45、8人目
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コイツだけはこの手で殺す。この行動には何の意味も無い。それでもこれはナタリアの意思でもあり、俺の意思だ。
「待って!」
引き金が引かれようとした瞬間、聞こえたのはエイラの声だった。
「……その前に、どうして服を着てないの?」
「まぁ、色々あったんだ。気にするな…」
「それは無理よ。いいから早く服を着て」
「そうさせてもらう…」
ナタリアは肌けた姿を覆い隠すように慌ててコートを纏う。
――なんて空気だ。あのむっつりスケベな勇者のせいで全部台無しだ。
「それで護衛はどうした…?」
ナタリアは必死に空気を変えようと冷静さを装いながら淡々と問いかける。
「撒いてきちゃった。どうしてもやり残したことがあって……」
「やり残したこと?」
「…トドメは私にさせて欲しいの。お願い」
こういう要望は案外珍しくない。弱った相手をその手で殺し自らの手で復讐を遂げたいという依頼は過去にも何度か経験がある。
しかし、今回の場合はその要望に応えることはできない。コイツのトドメは俺やナタリアも刺したいと願っているし、厳密に言えば既にコイツのトドメは刺されているからだ。
「諦めろ。コイツは既に死んでる」
「それは分かってる」
「なに?」
ナタリアが握る銃をエイラもその手で握りしめ、引き金にかかったナタリアの指の上にゆっくりとおく。
「私の気持ちは今のアナタやナタリアと同じ。無駄だと分かっててもこの手で決着を付けないと気が済まないの」
「……やめておけ。無意味に手を汚す必要はない」
「唯一の親友と、父親を殺された……コイツは私の仇。その為ならこれは無意味なんかじゃない!!」
『……どうやら諦めるのは私達の方みたい。仕方ないわ、この子がこうなったら何を言っても聞かないから』
――今のは……。
俺の頭の中に響く聞き覚えのある声。
これはナタリアの声だ。ナタリアが俺に話しかけている。
――まさか、君はナタリアか?
『ええ。こうやって話すのは初めてですね、イタルエイジさん』
――俺の名前を知っているのか?
『もちろん。だってこれは私の体ですし、心の中では何度かその名前を言っていたでしょ?』
――君には心の声も丸聞こえだったというわけか。正直聞きたく無かったな…。
『大丈夫。死人に口無しって言うでしょ?偶にあんなことやこんなことを考えていたのは私達だけの秘密ですから」
――君は懐が広いんだな。見ず知らずの他人に勝手に体をつかわれているというのに。少しは怒ってくれてももいいんだぞ。
『怒ってませんよ。寧ろ私は感謝しているくらいです』
――君にとってこれが復讐だからか?
『ええ…きっとこれは女神様が与えてくれた最後のチャンスだったんですよ』
――そうかもな…。
『私がこうしてイタルさんと話せるのもこれが最後だと思います。だから先にお礼を言わせてください。ありが、』
――やめてくれ。昔から、人を殺して感謝されるのはあまりいい気分がしない。
『そうですか……それなら代わりにエイラに伝えてくれますか?』
――自分で言え。お前の体だろ。
『アナタは私。今は自分の体でしょ?』
――そうだったな。
そしてナタリアは俺に一言預ける。
『…じゃ、後はお任せします。私の体は今まで通り好きに使ってください。でも、あんまりエッチなことはしないでくださいね』
――わ、分かった。
『私は先に地獄で待ってます』
――地獄か……。そうだな、必ず行くよ。
そうナタリアが言い残すとプッツンと糸が切れたように何も聞こえなくなった。
「……ねぇ、聞いてる?」
「ああ。聞こえてる」
「それなら一緒にやるよ」
「いいだろう。だがその前にナタリアから伝言だ」
「え?」
余りに突然のことで理解が追いついていないようだ。
「私の親友でいてくれてありがとう。だそうだ」
「本当にナタリアがそう言ってたの……?」
そんなこといくらだって嘘はつけるし、今のナタリアは俺自身。疑うのも無理は無いし当然の反応だ。
「信じるか信じないかはお前が決めろ。俺はちゃんと伝えたからな」
「…信じるよ。これがアナタの言葉じゃないのは私が一番分かってる」
「それならよかった」
俺が思っているよりエイラとナタリアの関係はずっと深いもので繋がっていたらしい。青春的に言えば絆ってやつか。この歳になるとその言葉を聞くだけでなんだか気恥ずかしくなりそうだ。
「だから今度は私から。私もナタリアが親友でほんとうに良かった!!。そう伝えておいてくれる?」
「……その必要はない。きっと聞いてるさ」
根拠は無い。だけど俺には分かる。そんな気がするだけだ。きっとエイラのその笑顔を見てナタリアも笑ってくれていることだろう。
「…そろそろケリをつけるぞ」
手の震えがこれでもかってほどに伝わってくる。緊張や不安がその引き金を一段と重く感じさせるようだ。
「一、二、三で引き金を引く。いいな?」
「分かった…」
「行くぞ」
カウントが始まるとエイラの震えていた指がピタリと止まる。
「一、」
二人の息がピッタリと重なりだす。
「「二、」」
もうカウントは必要無かった。同時に引き金は引かれ最後のカウント代わりに銃声が轟く。
暫くの静寂の中、耳の中で響き渡る銃声が鳴り止むまで二人は一言も発さなかった。
しかしその静寂は長くは続かない。
沈黙を破るように、怒号と共に扉は勢いよく突き破られた。
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