲に優しくキスをした。
フォレスティア王国は、アルセリアの広大な平野とは趣の異なる、深く蒼い森と澄み切った湖に抱かれた美しい国だった。
首都に到着すると、想像を絶するほどの大歓迎を受けた。
王妃リリアナの到着を祝う国民たちの熱気は、凄まじいものがあった。
私の新しい生活は、王妃としての公務と、農業改革の指導者としての仕事、その両立から始まった。
最初は戸惑うことも多かったが、カイルがいつもそばで支えてくれた。
彼は王族としての立ち居振る舞いを教えてくれる最高の師であり、畑仕事の合間に冗談を言い合う最高のパートナーだった。
私たちは、フォレスティアの土地に合った新しい農法を開発し、湖の水を利用した大規模な灌漑システムを設計した。
アルセリアの農業学校との交換留学制度も設け、両国の若者たちが互いに学び合い、技術を高め合っていった。
悪役令嬢から、農業の女王へ。
私の人生は、本当に大きく変わった。
けれど、根っこにあるものは何も変わっていない。
土を愛し、作物を育て、人々の笑顔を見たい。
ただそれだけだ。
そして今、私の手の中には、かつてのエドワード殿下から与えられた冷たい宝石の婚約指輪ではなく、カイルから贈られた、彼の瞳の色をした温かいエメラルドの指輪が輝いている。
これは、私が選んだ人生。
私が掴み取った幸せ。
馬車は、私たちの新しい住まいとなる離宮へと向かっていく。
その窓から見えるのは、無限の可能性を秘めた、緑豊かな大地。
「さあ、着いたぞ、リリアナ。俺たちの城へ」
カイルと共に馬車を降り、新しい人生の扉を開く。
愛する人と共に、この豊かな大地の上で、新しい物語を紡いでいこう。
私の農業成り上がり物語は、まだ始まったばかりなのだから。




