取れぬ傷
僕はいったい後何回こうやって一人にならなければいけないのだろうか。
少し前、椿さんが昔話を聞かせてくれていたが急に…
「奴がきた!」
と言って飛び上がって、出ていってしまった。
僕には何かできることも無く、ただただ時間が過ぎるのを待つしかなかった。
(お茶でものむか…)
ズズズッ
とお茶をすする。
ふぅ…
と少し悔しさが混じった、ため息をつく。
ガタッ!!
と襖が乱雑に開かれる。
そこには血まみれの椿さんが立ち尽くしている。
「………」
顔には影が覆い重なっており見えないが明らかに良い雰囲気ではない。
しかし椿さんは何も言わずに隣に座る。
聞いて良い雰囲気では無いが、やっぱり聞かないといけないだろう、と決意を固め、言葉をかける。
「いったい…何があったんですか?」
椿さんはポツリとつぶやく。
「…逃がしてもうたのじゃ…」
椿さんの言葉の端々には殺気が籠もっており、ひしひしとこちらにも伝わってくる。
「逃したて…誰をですか」
こちらに振り向いた椿さんの瞳には、怒り、悲しみ、憂い、がグチャグチャに絡まりあっていた。
「わっちの旦那様の…仇じゃよ」
それでも、椿さんの言葉は優しく、でも得も癒えぬ悲しみが混じっていた。
「奴が来たのは、数ヶ月前の話じゃ」
「わっちと旦那様は家でいつものように幸せに過ごしておった」
「奴は扉を蹴破り土足でこの家に入り込んできたのじゃ」
「じゃが、わっちの旦那様にあっけなくやられおったのじゃ」
「しかし、奴が最後に禍々しい蛇を放ち、それに噛まれてしまったのじゃ」
「………そして…わっちを…」
椿さんの顔は話をしているあいだ暗かったが今はより一層と闇に覆われていた。
「分かりました、それ以上は大丈夫です」
「僕も役に立つかは分かりませんが、協力します」
そう言うと椿さんの闇は少しだけ晴れていた。
「頼む…」
「はい…!」
例えそれが使い捨ての駒だとしても…
BAR珍龍
ガタッン!!
と琴蝶は乱雑にグラスをテーブルに叩き付ける。
「くぅしょがぁ~しゃいきん出番が少なにゃいんじゃい」
「私よりは出番あるし良いじゃん」
今、琴蝶をなだめているのは皆覚えているか分からないが、いつかの受付の女性だ。
「私は名前も無いモブだから次いつ出るか分かんない、てか、あるかも分かんないし、出番が決まってるアンタは良いじゃん」
「あのょくそ龍め〜私しゃ〜メインヒロリョインだじょもっと出番増やせよ〜」
「完全に出来上がってるわね、アンタ酒弱すぎなのよ」
「うぁぅぅ〜(涙)」
「しかも泣上戸」
受付の女性はグラスに残ったお酒を煽る。
「は〜、マスター会計」ペイペイ!!
「いつもの様にタクシーは呼びますかな」
マスターと呼ばれた初老の男性は慣れた手つきで聞いてくる。
「よろしく」
「かしこまりました」
「私はまだゃ飲むじょ〜」
と琴蝶はグラスを中に掲げ、まだ飲むきだ。
「あんたも明日は仕事だよこれくらいにしなさい、明日に響くわよ」
「えぇ〜〜」
「ほら、タクシー来たよ」
「うぃ〜」
受付の女性は琴蝶をタクシーに乗せる。
「〇〇町の□□マンションまでよろしくお願いします」
「了解しました」
車のエンジンがかかり、走り出す。
そうしてネオンライトが輝くこの街も徐々に眠りにつくのだった。




