4話
婆さんに着いていくと奇妙な店に着いた。
「入りな」
婆さんに促されて中に入ると店内にはでかい壺、水晶玉、本、変な形の棒……といった珍妙な物が陳列……いや物置に置くなような乱雑で放置されていた。
「な、なんだこれ……」
「魔道具だよ。そんな事も分からんのかい。そこで待っとりな」
婆さんはそう言いながら店の奥へ消えていく。
恐らく荷物を置きに行ったのだろうか。
埃っぽい店内でボケーっと立っていると婆さんが出てきた。
「何ボケッとしてんだい。座りな」
「あ、はい」
カウンターのスツールに座る。
大分年季が入っているのかギシッと音を立てた。
「そもそもアンタ魔法使ったことはあるのかい」
「無いです」
「……なんてことだい。じゃあこれも使ったことないのかい?」
そう言うと婆さんは自分の手首──丁度脈を計る辺り──をトントン、と指でつついた。
すると、最初にキャラクターの名前やステータスを設定した時に見た透明な板が浮かび上がる。
「うわ、何ですそれ」
「マジかいアンタ……こりゃステータスウィンドウだよ。〈自己解析〉は魔法の初歩も初歩だってのに……」
「〈セルフ・アナライズ〉?」
クレハがそう言った瞬間。
何か生暖かい物が全身を駆け巡るような感覚。
そして何やら幾何学的な紋様と、謎の文字列が脳内に浮かび上がり──
「うわ!?なんかでた!?」
何と、婆さんと同じように透明な板が出てきたのだ。
「えっ?な、なんか出来ました」
「……変な魔力の動きだねぇ。……ほら出来たんなら帰った帰った」
婆さんに興味を無くしたと言わんばかりにしっしっと追い払われたのでお礼を言って店を出る。
「な、なんなんだこれ……」
◆
クレハ Lv,3 男 人間
【称号】
〈御使い〉
【職業】
〈剣士〉
【能力値】
VIT:30/30(+0) (10)
MAG:30/30(+0) (10)
STR:30(+0) (10)
DUR:30(+0) (10)
QUI:30(+0) (10)
LUC:30(+0) (10)
AMP:30(+0) (10)
ATT:30(+0) (10)
【属性値】
FI:30(+0) (10)
TH:30(+0) (10)
IC:30(+0) (10)
AQ:30(+0) (10)
WI:30(+0) (10)
EA:30(+0) (10)
LI:30(+0) (10)
DA:30(+0) (10)
【技能】 SP:300 (100)
〈片手剣術 Lv,1〉
〈両手剣術 Lv,1〉
〈無属性魔法 Lv,1〉
〈見切り Lv,1〉
〈回避 Lv,1〉
【付与効果】
W I T H O U T
【特性】
〈戦闘適性(天賦) D+〉
【武器】
〈鉄の小剣〉
【防具】合計DUR+0
〈白いシャツ〉DUR+0
〈肌着〉DUR+0
〈黒いスラックス〉DUR+0
〈下着〉DUR+0
〈靴下〉DUR+0
〈革靴〉DUR+0
【装飾品】
〈革のウエストバッグ〉
◆
板──ステータスウィンドウには名前やステータス、スキルといった様々な項目が表示されていた。
ふと、ウィンドウの上部を見るとタブがある。
(……オプション……!)
迷わずオプションタブを開く。
何やら様々な項目があるが画面右下に表示された“ログアウト”の文字の前には全てが些事であった。
迷わずログアウトを押すと『Tips:セーフゾーン外でログアウトした場合アバターの消滅までは5分間のカウントが発生します。セーフゾーン内でログアウトした場合アバターは即時消滅します』なるアドバイスとログアウトの確認画面が出てきた。
確認画面には緑の文字で『セーフゾーン圏内です』と表示されている。
迷わずログアウト。
フォン、という刹那の浮遊感と共に五感がブラックアウトしていき、全身の感覚が徐々に横たわっている状態に上書きされていく。
(不味ったなー……2時回ってるんじゃないか?これ……)
暗い天井を眺めつつ溜め息を吐く。
もう今から明日の授業をマトモに受けられる気がしない。
案の定、デジタル時計を確認すると──
「──は?」
21:48。
そう表示されていた。
(──親父が夜勤から帰ってきて……それから始めたから……30分も経ってない……?)
まさか一日跨いだのかと思ってみるも日付も2月2日。
暮羽の誕生日の前日だ。
つまり日付も同じ。
(……時計、壊れたのかな……)
そう思いつつ起き上がって部屋を出る。
一階に降りて時計を確認しようとしているのだ。
リビングの扉を開ける。
そこには夜勤から帰ってきた父が夕食後の珈琲を飲んでいる姿があった。
「お、ゲームやったか?どうだった?」
狐につままれた心持ちとはまさにこの事である。
「ゲーム?なんの話?また何か買ってきたの?」
キッチンの奥から母が訝しげに話し掛けてくる。
「いやいや違う違う。取引先の人から貰ったんだって」
冷や汗をかきながら父が弁明し始めた。
暮羽は呆然としながらリビングに入る。
ソファで寝大仏の如くテレビを眺めている風呂上がりの妹を視界端に時計を見た。
時間は21:49。
「本当?そんなことある?」「いやいや本当だって。取引先の人がそのゲーム機の会社の人で『息子さん居るんですか?是非どうぞ』って──」という両親の会話をBGMに呆然とする。
何とゲームを始めてから30分程度しか経っていない。
「……なぁ、俺何時間くらい上に居た?」
「はぁ?私が知るわけないでしょ……まぁ私、お兄ちゃんの後に風呂入ったし、30分くらいじゃないの?」
「そ、うか」
「……てかゲームって何?お兄ちゃんだけズルくない?私にはないの?」
妹の悪態を無視してリビングをフラフラ出ていく。
二階に上がって自室のベッドに倒れ込んだ。
暮羽は間違いなく五時間か六時間程度はゲームをしていた。
それは勘違いなどではない。
だというのに現実では30分程度しか経過していない。
これは──
「時間の、流れ……違うのか……?」
そんなことがあり得るのだろうか。
いや、しかし思考速度を加速したり……まさかそういった……
(ど、どんなハイテクだよ……)
本格的に意味が分からない。
(いや、しかしこれ……)
恐らく、予想するにゲーム内の時間経過速度は現実の12倍といった所だろう。
ゲーム内の12日間はリアルの一日に相当する。
そんな物が世間に出回っているということは──
(リアルで生きる意味、無いんじゃないのか……これ)
今すぐに、では流石にない。
ないが、これはあまりにも革新的過ぎる。
(だって一時間を12時間に引き延ばせるなんて……)
仕事や課題を向こうに持ち込めば単純な効率は12倍。
それが機能的に出来るかは兎も角、技術的に可能であるということになってしまった。
(──、……もう、寝よう。なんか疲れたし……)
暮羽は付けっぱなしだった神経接続チョーカーを外し、枕元に置いてあるアイマスクを付けると眠りに落ちていった。




