5、魔弾
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「なんでもいい。アイツを、殺してくれっ!!」
「その依頼、引き受けた」
ナタリアはクラウンコングの左目を的確に狙い撃つ。
「グオオオォォォ!!」
躊躇無い一発にクラウンコングもたじたじ。思わず悲鳴をあげながら魔法使いの女を手放した。
「キャーーー!!」
地面に激突する寸前、ナタリアが見事に受け止める。
「私、生きてる……?」
「エンフィ!!」
「おいそこの男。彼女を頼んだ」
「は、はい!」
駆けつけた男に魔法使いの女を託すと、女は再び銃を構える。
――クラウンコング。そういえばギルドの掲示板に討伐依頼が出ていたな。しかし、書かれていた情報とは少々特徴が異なる。まぁ、どのみち殺すんだ。なんでもいい。
そして今度は右目を狙い撃つ。
「グガァァァ!!」
両目をやられたクラウンコングは完全に視力を失い、悶え苦しみながら、出鱈目に暴れ始める。
「どうしてこの世界に銃が……?」
「なんなんだあの女は……」
「そんな武器じゃ無理よ。ボス個体は再生も速い。余計に怒らせるだけだわ!!」
「黙って見てろ。これが俺のやり方だ」
男達の元に合流したバンバ達。しかしナタリアは彼らの忠告も無視してマイペースに戦闘を続ける。
「グガァァァッ!!」
出鱈目に暴れるクラウンコングの攻撃を軽くかわすと、手や脚を狙って一発、一発確実に撃ち込んでいく。
「カッコいい…」
ナタリアの圧倒的な身のこなしに男の口からは思わず本音が漏れる。
連続攻撃の甲斐あってか、クラウンコングの動きが鈍くなる。
ナタリアはその隙を見逃さない。使っていたベレッタをしまうと、コルトパイソンと呼ばれる銃身6インチ程のリボルバーを構える。
――前に図書館で見たモンスターの資料によると、確か弱点は麻痺や毒といった状態異常を与えられる魔法だった筈。
ポーチから小さなケースを取り出すと、紫の印が書かれた場所から弾丸を一発取り出し、空の弾倉に一発だけを込める。素早く弾倉を回転させると、その音に耳を澄ませベストなタイミングで手首を振り勢いよく弾倉を戻す。
そしてナタリアは銃を向けると、間を空けずクラウンコングに一発撃ち込んだ。鳴り響く銃声。弾丸はクラウンコングの額に直撃、貫通した様子は無い。
「……」
ナタリアの銃撃は相手を圧倒している。しかし、それ以上にクラウンコングの再生力は並外れていた。さっきまでの傷は無かったことのように回復し、失った視力も完全に復活している。
「ダメだ!効いていない!!」
「だからそんな武器じゃ無理だってば!!」
「やっぱ、銃がモンスターに効くわけが無いんだ…もうダメだ…」
それでもナタリアの様子に変化は無く、淡々としている。
「グオオオオッ!!」
ここから反撃開始。そう言わんばかりにクラウンコングは全速力でナタリア目掛けて突っ込んでくる。
「…もう手遅れだ」
すると、今にも襲いかかろうとしていたクラウンコングの動きがピタリと止まる。
完全に動きが止まったクラウンコングば崩れるように地面に倒れ尽くした。
「何が起こったんだ……?」
ナタリアはリボルバーをしまうと、冒険者達に依頼の完了を改めて報告する。
「これで依頼は完了だ」
「た、倒したのか!?…」
「ウソ。今ので!?」
慌ただしい状況の変化に目を疑いながら、バンバが確認すると、確かにクラウンコングの息の根は完全に止まっていた。
俺が使った特殊弾丸、通称魔弾にはモンスターの性質や能力が込められている。
さっきは猛毒を得意とし植物に擬態するモンスター、ヴェノムカズラの素材で作られた魔弾を使った。
ヴェノムカズラ自体の危険度はCランク程と普段は大人しいモンスターで大したことはないのだが、怒らせた時に奴が吹き出す猛毒は非常に強力で冒険者達からも常々恐れられている。
しかもこの魔弾には百体以上のヴェノムカズラの素材が凝縮して作られているため、一発でも喰らえばそのモンスターはひとたまりもないだろう。それが弱点のモンスターであるなら尚更だ。
「間違いない。死んでいる…」
