50、サモナー
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「ギギャァァァ!!」
「は!?」
アルレイシャは得意の反射神経を活かし咄嗟に右へ避けた。
それをナタリアは見逃さず、着地したゴブリンの両足を素早く撃ち抜く。
「アルレイシャ!」
「もうっ、驚かせんじゃないわよ!
アルレイシャの愛刀が断末魔をあげる間も無くゴブリンの首を刎ねた。
「ったく、どうなってんのよ……」
「おいおい、なんでここにモンスターが現れるんだ……?」
マスターの疑問も当然だ。王都はモンスターが出現しない安全領域の筈。王都の全周は巨大な壁で覆われていて外からの侵入も基本は不可能。さっきの叫び声といい、どうもおかしいことが続く。
「王都にモンスターが侵入するなど私も聞いたことがありません。一体何が……」
「まさか防壁に異常でもあったんじゃ?」
「それは無いと思います。防壁は常に交代制で騎士団が管理を行なっていますし、防壁が破壊されるなどの異常が起これば、魔法が発動し王都全域に警報がなる筈です」
ここに来るまでも特に異変はなく、今での間にもそれらしい音は聞こえなかった。
「となると、ゴブリンは外からではなく中から現れた?…」
「しかし、そんなのどうやって…」
「いや、出来る奴がいるじゃないか。アレを見てみろ」
何かに気づいた様子のマスターは頭が離れたままのゴブリンの亡骸を指さす。
「ゴブリンがどうしたのよ?」
「こ、これは……!!」
ポカンとしているアルレイシャとは対照的にエイラも普通のゴブリンとは異なる異変に気がついたようだ。
「この刺青か?」
さっきまでは気づかなかったがよく見てみるとゴブリンの右腕には薔薇の刺青が描かれている。
モンスターに刺青を入れるだなんて大層な趣味があるとは思えないし、これが自然にできた模様のようにも思えない。
「これと同じ薔薇の模様を彼女もしていました…」
「彼女?」
「アンドウユウナ。召喚の勇者〈サモナー〉です」
「ほう……」
これはまた予想だにしない名前が出てきたな。やられる前にやってしまえ。勇者の方から仕掛けてきたか。
「だけどなんでモンスターにも勇者と同じ模様があるのよ?」
「それはきっと、このゴブリンが彼女によって召喚された存在だから」
「人がモンスターを召喚したってこと!?そんなの聞いたことないわよ…」
「噂で聞いたことないか?勇者が関わった戦場には必ずモンスターの大群が現れるって話」
「それならあるわ。でもあれって偶然でしょ」
「それが偶然では無かったことだ。意図的にモンスターを召喚し、戦わせていた。これ以上に代わりが効く便利な兵隊もいないしな」
人がモンスターを操り、支配し、戦わせる。魔物使いなんて言えば聞こえはいいが、俺からすれば魔王の方が似合ってる。
「だから召喚の勇者〈サモナー〉ってわけか……」
「誰もモンスターを召喚してるとは夢にも思ってなかっただろうけどな」
人々にとってモンスターは敵。そして勇者はそれを倒す存在。これが人々の耳に入ればパニックは避けられないだろう。
『……聞こえるかしら?聞こえてないのは既に死んでる奴だけか』
その時、王国にいる全ての人々の頭に女の声が響く。
「これは……」
「うわっ、頭の中からなんか聞こえるんだけど…!?」
「どうやら全員に聞こえてるらしいな。この奇妙な声が」
「この声は、アンドウユウナ……!」
どうやらあちらさんは隠す気が自分の正体を隠す気が無いようだ。
『一応、自己紹介しておくわ。私は勇者アンドウユウナ。たった今からこの世界を破壊する女よ』
「破壊するですって!?」
「とても勇者の台詞には思えないな…」
『既に私が召喚したかわいいモンスターちゃん達によってこの国は蹂躙されようとしている。抵抗するのは構わないけど、余計に疲れるだけ。楽に死にたいなら大人しくしておくことね』
「そんな!!」
外の様子が気になりエイラは慌てて店へ飛び出る。
「待て!」
それを追いかけてナタリア達も外に飛び出す。
「おいおい、こんなの冗談だろ……」
「なんてこと……」
「サイテー……」
余りにも現実とは思えない光景にエイラ達も唖然するしかなかった。
この辺りは数時間前までいつものように賑わっていた。だが今はどうだ。その面影は全く無くなっているではなきか。ゴブリンをはじめ、オークやコングなど様々モンスター達によって建物は破壊されている。人を襲われ必死に逃げ惑う人々の壮絶な光景。それは正しく地獄絵図のようだった。
「急いで助けないと!」
「待て。ここにいるモンスター達を倒したところで、勇者をなんとかしない限り永遠にモンスター達は沸き続けるだろう」
「だけど……」
手をこまねくエイラ達を嘲笑うように声は続く。
『どうして勇者様がこんなことをするの?そう思ったなら答えてあげる。この世界にはね…誰一人勇者なんて存在しないのよ!……いるのは力を与えられ、傲慢になり、あの女の駒になった挙句、無様に死んでいった愚かな奴らだけってこと』
あの女ね……。
