5話
VRゲームの名前、未定です。
11/29 脱字修正。
その日もいつもと変わらない。
朝起きて、支度をして、家を出る。
ごく一般的な中学生三年の日常だった。
片道徒歩20分。
暮羽はいつも朝のHRの10分前程度に着くように家を出ている。
教室に入るとそこそこ話す程度の男子グループとすれ違い様に挨拶を交わして席に着く。
暮羽がじゃんけんにて全クラスメイトを討ち倒し手にした窓際最後方の席である。
なお教壇に立った場合、心理学上かなり判別しやすい席であるが、暮羽がこの事実を知るのはまだ先の話。
席に着くと先程の男子グループの内の一人が寄ってきた。
「なぁなぁ遂に今日だぜ」
「何が?」
「○○○(ゲーム名未定)のアーリーアクセス開始日!知らねえのかよお前……」
それは暮羽が昨日やっていたVRゲームの事だった。
アーリーアクセス。
しかも開始日は今日。
困惑したがこれで昨日他のプレイヤーを見掛けなかった事に合点が行った。
つまり暮羽は何故か本来プレイできる筈の日の前日からプレイ出来ていたという事になる。
(なんでそんなことが……そう言えば親父が取引先がゲームの会社だったとか……)
些かの不安を感じつつ、それは尾首にも出すつもりはない。
「そうなのか、全く知らなかった」
「いいよなー当選者。あーあ俺もやりてぇ~」
「お前受験控えてるだろうが」
「うるせー私立受験」
「でもアーリーアクセスって事はまだ未完成なのか?発表から半年も経ってないし」
と、白々しいがそんな事を聞く暮羽。
当然完成度は昨日見ている。
「ちゃうちゃう。サーバー負荷の試験だとさ。1ヶ月間は4000人を一週間毎に分けて入れてくんだと」
「へぇ慎重だな」
「だよなー。あー俺もやりてぇぇぇ」
その日もいつも通り授業を受けて帰宅したのは午後4時前。
「おはえいー」
「ただいま」
真冬にアイスバーを食べている妹は放っておいて手洗いを済まし夕飯の為に炊飯器を仕掛ける。
「宿題しろよ」
「うるさーい、分かってるー」
二階に上がりベッドに横たわるとチョーカーを起動する。
降り立ったのは昨日ログアウトした場所と同じである。
(俺の考えが合っているなら俺がログアウトしてから九日程度経っている筈……)
時刻は早朝といった所だろうか。
(そういえば冒険者ギルドとか言ってたな)
昨日の守衛のおっさんとの会話の事である。
聞くところによると確か街の中心広場近くにある筈。
クレハは恐らく街の中心と思しき方向へ歩きだした。
街の中心は広場になっており、その一角に冒険者ギルドはあった。
中は酒場のようなものが併設されている。が、早朝だからか人入りはほぼ無い。
カウンターにも数人程度しか受付が居なかった。
人が少ないお陰で冒険者登録は素早く終わらせる事が出来た。
冒険者には資格証が発行され、実績に応じて銅→鉄→銀→金→白金と等級が上がっていくらしい。
資格証には討伐した魔物が記録され、有害度に応じて報酬が出るとのことだ。
ちなみに登録手数料は銀貨二枚。
受付は2000リルと言っていた。
これにてクレハの全財産は銀貨7枚、大銅貨5枚、銅貨3枚。
つまり7530リル。
となる所であったが冒険者ギルドには素材を売り払う為に来た。
毛皮一枚120リル×4、兎肉一塊110リル×7(驚くべき事に腐っていなかった)、兎の角一本70リル×3。
合計1460リル。勿論ここから買い取り手数料が引かれる。
10000リル未満の買い取り手数料は500リル均一なので960リルの収入である。
これにて全財産は8490リル。
「足しにならない」
兎を仕留める程度では足しにならない。
ちなみに10000リル以上の買い取り手数料は買い取り額の一割との事。
ならば10000リル未満に分けて何度も買い取って貰えばいいじゃないか、という事に関しては買い取りは各人一日一回のみという制限が付いているので実用的ではない。
(日々を過ごすなら一万も無くて事足りる。であればわざわざ強いモンスターに挑む必要もない。だけどそうもいかない)
やはり草原の奥に見えた森に入るべきだろう。
(森に入って生き残れるのか……)
昨日の角兎ですらあの体たらくだ。
囲まれでもしたら死んでいた筈。
痛覚はある。実際よりも恐らく弱い、さりとて無視出来るほど弱くはない程度の痛みが。
(どうするか……)
──と、歩いていると。
「なぁアンタ!」
ポン、と肩に手を置かれた。
「ぅおわ!?」
驚いたクレハは思わず腰の小剣を抜き放って振り返り距離を取った。
「わぁ!?ちょっちょタンマタンマ!」
慌てて両手を上げたのはクレハとさして変わらない程度の年齢の青年であった。
「あ、すまん」
クレハは一言謝ると剣を収める。
スポーツカットの快活な好青年だ。
雰囲気が最早明るい。
「いや、こっちこそ突然声かけて悪かった。他のプレイヤー見付けたから思わず……」
「……ってことはプレイヤーなのか」
「おう!アンタもそうだろ?」
まさに太陽の笑顔、といったサムズアップあった。
しかし青年は一転困ったような顔になる。
「そんでさー突然こんなとこ放り出されて困ってんの。アンタはその剣とかどうやって手に入れたの?」
「ああ、それなら──」
クレハは青年をドーワフ爺の鍛冶屋と冒険者ギルドに案内した。
青年は7万リルで片手持ちの直剣を買い、クレハと同じウエストバッグを買って8740リル。
更に登録手数料で2千取られて残高6740リルだった。
「いやー助かった!ありがとな!」
冒険者ギルドから出てきた青年はニカーっと笑って言う。
「別に。最初は分からない事だらけだからな」
「いやいやマジで助かった。──あ、自己紹介まだだったな!俺トータ!よろしくな!えっと……」
「クレハだ。見た感じ同年代だし呼び捨てでいいよ。俺も呼び捨てにする」
「そっか!よろしくな!クレハ!」
二人は握手を交わす。
「良かったら戦い方とかレクチャーしてくれよ!」
「良いけど教えられる程慣れてない」
「でも剣抜く動きとか素早かったじゃん。それに一人より二人で戦った方が強い奴も倒せるし!」
「それなら森まで行こう。草原のモンスターは稼ぎにならないし」
「そうなのか?まぁ、取り敢えずパーティー送るわ」
トータが何やらウィンドウを操作するとクレハの目の前にもウィンドウが出てくる。
『トータからパーティーに招待されました』
(こういうのもあるのか)
取り敢えずパーティーに参加して二人は街を出ることにした。




