54、とっておきの奥の手
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「グオオオオオッ!!!」
バハムートが咆哮する。衝撃波だけで周囲の建物が吹き飛び、地面が砕け散る。
「うっさい……!!」
今にも鼓膜が破れそうな轟音が鳴り響き、バニーのアルレイシャは耳を塞ぐので手一杯だ。
しかしナタリアは構うことなく即座にコルトパイソンを構え、発泡した。放たれた魔弾が一直線バハムートの顔面へ命中する。破裂した魔弾は騒音の原因である口を粘着弾で塞ぐ。
「グゥ……!!」
トリモチカブトの素材で作られた灰色の魔弾。一度くっつけば素早く固まり、捕らえた獲物は決して逃さない。それは正しく瞬間接着剤のようにしつこく強力だ。
口を塞げば吠えることも火を吐くことも出来ないはずだ。
「これで余計な口は塞いだ。ぼさっとしてないでお前も手伝え」
「相棒……!」
「だから相棒じゃない!」
ナタリアは更にベレッタを連続で発泡。しかし、ただの銃弾で鱗一つ落とすこともできず気を逸らすことがやっとだ。
「グアァァッ……!!!」
口を塞がれたバハムートも黙ってはいない。粘着弾で固定されたその口を力で強引に開いてみせた。
「やっぱあの程度じゃダメか……!」
一瞬で口元が赤く輝き、高密度の火炎を吹き吐いた。
「いいや、耳栓を付けるには十分な時間だったわ!!」
紅蓮の炎を得意の跳躍力を活かし、紙一重でかわしながらバハムート目掛けて疾走する。
「はあぁっ!!」
勢いよく一閃が光る。それでもバハムートの肉体には傷一つつけられない。
「チッ!……こんなことになるならあの時魔法なんか使うんじゃなかったわ!」
「グオオオ!!」
バハムートは邪魔な羽虫を祓うようにアルレイシャを軽く吹き飛ばす。
「バシリッサ!」
《ラジャー》
ナタリアはその隙にバシリッサから射出されたショットガンを受け取る。
「これならどうだ!」
強烈な反動と共に巨大な一発のスラッグ弾が発射された。スラッグ弾はバハムートの眼球に直撃、片目を撃ち砕いた。
「グオオオァァォォォオ……!!」
バハムートも思わず苦悶の咆哮を上げた。
「よし…!」
例え相手がどんなに肉体を鍛えていようと、目までは鍛えることはできない。それはマッチョもドラゴンも同じということだ。
「今だ、畳み掛けろ!」
「私だって!!」
アルレイシャも再びバハムートに突っ込む。ナタリアは立ち回りしやすいベレッタとコルトパイソンに持ち変えると、率先して前へと駆け出す。
――出来るだけ距離を詰めて、少しでも威力を高める!
左右同時射撃で唯一開いた傷口にこれでかもと銃弾を叩き込む。
しかしバハムートもやられてばかりではいられない。
残った片目でナタリア達をギロっと睨みつけ、鋭く伸びた巨大な尾が振り下ろした。完全に不意をつかれ、回避も間に合わない。
「…まだだ!」
それでもナタリアは諦めず、死に物狂いで喰らいつく。
ナタリアは躊躇なく自らのスカートを翻し、その情熱的な真っ赤な下着姿を露わにする。その合図が周囲の風を焚きつけ、吹き起こした爆風がナタリアを瞬時に空高く押し上げた。
宙の上で空になった弾倉に素早く最高火力の魔弾を最大数装填する。
「グオオオオッッ!!」
それを見たバハムートもすぐに灼熱の業火を放とうと迎撃体制を構える。
「そうはさせないわよ!バシリッサちゃーん!!」
《飛ばします!》
アルレイシャを乗せたバシリッサはとんでもない勢いで加速していく。そしてバシリッサはその宣言通り、崩れ落ちた建物を踏み台代わりにして空高く飛び上がった。
「いっけぇっ!!」
風に乗ったバシリッサと共にアルレイシャの放った一閃は極々至近距離でバハムートの顔面に直撃。傷こそ与えられなかったものの、その一撃は僅かにバハムートの姿勢を崩し、確実に攻撃の間を遅らせた。
