63、ミハナサレル
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殺気とは本来隠すもの。しかし今回は隠す必要がない。ナタリアも負けじと大胆に殺気を剥き出しにして、対抗心を露わにする。
「一撃で終わらせてやる、」
先に仕掛けたのはタクマだった。聖剣を大きく一振りすると、地面を破るように必殺技級の強烈な斬撃が放たれる。
「そう焦らないで」
ナタリアは横にステップしてそれを回避。威力は絶大だが、攻撃の範囲はそう大きくない。それにエルフの目ならこの速度程度なら余裕で追える。
「当たらなければどうということはない、ってやつよ」
今頃の若者には少々古すぎたかな。
「構うもんか。それなら何度だって、当てるまでやるだけだぁ!」
そりゃそうだ。俺だってそうする。
「だからこそ、先に殺させてもらう」
繰り返される斬撃。回避行動の中、僅かに遅れた攻撃の間。それを見逃さずナタリアはタクマを狙い発泡する。
「させるか!」
銃弾を破壊し、ナタリア諸共巻き込まんとする強烈な斬撃。しかし、ナタリアが放った水色の魔弾が炸裂した瞬間、繰り出された斬撃が絶対零度の波動によって一瞬で凍てついた。
「なっ…!」
ここまでは計算通り。思っていたように連続で攻撃を仕掛けてきた。
「ふぅ……」
動揺と躊躇いによって生じた綻び。気配を消し、息をも殺しま静寂の中で引き金は引かれる。凍てついた巨大な斬撃の壁がタクマの視界を遮り、ナタリアの攻撃を悟らせない。
銃声を全く響かせず放たれた茶色の魔弾は音速を超え、何十という軌道を描きながら勇者の死角を縫うように着実に迫っていく。タクマの背後に迫る魔弾。その頭を貫通するのに秒もいらなかった。
「……!」
勇者は静かに聖剣を振るった。甲高い金属音と共に、迫る魔弾は直前で真っ二つに切り裂かれ、火花となって散っていく
「だからどうした……」
「チッ」
別にこれで倒せると思ってたわけじゃない。しかし厳しいな。ここまでやって致命傷の一つも与えられないとは…。
「今度は僕の番だ」
一歩踏み出した勇者の姿が、視界から消えた。
「!?…」
転移?瞬間移動?いや、そのどちらでもない。微かだが感じる風に違和感を感じるし、ボヤけているが残像のような物が見えた。
「はあぁっ!!」
声が聞こえて直ぐに、ナタリアは後方へ飛ぶ。
「ここか!」
突き出された拳からの風圧を体に受けながらも、がむしゃらに乱射し、装填されていた魔弾を惜しみなく撃ち込む。
魔弾同士の接触による爆破が起こり、目の前を呑み込んだ。しかし、その炎は真っ二つに裂ける。
「勇者斬り」
ダサい呼び名と共に勇者が振るった一閃。今まで以上に強力な斬撃は閃光の如く大地を駆け抜けた。
「!!」
直感だった。横へ転がり回避したことで辛うじて直撃を避けることは成功した。しかし左腕は肩口から先が無くなっていて、風に揺れるコートの袖がその喪失を物語っていた。
「ぐうっ……!」
切り落とされた左腕は衝撃波によって完全に呑み込まれてしまう。
「腕だけで済んだだけ、多少はラッキーか……」
止まらない出血。頭がクラクラして、目の前にアイツの姿が揺れて見える。
「今ので終わっていれば楽だったのに……」
本当にその通りだ。こんな痛みを負うくらいなら、死んだ方がよっぽどマシだと思う。中途半端に丈夫なこの身体のおかげで今にも死にそうななのに中々死なせてはくれないらしい…。
「はぁ、はぁ……」
呼吸をするのがやっとなくらいだ。力も入らず、アイツを殺すために必要な残された右腕も上手く動かさそうにない。
「せめての情けです。これで本当に最後だ」
高く振りかぶる聖剣。それが降り落とされれば、俺は痛みも感じることも無いだろう。女神によってこの世界にやってきたが、勝利の女神までは俺には微笑まなかったらしい。
「あの女に笑われるよりは、よっぽどマシだな……」
「消えろ」
覚悟は決まった。最後の瞬間を見届けようと、瞬きすら忘れ眼を見開く。
《もういいや》
聖剣を振り落とそうとしたその瞬間、聖剣は地面に突き刺さり、タクマはその場に崩れ落ちた。
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