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64、10人目

閲覧感謝です!


 《もういいや》


 聖剣を振り落とそうとしたその瞬間、聖剣は地面に突き刺さり、タクマはその場に崩れ落ちた。


「ぐっ……体が、重い……!」


 軽々と着ていた鎧が突然酷く重く感じる。自由に動かない体に鞭を打ち、なんとか鎧を脱ぎ捨てる。


「これさえあれば、」


 聖剣を地面から抜こうとするが、聖剣はびくともしない。


「な、なんで……」


 必死になって力を込めても全く動く気配は無い。その様子はまるで片想いの男の子のようで、意中の聖剣には嫌われているようだった。


「どうして、どうして抜けないんだよ!僕こそが聖剣に選ばれた真の勇者じゃなかったのかよ!!」


 感情のままに声を荒げるタクマ。


「…どうやら、女神様に愛想を尽かされたのはお前も同じだったみたいだな」


 落ち着きを取り戻したのか、ナタリアの口調は元に戻っていた。


「タクマ。勝利の女神にだなんて頼らずかかってこい」


 強い意志で言うことを聞こうとしない右腕を無理矢理に従わせる。魔法鞄から長大なスナイパーライフルをゆっくりと取り出し、地面へ横たえる。銃身の下から折り畳み式の脚が展開され、鋼の杭が地面を貫き、大地へと固定された。


「立てよ勇者。最終決戦だ」


 ナタリアの声にタクマも自ずと動き出す。着れない鎧に抜けない聖剣のことはもう忘れ、その手に取ったのは檜の棒だった。


「…僕の武器は、やっぱりこれか」


 偶々落ちていたただの檜の棒切れ。しかしその手にガッチリと握り構えられたその檜の棒は聖剣に負けず劣らず輝いていた。


「それでいい」


 体勢を低く構えて、照準を覗き、荒れた呼吸を整える。ボルトを引く。装填されるのはただの一発。


「…うわぁぁぁぁ!!!」


 大声を上げながら勢いよく地面を蹴る。視界の向こうに見えるのは突き出た銃口。それでもタクマは全速力で前へと向かって走りだす。もう突き進むしかないのだから


 動くターゲット、動かぬ銃身。照準はただ一点。狙えずとも向こうからやってくる。引き金に触れていた人差し指が強く押し込まれる。


 ズドンッ。


 そして鳴り響く轟音が決着を合図した。


「これで十人目…」


 地面に大の字で倒れ尽くすタクマ。近づくと、微かに息が残っていることに気がつく。


 心臓を貫かれてもまだ息があるか。やはり本物の勇者か。


「結局僕は最弱か……」


 少しずつ遠のいていく意識の中で、残りの力を振り絞るように言葉を残していくタクマ。


「結局、僕は異世界に召喚されたって何も変われなかった……落ちこぼれは最後まで落ちこぼれってことなんですかね……」


 するとナタリアはタクマを引っ張り上げるようにして、無理矢理起き上がらせる。


「十分変わっただろ」


「変わってたら、僕はアナタに負けてませんよ……」


「俺がお前と初めて会った時、覚えてるか?」


「ええ……」


「お前はクラウンベアーを目の前にして、勇敢に立ち向かうことも、逃げ出すことすらもできなかった。だけど今日は違った。女神に見捨てられても、お前は必死に俺に立ち向かおうとした。それが成長で、それこそがお前の望んでいた変化だったんじゃないのか」


 そんなもの、どうでもいいくらいの小さな変化だった。それでも、その一歩は女神によって与えられた力なんかじゃない。


「やっぱり師匠は、いいこと言いますね……」


「無駄に長生きしてるもんでね」


 死に際の奴に長々と説教を垂れるとは、俺も歳をとったもんだ。何様だよ。


「…師匠のお陰で、意外と気持ちよくあの世へ行けそうです。天国に行けるかは分からないけど……」


「俺はお前と違って行き先が決まってる。それなら分からない方が、死ぬのも多少は怖くないだろ」


「確かに……」


 するとナタリアは額のタクマに銃口を突きつけた。


「師匠から弟子への慈悲だ。少しでも早く楽にしてやるよ」


「僕のこと、弟子だって認めてくれるんですか?…」


「勘違いするな。お前がしつこく言ってきたからだ」


「なら、最初で最後からの弟子からのお願いを、聞いてくれません?……」


 ナタリアは少しの沈黙の後、口を開く。


「……出来ることにしろよ」


「大丈夫。得意分野ですから……」


「誰か殺して欲しい奴でもいるのか?」


「女神」


 なんだか、言いたいことが言えて満足しているように見えた。


「即答か。それこそそんなこと言ったら地獄行きだぞ」


「…実はずっとムカついてたんです。お陰で、好きだったマンガの最終回を見逃した。楽しみにしてたのに……」


「殺意を抱くには十分か」


「それなら地獄にだって行ってやりますよ」


 いい人そうに見えるほど、奥底にはドス黒いもんを抱えてるものだ。こうなったら、暫くタバコや酒とはお別れかな。


「やってくれます?……」


 ナタリアの返事は鳴り響いた銃声によって掻き消された。


「……悪いなナタリア。そっちに行くのはもう少し後になりそうだ」


ここまで閲覧頂き誠にありがとうございます。次回最終回です。


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次回もお付き合い頂ければ嬉しい限りです。


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