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49、キキカイカイ

閲覧感謝です!


 

 フードを深く被り身を潜めながら、慎重に路地裏を進みいつものバーへと向かうナタリア。


 あの騒動以降、ナタリアの顔が描かれたイラストなど、様々な情報が一般公開され、人々の目はより一層鋭く厳しいものとなった。


 王都の周りはどこを見ても手配書ばかり。右を向いても左を向いても見えるのは俺の顔。なんだか芸能人にでもなったような気分だ。お陰で落ち着いてタバコも吸えやしないし、宿にも帰れないからシャワーにも入れない。それに何より、困ったのは。


「酒が足りない……」


 そう愚痴を溢したその時だった。


「いたぞ!鮮血妖精〈ブラッディフェアリー〉だ!!」


 前からやってきたパトロールの兵士達に見つかってしまったのだ。


「チッ……!」


 ナタリアは急いで左に曲がると、迷路のような路地裏の道を活かしてとにかく駆け回る。頼みの綱のバシリッサも今は次の有事に備えてメンテナンスに出してしまっているため、自らの足を頼るしか他はない。


「待て!!」


 追ってを振り払うべくそこらにある樽や物干し竿など、目に付く物は全て倒し、出来るだけ時間を稼ぐ。だが背後の兵士達はそれらも気にせず血眼になってナタリアを追いかける。


「そこまでだ鮮血の妖精〈ブラッディフェアリー〉!!」


 応援に駆けつけ、先回りしていた兵士達がナタリアの行手を塞ぐ。


「もう逃げ場は無い。観念するんだな!」


 他に逃げ道はなく、ジリジリと距離を詰められていく。


「こっち!」


 兵士達によって完全に退路は塞がれているなか、物陰から伸びた手がナタリアを引っ張り寄せた。


 物陰へと連れ込まれたナタリアを待っていたのはエイラとアルレイシャだった。


「お前達……」


「話は後。アルレイシャさんお願いします!」


「今日のとっておき使っちゃう。――転移〈テレポート〉!」


 兵士達の目の前で突如物陰へと消えたナタリア達。その物陰は目と鼻の先。


「往生際が悪いぞ。隠れても無駄だ!」


 兵士達は厳重な警戒体制を保ったままその物陰を確認した。


「なっ……!!」


 これまでにかかった時間は僅か数十秒程。しかし、既にナタリアの姿は消えていて、その痕跡すら残っていなかった。


 ◇◇◇◇◇◇


 いつものバーに転移したナタリア達。


「ふぅ……」


 なんか久しぶりだ。こんなに落ち着いてタバコを吸えたのは。ずっと気を張っていたせいかいつもより何倍も美味く感じる。


「おかわり」


 それになんて言っても酒が美味い。ここ数日、兵士達に追われ酒を飲むどころでは無くなり、休肝日を作るという失態を犯してしまった。俺はその数日を取り返すように酒を飲む手もタバコを吸う手も止まらない。グラスが空になればすぐさま酒が注がれ、灰皿には吸い殻が積み重なっていく。


「そろそろ落ち着いたかよ」


 あまりの飲みっぷりと吸いっぷりにアルレイシャやエイラが唖然とする中、マスターだけは見慣れた様子で呟く。


「……ああ。後はシャワーがあれば最高なんだが」


「ウチは宿屋じゃないんだよ。文句があるなるなら他へ行け」


「冗談だ」


 どうやらナタリアはつまらない冗談を言えるくらいには落ち着きを取り戻したようだ。


「…言い忘れていた。さっきは助かった。礼を言う」


「偉く素直ね。でも礼なんかいらないわ。だって私達はあいぼ」


「相棒じゃない」


「もう〜!いつになったら私を相棒だって認めくれんのよ〜!!」


 食い気味に否定されたナタリアを体をくっつけながらダル絡みするアルレイシャ。酔ってもいないのに酔っているようだ。アルレイシャの目の前にはミルクの入ったグラスしか置かれていないのに。


「くっつくな」


「えへへ…」


 面倒くさそうにあしらわれるアルレイシャ。それを少し嬉しそうにしたアルレイシャを冷たい目で蔑んだ。


「…それでエイラ。どうして君までここにいる」


 ナタリアが何事もなかったかのように話しかけてきたのでエイラは少し戸惑っていた。


「え、あ、どうしてもアナタが心配で」


「でもいいのか?今や君はこの国の象徴で、俺は国家を脅かす大罪人なんだぞ」


「私の立場は分かってます。だけど、それとこれとは別の話。アナタは私の恩人で、友達だから。今はこっちの方が大事なんです」


 国家を率いる次期女王として言葉とはとても思えないが、一人の人間の言葉としては素直に嬉しい。


「俺は友達じゃないがな……」


「そんなこと言わないでください。私だって共犯者。もう友達以上の関係なんですよ」


「……そうだったな」


 なんだか見透かされている、そんな気分だ。


「ねぇ、二人してさっきからなんの話してんのよ?」


「こっちの話だ」


「相手が王女様とはいえ浮気なんか許さないんだからね」


「静かにしてろ」


 おしゃべりなアルレイシャの口に牛乳を流し込み、強制的に口を閉じさせる。


「しかし厄介なことになったよな。これだけ騒ぎになったら仕事にもなりやしない」


「心配するなマスター。仕事は平常通り行うつもりだ。当然勇者殺しも並行してな」


「それは嬉しいね…。だけど話は聞いてるぜ。アンタと最弱の勇者は知り合いなんだろ?」


「ブハッ!!」


 その瞬間、アルレイシャは勢いあまってマスターの顔面に牛乳を吹きかけた。


「相棒と勇者が知り合い!?マジで!?」


「おい……」


「あ、ごめん……」


 マスターは呆れた様子で白く濡れた顔面を淡々と拭う。


「……改めて聞くぞ。それでもお前は本当に殺せるのか?」


「当然だ」


 ナタリアは迷う様子も無く即答してみせた。


「…まあ、常連のアンタがそういうんだ。そういうことにしておいてやるよ」


 マスターはナタリアの返答についてこれ以上深掘りすることは無かった。


 その時、店の外から聞こえるザワザワとした妙な騒音が静かな店内にも響いてくる。


「にしてもやけに外が騒がしいな……」


「もしかして、相棒がここにいるのがバレてたりして」


「マズイな…アンタは隠れてろ。アルレイシャ、代わりに少し外に出て様子を見てくれるか?」


「しょがないな〜」


 飲みかけのミルクを一気に飲み干し、外へと向かうアルレイシャ。


 ナタリアもカウンターの裏にそっと身を潜め、銃を構える。


「開けるよ…」


 恐る恐る扉を開いた次の瞬間、待ってましたとばかりにゴブリンが飛びかかってきた。


「ギギャァァァ!!」


「は!?」


ここまで閲覧頂き誠にありがとうございます。


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