31話
これで32話が33話になった。
馬小屋で寝て起きた頃には昼前。
アルフェの魔法で洗いたての犬の様にサッパリした後、手分けして森籠りの準備を整えることとした。
「取り敢えずテントは必要だよな~」
「そうだな。後は鍋」
「鍋?」
「鍋があると煮込みが出来る。スープを作る事だって出来ないことはない」
と、必要な物資の擦り合わせも行う。
ただ問題は手持ちの金が17170リルぽっちりしかないということ。
スケルトンは19体程倒しているので討伐報酬だけでも二万以上は入るはずだが、それでも心許ないしアルフェの妖精の塵も全然貯まっていない。
「……テントって……作れたりする?」
とは、トータの提案。
「……そりゃあ、作ろうと思えば何でも作れるだろうがな……」
そこら辺で良い感じの木を良い感じに組んで結んで……といったような物であれば作れないこともない筈だ。
(……これ、なんていうかサバイバルサンドボックス……)
ゲームのジャンルが変わって来ることになる。
「んでも代替が効かんのはやっぱ鍋だろ?」
「……まあ、そうか。じゃあ鍋優先だな」
「んじゃあ俺はギルドで報酬受け取って時間あるならテント見に行くわ」
「なら俺が鍋を見に鍛冶屋の爺さんのとこだな」
ということはアルフェはトータの方である。
こうしてクレハは鍛冶屋へと向かった。
「こんにちわー」
寂れた扉を開けて埃っぽい店内に入る。
キョロキョロと鍋を探していると奥からドワーフ爺が出てきた。
ドワーフ爺はクレハが背負った大量のスケルトン武器をジロリと睨み──
「……廃品か」
「それと鍋を探しに……」
「……奥に置きにこい。鍋も奥だ」
物置(倉庫?)のような場所に案内されたクレハは早速戦利品を床に置いた。
骸骨の戦利品は弩×2、弓×2、直剣×2、曲刀×4、槍×6、棍棒×1、矢×15。
弓と棍棒は木のみなので関係なく、弩は金具だけ、槍は穂先だけ、矢は矢尻だけを持ってきている。
屑鉄買取り価格は計335リル。
ここでクレハが取り出したのはあの狗頭人の曲刀である。
「これって使えそうか?」
「……」
ドワーフ爺は不機嫌そうな顔付きで曲刀を切っ先から柄まで睨め付ける。
そしてやはり不機嫌そうな顔でフン、と鼻を鳴らすと……
「研げば使える、がお前らに扱えるとは思えん」
「だよなぁ……」
クレハとしてもこの鉤爪の如く湾曲した刃を十分に使いこなせる自信はない。
「大銀貨4枚で買い取ってやってもいい」
「──えっ!?」
まさかの4万リル。
確かに今クレハが携えている小剣が5万リルなので妥当と言えば妥当か。
「……俺らが持ってても持て余すだけなら買取りで」
「いいだろう。蜥蜴人の物か?」
「いや、狗頭人だ」
「ふん……まあ悪くはない」
そこに違いはあるのだろうか。
「……それとその剣だが」
と、ドワーフ爺がクレハの小剣を指差す。
「ん?ああ」
クレハが小剣を手渡すとその刀身をしげしげ眺めて──
「……これではもう役不足だ。別の物に替えろ」
「え?と、というと……買い替え?でも金はそんなに……」
狗頭人ソードのお陰で思ったより余裕は出来たが買い替える程の余裕は依然としてない。
「金はいい。付いてこい」
「それなら……」
随分気前の良い話である。
変わらず不機嫌そうな顔ではあるがドワーフ爺に付いていく。
奥は鍛冶場のような所だった。
炉のような物、金床、鎚、積み上がっているのは砥石か……
「……ん?」
砥石の山の横に立て掛けられられている物が目についた。
ぬるり、と底冷えするような光沢を放つ真っ黒い刀──いやサーベルか。
「あれはお前の手には余る。お前はこっちだ」
その異質さに眼を惹かれているとドワーフ爺がそう釘を刺す。
