60、0.1%の必勝法
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〈この先、強い気配を感じます〉
「ああ。俺にも感じるよ」
木々や風も危険を予告し、撤退を促している。
〈このまま一気に突っ込みます〉
バシリッサのスピードならこのまま奴を轢き殺すことも可能かもしれない。しかし相手はバハムートに圧勝した勇者だ。仮に殺せなかったとしてもダメージを与えることはできる。先手必勝。最初の一手としては悪くない攻撃だろう。だが……。
「いや、ここでいい。止めてくれ」
〈何故ですか?これなら確実にナタリアの勝率を約三割は引き上げることが可能なんですよ〉
「因みにそれをしなかった場合の勝率はどのくらいだ?」
〈一割以下です〉
躊躇ないな。全然躊躇いがない。
「あっそう。覚悟はしてたが、それでも思ってたより低いな…」
だけどそのくらい潔い方が覚悟も決めやすい。
〈今のナタリアに手段を選ぶ余裕などありません。いいからワタシに任せてください〉
「その気持ちだけで十分だ」
我先に加速するバシリッサから飛び降りるナタリア。ナタリアがいなくなっても構わず、走り続けようとするが、寂しそうに途中で引き返してくる。
〈どうしてです?ワタシはこんなに心配しているというのに……〉
バシリッサに涙を流す機能はない。だが、見ていればそれは分かる。
「きっとこれがこの世界での最後の戦いになる」
〈そんな気はしていました。だからこそ、最後もちゃんとナタリアには勝ってほしいんです〉
「だけど、その最後がバイクで引いて勝ちました。なんて格好つかないだろ?ギャグ漫画じゃないんだから」
〈それでも勝ちは勝ちです。何か問題でも?〉
バシリッサの言う通りだ。何も間違っていない。
「いいやその通りだ。俺もそう思う」
〈なら、〉
「それでも俺は正々堂々とアイツと戦って勝ちたい」
甘い。甘すぎる。甘ったるすぎるくらい自分でもうんざりする。
〈勝率が皆無に等しい。このままなら死ににいくようなもの、だとしてもですか?〉
それ程に勝ち目が無いのか。この戦いは……。
「だとしてもだ」
〈どうしてそこまで?〉
「強いて言うなら、アイツが最後の勇者だからかもしれない」
俺が子供の頃に遊んだゲームだと魔王は最初から存在するのに、何故か魔王は勇者が強くなるのをずっと待っていた。子供心ながら、どうして魔王は勇者が弱い内に倒さないのかと疑問に思ったものだ。だけど今ならその魔王の気持ちが少し分かる気がする。きっと魔王は全力を出せる相手をずっと待っていたのだと俺は思う。全力を出して、それで倒されるのならそれでいいと。
〈そこまで言うなら勝算はあるんですよね?〉
「無論、ちゃんと勝負下着は履いてきた」
バシリッサにこれ見よがしに着ていた下着を見せつける。
〈見せなくても結構です〉
バシリッサはすぐに車体を逸らしそっぽを向く。
「そう…」
〈もういいです。何を言っても考えが変わらないと言うのなら、ワタシはナタリアの意志を尊重します。これでよろしいのでしょ?〉
「ありがとよバシリッサ」
バシリッサのヘッド部分を優しく撫でると、照れ隠しなのかヘッドライトを明るく照らす。もうコイツもれっきとした俺の相棒だ。
「…じゃあ、行ってくる」
〈ナタリア…!〉
「ん?」
〈ここで、待っててもいいですか?〉
ナタリアは去り際に足を止めて振り返る。
「…好きにしろ」
〈ハイ。好きにします!〉
バシリッサは精一杯の明るい声で返事を返した。
勝率は極僅か。結果は明らかだった。それでもバシリッサは待つことを選んだ。きっとバシリッサは独自に導き出したのだ。
信じることこそが不可能を可能にする最強の必勝法だと。
そう信じた。
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