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58、信じて、託されて

閲覧感謝です!


「待たせたなバシリッサ」


 〈待ちくたびれましたわ〉


 バシリッサに乗り込み店を後にすると、店のあった方から、重く、連続した機械音が聞こえる。


「…マスターのやつ、偉く派手にやってるな」


 〈パパなら心配ありません〉


「分かってるよ。心配なんかしていない」


 バシリッサは今まで走れなかった鬱憤を晴らすように、豪快にエンジン音を掻き鳴らす。


「にしても、俺が暫く動けなかった間に大分溜まってたみたいだな」


 〈ワタシに走るなって言うのは死ねと言っている事と同じですから〉


「悪かったよ。その分、今日は思いっきり走らせてやる」


 〈望むところです〉


 すると、加速を続けながら快調に走るバシリッサの前に、突如、徒党を組んだ殺し屋狩りが襲いかかってきた。


「いたぞブラッディフェアリーだ!」

「コイツを殺せば生涯安泰。一生楽して遊んで暮らせるぜ!ヒャッハーー!!」

「そうだ。勇者にばっかいい所を持って行かせるかよ!」


 バシリッサの前方には様々な魔法陣がが幾重にも展開される。


 奴らの言うとおり俺を殺せば一攫千金も夢じゃない。そんな思いが束となって襲いかかってくる。彼らの本気度合いがひしひしと伝わりってくるようだ。


 〈ナタリア、少し本気を出してもいいですか?〉


「いいぞ。思いっきり暴れろ」


 〈…ラジャー!〉


 バシリッサは怯むことなく更にギアを上げる。エンジン音はまるで猛獣の唸り声のように咆哮する。


 次の瞬間、バシリッサを爆炎が襲う。地面を溶かし、建物の壁面を吹き飛ばすほどの超高熱魔法。それでも男はアクセルを回し、バシリッサも更に加速する。後輪が火花を散らしながら滑っていき、車体が横向きに流れる。限界まで倒し込まれたバシリッサは炎の奔流の縁をなぞるように駆け抜けていった。


「くそっ!!」

「それなら、これでどうだ!!」


 爆煙の中から飛び出したバシリッサに今度は無数の氷槍が襲いかかる。辺り一面を埋め尽くす程の幾千本の絶対零度の矢。


「逃げ場などない。避けれるもんなら避けてみやがれ!」


 回避経路など不可能。誰もがそう思った。彼ら以外は。


 ナタリアもブレーキを握らず、バシリッサもまたスピードを下げる様子はない。


「逃げ場が無いなら、」


 〈作るまで〉


 フロントを軽く浮かせる。たった数センチの角度の変化が彼ら運命を変えた。幾千本の氷槍が僅か数秒の差で交錯し、バシリッサをはその隙間を縫うように疾走する。背後では氷柱が激突し合い、砕け散る轟音が響き渡る。


 完全に勝ち誇っていた殺し屋狩り達の顔から、とうとう余裕が消えた。


「いや、まだだ!!」


 それでもまだ負けじと、生涯安泰の夢に向かって必死に喰らいつく。放たれた雷撃によって、稲妻が地面を走り、前方を塞ぎ逃げ場を奪う。


 だがナタリアは笑った。


「ほらよ、サービスだ!」


 コートをひん剥き、真紅の妖艶な下着を露わにする。サービスショットの期待に応えるように風がバシリッサを勢いよく跳ね上げる。


 桃色の風が背中を押すように、バシリッサは空へと躍り出た。


「と、飛んだ!?」


 稲妻その真下を残念そうに通過することを見届け、バシリッサは着地する。


 〈ナタリア、あれを!〉


 見えてきたのは王都と外を繋ぐ唯一の架け橋である門。しかしその前には気合い十分の殺し屋狩り達がナタリア達を待ち構えていた。


「…俺を狙う奴が考えていることは、どいつもコイツもみんな同じってことか」


 そこには息が荒い殺し屋狩りの他に、騎士団の兵士達。そしてタクマとパーティーを組んでいたエンフィとバンバの姿も見える。


 〈ナタリア…〉


 少しがっかりした様子で呟くバシリッサ。門は固く閉ざされていて、大勢の兵士や殺し屋狩り達がそれを守っている。戦いを避けて、門を飛び越えようにも、この高さだ。


「そう落ち込むな」


 〈せっかくエンジンが温まってきたのに、残念です……〉


 バシリッサを止め、軽快に飛び降りるナタリア。


「お前達も殺し屋狩りの仲間入りか?随分と落ちぶれたな」


「私達をコイツらと一緒にしないで」


「勇者のように特別な力も持たないオレ達が勝てる相手じゃないってことは百も承知だ」


 ほう。それだけでそこらの殺し屋狩りとは違うようだ。


「だったらなんのためにそこに立ってる。死ににでも来たのか?」


「無論、無駄死にするつもりはない」


「私達はね、死ぬ気でアンタの足を引っ張る為にここに来たのよ!」


 成程。確かに戦術としては悪くないし、それも立派な作戦だ。だがコイツらがそれをするのはちょっとがっかりだ。


「勝てないなら少しでも弱らせろ。ちょっとは役に立て。そうアイツに命令でもされたのか?」


 バンバとエンフィは直後困惑した様子を見せたが、互いに顔を見合わせ、オレに向かって叫んだ。


「「それはない!!」」


 二人は息をピッタリと合わせ、キッパリ言い切った。


「力を手にしたからってアイツは変わってない。これはオレ達が勝手に決めたことだ」


「命令されるどころかタクマには最後まで反対されたわよ」


「それなら何故戦う?仲間なら最後まで勝利を信じてやるもんだろ」


「信じてるからこそよ。今のタクマなら鮮血の妖精〈ブラッディフェアリー〉になんか負ける筈がない」


「それでもオレ達は仲間だ。仲間だからこそ最後の最後まで全力を尽くし、アイツに勝利を託すと決めた」


 信じてるからこそ……。今まで孤独で戦ってきた少し前までの俺ならそんな世迷言、鼻で笑っていたことであろう。

 無事を祈ってくれたビアンナや女将。マスターだって自分の身も顧みず俺を送り出した。それはきっと俺のことを信じてくれているからだ。


 いつの間にか俺は信じてくれたその想いや期待に応えたいと思ってしまっている。


「はは。俺も変わっちまったな……」


 誰にも聞かれぬよう小声で呟き、ナタリアは素早く銃を構えた。


「殺しはしない。が手加減も出来ないぞ。こっちも負けられないんでね」


 そう決意を固め、飛び出そうとした時だった。


「ちょっと待ったぁぁぁ!!」

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