椿
僕は今、霧の中を歩いている、辺りを見渡しても何も見えず、頼りになるのは狐耳ロリっ娘(この子)が繋いでくれた手だけだ。
歩いて行くうちに、上下左右が分からなくなった、天井を歩いているとさえも錯覚してしまう、次第に自分自身さえもが霧になって消えていく感覚がする。
いつしか歩いている感覚さえ消え、時間が消え、理性が消え、そうしてすべてが消え、残ったのは…この醜い思いだけ…ならば、もう、ずべて…
「狭間は不安定だからね、お前さん、鬼道に行っては行けないよ、戻れなくなる。」
ベシッッ!!と音が響いた。
「大切なもんを思い出しな。」
……そう言われ、思い出すのは…琴蝶の…笑顔、………あと、パパとママ。
しかし、眉間をデコピンされたせいで少し痛い。
「ちゃんとわっちについて来い。」
霧が徐々に晴れて行く、そうして目の前には、少し、いや、けっこう古い日本家屋が現れた。
「ここは?」
「わっち達の家さね。」
扉をガラガラと音を鳴らしながら開ける。
「古い場所だが、くつろいでおくれ。」
狐耳ロリっ娘は玄関で下駄?を脱ぎ足袋で中に入って行く。
(この下駄、踵の方が高くなってるな…サンダル下駄て言うんだけ?)
僕も靴を脱ぎ家に上がる、
とりあえずロリっ娘について行く事にした。
少し移動すると客間に案内された。
客間は和室で、畳の良い匂いが香ってくる。
「ちょっとまっとれ、今、茶を入れてくる。」
そう言うとロリっ娘は、茶を入れに出ていった。
また一人ポツンと取り残されてしまった。
とりあえず座布団に座ることにした。(あぐらで)
外を見ると、来るまでが霧に覆われていたとは思えないほどの絶景の庭が広がっていた。
庭には、鹿威しや池、松などもあり自分にも風流と言うものが感じられる。
コトン…と鹿威しの良い音が響く。
何時までも居たいと思える、そんな良い家だと思った。
カタッ…とお茶を乗せた盆が置かれる。
「いい庭じゃろ、わっちの旦那様の趣味でね、たまに一緒に手入れしたんじゃ。」
と言いながら僕のあぐらを組んでいた中にサササッと入ってきた。
「あの…何で胡座に?」
目の前にはロリっ娘の頭部があり女性特有の香りと少しの獣の匂と和服の香りが鼻腔を突く。
「すまんな、つい、クセでな…いつもこうやって旦那様のあぐらの中に入っておったのじゃ。」
ロリっ娘はそう言いつつもテキパキとお茶を入れている、色的に緑茶だろう。
「まぁ、ええじゃろ、お前さんも、お茶、飲みや。」
ズズズッと心地よい音を立てながら目の前のロリっ娘は、お茶を啜っている。
「あの…今さらですけど、お名前て…。」
ロリっ娘は首だけを少しこちらに向けて、
「言っておらんかったかの、わっちの名は椿じゃよ、よろしゅうな。」
ズズズッともう一度お茶を啜って、ホッ…と、ひと息ついて…
「さて、本題に入ろうかね、お前さんには、わっちの旦那様を……」
椿さんの話す声は何かを恐れているのか少し震えている、しかし心を決めたのか言の葉を紡ぐ。
「わっちの旦那様を…殺してくれ…」
椿さんの声は痛々しいほどに震えていた。




