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棲み潜む空腹:第五話

「さぁて、諸君。天星珈琲店兼、天星探偵事務所へようこそ!」


ガラリと引き戸を開けた周さんが颯爽と中に入ると、大仰な様子でバッと腕を大きく広げる。

芝居がかった仕草だけど、こういうのが似合っちゃうのが周さんなのよねぇ。

でも、連れてこられた虎落(もがり)さんは、周さんの方なんかちっとも見ていなかった。

山吹堂の店内を、おっかなびっくりという顔で見まわすので忙しいみたい。


「なん、というか……ずいぶんと雰囲気のある……お店、ですね……」

「ん? そんなに固くなるほど、怖い感じがするか?」

「うーん……骨董品のお店って、ちょっと独特ですからね。慣れてない人は、ちょっと緊張しちゃうのかもしれませんねぇ」


身体も表情もカチコチに硬くした虎落さんは、どうやらお店の雰囲気に飲まれちゃったみたいね。

気持ちはわかるわ。私も、最初の頃は商品を壊すんじゃないかとか、ナニカ憑いてるんじゃないかとか……いろんなことを考えちゃったもの。


「何はともあれ、兄さんの口を軽くするための飲み物が必要だな。何か飲み物でも入れてくるか」

「え、あ……どうかお構いなく!」

「いやぁ。客に何も出さないなんて、珈琲店の名が廃るってもんよ! とはいえ、今日はうっかり豆を切らしてるから、紅茶か何かなんだけどな!」


どこかぎこちない虎落さんに「自慢の珈琲は、まだ別の日に飲みに来てくれ!」なんて言いながら、周さんが厨房に足を向けた。

ヒラリと振られた手が厨房へ引っ込んでいくのを見送って、私は喫茶スペースの椅子を引いて虎落さんを差し招く。

外の明かりが程よく入る、窓際の席だ。ここなら適度に明るいから、山吹堂に漂う雰囲気も緩和される、はず……!


「あの、虎落さん。こちらへどうぞ」

「あ……お気を使わせてしまってすみません……」


大きな背中をちんまり丸めて、首を竦めるようにして椅子に座る虎落さん。

借りてきた猫、って、こういう状態を言うのかしら? ちょっと可愛いかも、って思っちゃったわ。

それでも、少し明るい場所に腰を落ち着けたことで、少し気持ちを持ち直したんでしょうね。少しずつ虎落さんの身体から力が抜けていく。

ようやく人心地着いたらしい虎落さんを見届けて、その対面に私も腰を下ろした。


「あ、えっと……さっきの話だと、藤嶺くんは天星さんの手伝いをしてるんだよな? ということは、ここで働いてるってことかい?」

「はい。接客をしたり、お料理を教えてもらったり……時々、骨董品店の方のお手伝いをしたりもします」

「まだ子どもなのに、凄いな! 僕はちょっと……壊してしまいそうで怖いと思っちゃうよ」


ハハハ……と、乾いた笑いを漏らす虎落さん。

……ん? んんん??? ちょっと待って? 今、私、「まだ子ども」って言われた? これでも、もう十六なんだけど??


「あの、虎落さん……私、もう十六なので、子どもというわけではないのですが……」

「えっ、噓だろう!? まだ十二とかそこらだと……」

「え……?」

「……え……?」


お互いに見合ったまま、しばし無言の時間が過ぎた。だって、思った以上に年下に見られてて、何て言えばいいのかわからなかったんだもの!

激しく目を泳がせる虎落さんが生唾を飲み込むゴクリという音が、妙に大きく響く。

そりゃ、確かに同年代の子と比べたら、少~~し背は低いけど……そんな子どもに見られるほどじゃないと思うのよね。


「あ~~……雪ちゃん、ちょっと小さいもんなぁ。でも、オレが初めて会った時は、もっと小さかったぞ」

「そんなに小さかったですか? 同年代の子と、そこまで変わりはないと思ったんですけど……」

「オレからしたら、大分なぁ……」


厨房から戻ってきた周さんが、テーブルにカップを並べながらカラカラと笑う。

うう……周さんにも言われるほど、私って小さかったのかしら?

……でもそれって、周さんの背が、他の人たちよりもちょっと高いせいもあると思うのよね。

ふわりと甘い香りを漂わせるカップが、それぞれの席の前にコトリと置かれる。揺れる水色(すいしょく)は、澄んだ琥珀色。

周さん、珈琲を淹れるのも上手だけど、紅茶も美味しく淹れられるのよ。凄くない?


「お茶請けは……さっきの店でそれなりに腹に入れただろうから、まぁ軽めになー」

「砂糖がけのビスカウト……確かに軽いといえば、軽いですけども」


最後にテーブルに置かれたのは、薄桃色や薄緑の砂糖衣がかかった、軽焼きのビスカウト。

確かに、物理的にも味的にも腹持ち的にも軽いから、そこそこ飲み食いしたお腹にも優しいと思うわ。

早速手を伸ばして頬張ると、ビスカウトはサクサクのホロホロで、舌に落ちた砂糖衣がトロッと蕩けていく。これが、温かい紅茶とよく合うのよね。

遠慮なしにお茶菓子を食べる私に釣られたのか、虎落さんも紅茶のカップに手をかけた。


「僕、あまり紅茶は飲んだことはないのですが、これは何というか、その……すっきりしてて、渋くなくて……美味しいです」

「それは良かった。美味い紅茶で緊張がほぐれたところで、詳しい事情……ってやつを話してもらおうか」

「はい。正直、自分でもまだわからないことだらけで支離滅裂な話になるかと思うのですが……効いていただければ幸いです」


キリッと表情を引き締めた虎落さんが、椅子の上でシャキッと背筋を伸ばした。

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