「終わりだ……!」
ナタリアはその瞬間を絶対に逃さない。銃声は間を空けず連続で鳴り響き、放たれた魔弾は全発傷口に命中、爆発した。
「相棒っ!」
その爆風に巻き込まれ、地面へと真っ逆さまに落ちていくナタリアをアルレイシャがバシリッサと共に救出する。ナタリアをお姫様抱っこするアルレイシャはとても満足げ笑みを浮かべている。
「やったね相棒!!」
「笑うな。気持ち悪い…」
「もうっ照れ屋さんなんだから〜!!」
だがナタリアにアルレイシャの気持ちを否定することはできなかった。バハムート、あのドラゴンを倒したのだ。それで喜ぶなというのは無理なくらいだ。
「なっ……」
「マジ……!?」
だからこそ自分の目を疑わずにはいられなかった。ぐちゃぐちゃになった傷口もあっという間に回復し、潰した眼球も完全に再生したのだ。これが夢なら喜んで受け入れてやる。
「グオオオオォォォオ!!」
バハムートは疲れの色すら見せずに、雄叫びをあげる。まるでナタリア達に勝ち目はないから諦めろと叫んでいるようだ。
「どうやらあっちはまだまだやれるみたいよ…?」
「それはこっちも同じだろ…」
「だけどあれだけやってもこの調子。圧倒的に火力が足りてないわ」
確かにこのまま無闇矢鱈に攻撃を続けても埒があかないし、長期戦にもつれ込めば先に力尽きるのはこっちの方だろう。
「どうすんのよ相棒……!」
コイツを倒す為には今以上の圧倒的な火力を出せる武器が必要だ。しかし、俺の持てる高火力が期待できる魔弾はあれが全てだし、他の魔弾でなんとかできるような策も思いつかない。
「さて、こういう時は……」
バハムートが睨みを効かせ、いつ襲ってきてもおかしくないこの状況で、ナタリアは平然とタバコに火をつけた。
「ちょ、何呑気にタバコ吸ってんのよ!まさか諦めたとか言わないわよね!?」
「ちょっと黙ってろ……」
どうせ死ぬ時は死ぬんだ。こういう時こそ絶対に焦ってはいけない。寧ろいつも以上に冷静にならなくては、思いつくものも思いつかない。ここは異世界だ。何かないのか…?この絶望的な状況を一瞬で打破できるような必殺技的な何かが。
「あ、」
その時ナタリアは、以前マスターと話したある事を思い出した。
――
「どうだ、ウチの娘の乗り心地は?」
「父親の台詞とは思えないな。まぁ、上々だ」
「上々だ…?」
「冗談だ。アンタの娘は最高だよ。間違いなくな」
「だろ!?だけどな、ウチの娘はただ走るだけが取り柄じゃないんだぜ」
「というと?」
マスターは上機嫌に自分の娘の特技を自慢するように話し続けた。
「バシリッサにはな、あの子にしかできないとっておきの奥の手があるんだよ」
「奥の手ね。どんなものなんだ?」
「詳しいことは使ってからのお楽しみだ。だけど、ここぞって時にだけ使えよ。なんせとっておきの必殺技だからな」
――
そんなことを少し前に話してた。結局、そのとっておきがなんなのかは分からないまま、一方的に使い方をだけをレクチャーされたんだった。正直、詳細も理解せずいきなり実践投入するのは不安が大きいし、俺の主義に反する行為だ。しかし、そうとはいってられない状況なのも確か。
……何が起きるかは知らんが、ここぞって時があるのだとしたならそれはきっと今だろう。鬼が出るか蛇が出るか。それに目の前には竜がいるんだ。何が出たところでもう驚かん。
「一つ、方法を思いついた」
「方法って?ねぇ、それってなんなのよ!?」
「さあな、使えば分かるさ」
「はぁ!?」
奥の手を起動させる合言葉はちゃんと覚えてる。
「バシリッサ」
《ハイ》
「…クイーンズ・パニッシュメント」
《…ラジャー!!》
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