「信じられない。魔法も使わずこんなおもちゃみたいなので、本当に倒しちゃったわけ!?」
現実を目の前にしても、未だにそれを信じることは出来ず、バンバ達が次に取った行動はナタリアへの執拗な質問攻めだった。
「危険度Sランク超えのボス個体だぞ。それを一体、どうやればこんな簡単に倒せるんだ!?」
「そうよ。こんな凄い武器どこで手に入るのよ!教えて!」
「なあ!」
「ねぇ!」
しつこ過ぎる二人の態度に困ったナタリアは渋々、端的に答える。
「魔弾。話せることはそれだけだ」
「「それは答えになってない!!」」
ナタリアがそれ以上話すことは無かった。
その曖昧な答えに二人は文句たらたら。余りにも二人の距離が近く、ナタリアはフードを深く被り直し一歩引く。
「魔弾ってなんなんだ!?」
「その武器の名前は!?」
「……」
そんなナタリアの気持ちなど知るはずも無く、諦めきれない二人は質問を続けていると、その間に男が割り込んでくる。
「もうやめてください二人とも!」
「タクマは退いて!」
「お前だって強くなりたいだろ!」
「気持ちは分かるけど、まずはお礼を言うのが先ですって!」
「…まぁ、確かに。それもそうだな……」
「ごめんなさい。つい興奮してしまって……」
真っ当な正論に二人も落ち着きを取り戻す。さっきまで弱音を吐いていた人物とは思えない程堂々とした立ち振る舞いだ。
「「「さっきはありがとうございました!!!」」」
3人は揃って深々と頭を下げ礼をする。
「それで肝心の依頼の報酬だが、コイツの討伐報酬全額だ。その代わり討伐の手柄はお前達で構わない」
「ちょっと待って。意味分からないんだけど…」
「何がだ?」
「だってボス個体よ。どう考えたってそんなのあり得ないでしょ!」
「モンスターを倒したのはアンタだ。報酬も手柄も当然アンタの物だ」
「そうですよ。別にちゃんと報酬はお支払いします。アナタがいなければ今頃、僕達は…」
三人は揃って頷く。案外チームワークはいいようだ。
「いや、報酬は俺の物。手柄はお前達の物。それ以外は認めない」
「でも、」
「いいな?」
若干ドスの効いた渋い声。フードの隙間から僅かに見える目は彼らを睨みつけていた。
「わ、分かりました…」
金さえ稼げれば後はどうでもいい。それに冒険者では無い俺が討伐依頼を無断に達成したとなれば、面倒毎は避けられない。そんなのは御免だ。
「だとしてもさ、これ、どうするのよ……?」
無惨にも転がるクラウンコングの死体。
「これだけのデカさだ。普通なら解体して持っていきたいところだが…」
「え、いつも通りそうしないんですか?」
「バカねタクマ。無駄に傷ついていないこれだけ綺麗な貴重なボス個体の素材よ。どれだけの価値が付くか想像も出来ないのに身勝手に解体なんか出来るわけないじゃない!」
「ギルドや武器屋は当然として、調査や研究の目的で他にも至る所が金を出すだろうな」
本来であれば、冒険者達が倒したモンスターは基本的に冒険者達その場で解体を行い、ギルドで換金を行うのが通常の流れ。
しかし今回はそういうわけにはいかないようだ。
「こうなると分かってたら、予め竜車でも手配していたんだけどな」
「分かってたらこんな苦労してないわよ。そもそも私達の実力じゃ当然敵わないもの」
「それもそうだ」
「じゃあどうするんですか?」
「それが分からないから困ってるんでしょ!かといって、このまま放置しておくわけにもいかないし……」
中々話が纏まらない三人に、ナタリアは遂に痺れを切らした。
「もういい。これはサービスだ」
「え?」
ナタリアが溜め息混じりに呟くと、自身の何倍もあるクラウンコングの体をガッチリと掴む。
「「「え……」」」
その華奢な体からは考えられない信じられないパワーで、クラウンコングの巨体を軽々と持ち上げる。
「さっさと行くぞ」
「「「えーーー!!!」」」
エルフになって分かったこと。エルフは俺の想像を遥かに超えて筋肉が付きやすい。
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