『アンタ達が勝手に私達を英雄扱いしただけ。ザマみろ!』
さっきから言いたい放題。よっぽどあの女とやらに鬱憤が溜まっていたらしい。
『…私はね、あの女の吠え面が見たいのよ。指を咥えて見てればいい。自分が召喚した女に自分の世界を破壊されるだなんてそんな屈辱的なこと無いだろうからさ!』
やはり、コイツのいうあの女とは俺の想像している人物、いや、存在と言った方が正しいかもしれないが。
「コイツが言いたいあの女って、まさかな……」
「多分、私もマスターと同じことを考えてる。だけど口にするのはやめときましょう。バチが当たるかも」
「そうだな。思いつきで喋っていい名前じゃない」
どうやらアルレイシャ達もあの女について思い当たる節があったようだ。
『そういうことだから、みんな。残りの数時間後悔無いように楽しんでちょうだい。あと、鮮血の妖精〈ブラッディフェアリー〉どうせ殺しに来るんでしょ?』
「……」
『アナタだって私と同じ被害者よ。アナタがその気なら手を組んであげてもいい。いい返事まってるから』
勇者を信じていた人々達を呆気なく絶望へと叩き落としたその声はこれを最後に二度と聞こえることは無かった。
「相棒、今のって……」
ナタリアは吸っていたタバコのを火を消す。
「…俺の仕事は勇者を殺すこと。それだけだ」
あの女、つまり女神がこの先何を考えていようが俺には関係ない。
殺したいと思うにはそれ相応の理由があって、秘密が必ず存在する。それが理由でトラブルに巻き込まれたことなんて数えきれないほどだ。だからこそ、そんなことをいちいち気にしていては埒があかない。
俺はやるべきことをやる。考えるのはそれからだ。
「…バシリッサ!」
その予備かけに応えるようにバシリッサが奥の車庫から豪快なエンジン音を轟かせながら飛び出してくる。
《お呼びですかナタリア》
「メンテナンスが終わって調子がいいみたいだな」
《パパのお陰でバッチリです》
心なしかいつもより明るく聞こえるバシリッサの声。それにマスターも親指を立てて頷く。
「なら早速仕事だ」
ゴブリンの亡骸をバシリッサの前に投げ捨てる。
「お前ならコイツならを操っていた勇者の場所を辿れるな?」
《対象を確認。解析を開始します》
ゴブリンの亡骸をスキャンすると、バシリッサはゴブリンに残された能力の痕跡を頼りにアンドウユウナの居場所を捜索する。
《…ターゲット捕捉完了。只今よりナビゲーションを開始します》
「よし」
早速ナタリアがバシリッサに跨ると、しれっとアルレイシャも後ろに跨った。
「私もついてく。言っておくけど断っても無駄だから」
腰に手を回すアルレイシャの手はとても力強く、意志の固さを物語っているようだった。
「いいだろう。乗れ」
「え、勝手についていかなくてもいいの?」
どうやらアルレイシャは断られると思っていたようだ。
「この状況だ。人手が大いに越したことはない。そう判断したまでだ」
「よっしゃあ!」
形は違えどナタリアに求められたことが相当嬉しかったらしく、アルレイシャはガッツポーズを上げる。
「じゃあバシリッサ、思いっきり飛ばしちゃって!!」
《アナタには言われたくはありません》
「はあ!?何よそれ!喧嘩売ってるわけ!?」
《いくらで買われます?》
「あのね!」
――やれやれ…こんな時までどちらも相変わらずだな。
「エイラ。面倒な勇者は俺が必ず殺す。だからお前も自分の出来ることをしろ」
戸惑っていたエイラもやがてその言葉に賛同し、頷く。
「行けバシリッサ。思いっきり飛ばしてやれ」
《ラジャー》
「ちょっ、え、うわぁぁぁ!!」
想像を遥か超えた加速にアルレイシャの悲鳴は直ぐに聞こえなくなった。
「私も一度城へ戻り、騎士団達を騒動員、冒険者ギルドにも応援を要請します」
「しかしこれだけの数だ。騎士団や冒険者達が力を合わせても勇者一人の力にはとても敵いませんよ」
「…確かに私達の力ではどんなに束になろうと勇者には決して届かない。だからってここで黙ってるわけにはいかないんです!王がいない今、この国は私が守らないと」
「エイラ様……」
エイラはヒールを脱ぎ捨て、履いていたスカートを破いて動きやすくする。
「私達は私達が出来ることを全力ですればいい。それ以上のことは私の友達に託すことにします」
「友達ですか……なら!」
マスターが合図を出すと、倉庫から現れたのはバシリッサによく似た試作品、プロトーンだった。
「これは……」
「乗ってください。見た目はこんなんですが、そこらの竜車よりは圧倒的に早い」
正規のバシリッサと比べれば見た目も貧相で部品も所々ツギハギな部分が露出している。
「あの…本当に大丈夫ですか?」
「大丈夫。俺が必ずアナタを城まで送り届けてみせますから」
背中から感じるマスターの自信に自然とエイラの不安はどこかへ消えている。
「行きましょう!」
「あいよ」
エイラを乗せたプロトーンは黒煙を吹き出し、若干おかしな音を奏でながらも、城に向けて順調に走り出した。
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