61、殺意の理由
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「……来ましたね」
「待たせたな」
背には聖剣。誰もが見ても勇者だと分かるようなヒロイックな派手な鎧に身を包み、タクマは仁王立ちでこの時をじっと待っていた。
「その格好、似合ってるじゃないか」
「オーダーメイドです。時間だけはそれなりにあったので」
「悪かったよ。夢も見ないくらい熟睡だったんだ」
舞台はナタリアとタクマが初めて会った森の中。以前はクラウンコングにも出会したこの場所だが、今はモンスターの気配は微塵も感じられない。
近づくな。この二人は危険だ。この森に生息するモンスター達は本能でそう判断したのかもしれない。周囲の命を簡単に恐れさせるほどに彼らは集中し、神経を尖らせていた。
「待たせた詫びだ。早速始めようか」
「その前に一つ」
銃を抜こうとするナタリアを前にタクマは問いかける。
「バンバさんとエンフィさん達はどうしましたか?まさか…」
「平気だよ。多分死んでない」
凄むタクマをあっさりといなす。
「そうですか。アナタが二人を?」
アナタか……。名前どころか師匠とすらもう呼んではくれないらしい。
「俺じゃない。相手をしたのは俺の相棒だ」
「ああ、前に会った少し騒がしいあの女性ですか」
「少しじゃない。とても騒がしいんだ」
「アナタにもいたんですね。アナタのことを信じて、託してくれる人が」
「それには俺が一番驚いている。なんせ、信じるとか仲間とか、俺には一番縁遠い物だと思っていたからな」
二人は一歩も動かないまま舌戦、いや、ただのおしゃべりを続ける。それは覚悟と余裕の表れとも言えるようだった。こんな時だからこそ、いつも通り。気負わず、思いの丈をぶつけて戦え合えるように。
「そうだ。俺も一つお前に聞きたいことがある」
「なんですか?」
「お前は他人のために強くなりたいと俺に言った。そして今、文字通りお前は強くなった。その時の気持ちは今も変わらないか?」
「はい」
迷いもなく即答した。言われることが分かっていたからか、それとも、心の底からの言葉なのか。どらちも本当で、どちらでもいい。その曖昧さこそが普通の人間で、その答えに意味は無いからだ。
「なら、何故俺と戦う?俺が殺し屋だからか?女神に頼まれたからか?俺を恐れる人々を助けるためか?」
「いいえ」
気持ちを探りながらペースを乱そうとナタリアが必要以上に捲し立てても、タクマは表情一つ変わらない。
「ならその理由は?」
「アナタを止めるため。最初から僕が戦う理由はそれだけです」
「結局自分の為にではなく誰かの為か……呆れるほどにバカで真面目で正直な奴だな。ちょっとは汚い欲でも見せてくれれば殺しやすかったのに」
今までの勇者は全員、そういう意味では殺しやすかった。彼らはある意味真っ直ぐで、自分の欲に正直な奴らばかりだったからだ。だからこそ女神は最後にコイツを選んだのかもしれない。
「良かったよ。お前が最後まで変わらずにいてくれて」
ベレッタを引き抜き、構える。
「本当にやるんですね…?」
「当然だ。俺はお前を殺しに来た殺し屋だぞ。無駄におしゃべりをしにきたわけじゃない」
「僕はずっとこうして話していてもいいんですよ。だって、このままだと僕が勝ってしまうから…」
タクマの顔が勝ち誇ってるわりには哀しそうに見えて、それが俺の心に火を付けた。
「これで二度目だよ……」
「え?」
「誰かをこんなに殺してやりたいと心の底から思ったのは」
一周回ってとてもシンプルだ。頭の中もスッキリしている。が誰かに殺意を抱く。そのきっかけはいつだって簡単で突然訪れる。それは、ムカついた時だ。
「どうしてそうなるんです?僕はアナタを殺したくはない!」
「それでも俺はお前を殺したくて仕方が無いんだよ」
「狂ってる……」
その一言に共感するようにナタリアは笑った。
「バーカ。殺し屋やってやる奴がまともなわけあるかよ」
そしてナタリアは引き金を引いた。
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