18話
2023/12/19 羽→翅に変更
その日も草原を抜けて森に入り迷宮に潜──
「……迷った」
──れなかった。
森の中、突如として霧に包まれ道を見失った。
「どうなってんだこれ。MAPは?」
「……どうにも変だ」
迷宮に向かって歩いていても突然別の場所を歩いている事になる。
「なんだそれ……」
何とも唐突にホラーチックな現象である。
「神隠しかよ……」
「ヨーロッパチックだから妖精の悪戯じゃね?」
等とげんなりしていると──
クス、クスクス、と笑い声が辺りに響き始めた。
ホラーに拍車が掛かる。
「何笑てんねん!ゴラァ!」
トータは怒り、クレハは剣を抜いて構える。
『怖い怖い、怖いねー。ちょっと悪戯しただけじゃーん』
何処かから子供の様な声が響く。
「出てこいやおんどりゃ!生皮剥ぎ落とすぞ、この野郎!」
『ヒエッ、やっぱ人間はおっかないね~』
と、そんな謎の声に対して本当のおっかなさを見せ付けると言わんばかりのクレハが──
「……トータ、森に火をつけて炙り出すぞ。〈発火〉だ」
「オーケー!やってやろうじゃねえの!」
近場の木に着火せんとにじり寄る二人。
『えっ、ちょっ、待った待った!それはやめて!森が焼けちゃったらアンタ達も困るでしょ!?』
「俺らは迷宮に行ければそれでいいし~」
『まっ、待って!待ってやめて!ごめんなさい!謝るからやめてー!』
と、他の木の後ろから小さい何かが飛び出し二人が着火せんとしていた木の前に立ち塞がった。
それは小さい人型。
「……ガチで妖精じゃん!?」
「このヤロー!金が無くて忙しいってのにやってくれやがったな!」
『ごめんなさいごめんなさい!だから痛いのはやめてぇー!?』
トータは握った妖精をブンブン上下にシェイクしていた。
流石に可哀想なので──
「まあ、そんくらいにしてやれよ」
そんなクレハの静止にふん、と鼻息一つついて妖精を開放してやるトータ。
当の妖精はフラフラと死にかけの羽虫の如く飛んで木の幹に片手を付く。
妖精の大きさは10cm前後。
葉っぱのドレスを着ており、輝くトンボのような翅が背中から生えていた。
「で?こっちにちょっかい掛けた弁明は?無いなら切り捨てるけど」
先程の静止は苦しめるよりさっさと殺してやれという意味だったようだ。
クレハは妖精に剣先を突き付ける。
『ちょ、ちょちょちょ、待って!害意は無いんだって!本当に、ちょっとした悪戯のつもりでやったんだよう!!』
「よくもまあ、抜け抜けと……」
最早怒りを通り越して呆れ。
そんなクレハにトータがコッソリと耳打ちする。
「……流石に殺すのはやべぇんじゃねえの?何かのクエストの導入かもしれんし……」
そんな提案に一理ありと判断したのかクレハは剣を納めた。
「……今回は大目に見てやる」
『ほっ……』
胸を撫で下ろす妖精。
「じゃ、さっさと行くぞ」
「今日は目標12体な!」
妖精を見逃して迷宮へ向かおうと──
『あっ!待って待って!お願いしたい事があるんだよ!!』
と、妖精が呼び止めて来る。
((……クエストだ))
確信する二人。
まずはクレハが殺意の籠った視線で振り向き──
「こンの後に及んで“お願い”ィ~~?思い上がりも甚だしいなぁ~~?」
『ヒィッ!?』
妖精に詰め寄る。
更に鬼の形相になりつつ恫喝を続ける。
「ヘビの餌にでもしてやろうかぁ?羽虫ィ~~!」
『ごめんなさいごめんなさいごめんなさい~!』
そんなクレハの肩に手を置いて──
「まぁまぁまぁまぁ、クレハさんや。そうカッカッせずにさあー。話くらいは聞いてやろうや?」
トータのフォローが入る。
クレハはチッ、と盛大な舌打ちをして不機嫌そうに下がる。
「んで?お願いってのは?」
『う、うん。実は……』
妖精の話はこうだ。
妖精──小妖精のアルフェと名乗った──は妖精郷を旅立ち、行き着いた先で仲間達と面白おかしく暮らしていたそうなのだが、ある日その仲間の内の一匹が失踪する。
探し回るも見付からず諦めていたのだが、突然失踪した仲間が帰ってきたらしい。
しかし喜んだのも束の間、帰ってきた仲間は邪悪な様相に変貌しており、他の仲間を次々襲って食ってしまったのだとか。
『絶対小鬼共のせいだ!じーちゃんはアイツらに何かされたんだ!!』
とはアルフェの談に過ぎない。
その邪悪に染まった仲間こと“じーちゃん”とやらを例の霧の魔法で抑え込み続けているのだが、彷徨ってる内に森の浅い所まで来てしまったらしい。
霧の魔法は森の中限定。
このまま平原に出てくれば街まで一直線だとか。
『それにあんなんじゃじーちゃんが可哀想だ!』
つまるところ楽にしてやって欲しい、という所だろう。
「ほーん、なるほどねぇ」
トータは神妙な顔でしげしげと納得したように頷いていた。
「……で?報酬は?」
とはクレハの突っ込みである。
世の中、特に今のクレハ達にとっては金が全てであった。
『えっ!?ほ、報酬!?えっと……えーっと……』
どうやら報酬について考えてなかったらしい。
アルフェはキョドり散らかしていた。
「いんやー。俺は別にね、助けるのも吝かではないンだけどねぇ。ほらあ、クレハがこうじゃん?クレハが居ないと流石に倒すのは無理かなぁ?」
トータが誠に残念!といった表情でそんなことを宣う。
「利が無いなら無理だな」
「そぉですかぁー。では今回はご縁が有りませんでしたということでぇ……」
『ま、待った!アレだ!あの……人間がよく採ってく草!アタシならアレの場所分かるぞ!』
「お」
「それってどんなん?」
『え、えっとぉ……あっ!あそこにあるやつ!』
アルフェの指差す木の根本には何やら見覚えのある草が……。
「──!薬草か!」
〈解析〉を使ったクレハが驚嘆の声を上げる。
そう、クレハ達がかつて金策に……と考えるも断念した薬草である。
『よく採ってるんだし人間共の中じゃ何か貴重なんじゃないのか!?他にも森の事なら何でも分かるぞ!』
「……って事らしいが、クレハ」
「ああ。その話、請けよう」
『ほ、ホントか!?ありがとう!ありがとう!!』
“良い警官悪い警官”の真似事などして搾り取ってやろうとしていた二人は、半泣きで純真無垢に感謝してくるアルフェに若干心を痛めつつも──
「ま、まあ俺らに倒せるかどうかはソイツ見てからだがな」
「そうなったらレベルが上がるまで待って貰うことになるんだけど……」
一応予防線を張っておく。
『それでもいい!ありがとう!ありがとう!人間って怖い奴らだと思ってたんだけど……アンタら良い奴らなんだな!!』
少し気まずそうに視線を交わしつつ、何はともあれクレハとトータは森のガイドの手に入れたのだった。
妖精は人間を騙すし人間は妖精を騙す。