「いや、黒染めなんて珍しいなと」
「そうか」
クレハはドワーフ爺の横をすり抜けて奥に向かう。
「……俺にもな」
そうボソリと呟いたのが聞こえたが追及はしなかった。
「まずはコイツだ。振ってみろ」
と渡されたのは両手剣。
刃渡りは160cm──クレハの身長よりやや短い程度。
大剣と称しても良いかもしれない。
両手で柄を握り、大上段に構え──
「──せいっ」
ぶんっ、ぶんっ、と振るってみる。
ズッシリとした重さは感じるが振りに問題はない。
なんたる膂力。
現実でこんな剣を振るえば剣の重さに転倒は必至の筈。
つまり振れる。
しかし──
「……少し長過ぎる気がする」
「そうだな」
次に渡されたのは片手剣。
トータと同じ物だ。
ヒュンヒュンと上中下段と軽く振るってみる。
「良い感じだ」
両手剣に比べて遥かに自在に振るえる。
ドワーフ爺はというと──
「……、……」
何やら考え込んだ後別の剣を渡してきた。
両手剣程長くはなく、片手剣程短くも軽くもない。
つまりこれは──
「……片手半剣?」
「ああ。振ってみろ」
刃渡りは120cmといった所だろうか。
「──ふっ!……ふっ……!」
大上段からの打ち込み、からの右下から左上へ逆袈裟斬り。
なんと言うか、しっくり来る。
動きに変な抵抗を感じない、されど刃に重みが乗る。
「それでいいな」
ドワーフ爺はそう言うと鞘を渡して来る。
「ああ。ありがとう」
「ふん」
「鍋は……これでいいか」
「大銀貨2枚」
倉庫の隅に置いてあった鍋はお値段2万リル。
ついでに4500リルのお玉も買って合計24500リル。
残金は33005リル。ここにトータが持ってくる討伐報酬が足される。
「あ、そういえば……」
と、クレハが懐から取り出した物は──
「……」
ドワーフ爺が凄く嫌そうな顔をしたソレは狗頭人の毛皮であった。
(あ、意外と犬皮はあんまり受け入れられてないんだな)
などと、思いつつもクレハは質問する。
この位に(言い方は悪いが)野蛮な世界観なら犬皮くらいなら忌避感なく使われているかもしれない、と思っていたクレハだったが予想を外した訳である。
「これってどこかで売れたりするか?」
「……少なくとも、ウチじゃ扱わん」
ドワーフ爺に物凄く嫌そうに答えられた。
「……魔法使い連中なら、使うかもしれんが」
と、いうことは魔法屋ババアの所にでも持っていけば良いのだろう。
妖精の塵は貯まっていないが魔晶が三つ程あるので嫌な顔はされても無下にはされないだろう。
次の行き先が決まった。
そんなところでドワーフ爺が──
「これと、これとこれ。持っていけ」
と、先ほどクレハが試し振っていた両手剣と──あと両手剣と片手半剣、よくよく見れば刃の潰された物を渡してきた。
「えっ?な、なんで?」
突然の大盤振る舞いに目を白黒させるしかないクレハ。
ドワーフ爺はまず刃のある両手剣を指差して──
「……ソイツはあの威勢の良いののと取り替えろ──」
トータの片手剣と交換してこい、ということだろうか。
次に刃の潰された二本を差して──
「──コイツらはお前らの鍛練用だ。貸してやる」
「……な、なるほどレンタルか……いや、でも良いのか?正直タダで出来る範囲は越えてるぞ」
レンタルということは壊せば弁償とはなるだろうが、未だにこの世界の金銭感覚を掴みかねているクレハにも、これがかなりの大盤振る舞いである事は分かる。
「金なぞどうでもいい。用が済んだならさっさと出ていけ」
だがドワーフ爺はそれだけ言うと倉庫の物を適当に片して奥の鍛冶場に引っ込んでいく。
「あ、ありがとう」
返答は肩越しにふん、と一つ鼻を鳴らしすだけだった。




