43、沈黙の決戦
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王女エイラ・リーヴァイアと勇者シキジマレンの婚姻式が行われる当日。
昨夜からの雨は上がり、この日は不気味なほどに雲一つない心地よい晴れ空が広がっていた。
ナタリアは式が行われる教会の前で警備を行っていた兵士達をあっさり倒し、後はこの門を突き破り突入するだけ。
弾は十分。腰の左側にはいつものポーチ。右には見慣れない形のガジェットを装備している。例の対勇者用の秘密兵器だ。
勇者の時間を止める力は強大で未だに分からないことも多い。確かだったのは時間が止まっている間も奴だけは動けるということだけ。勇者であっても奴は所詮人間。呼吸をしなければ生きられない生物であることに変わりはない。
「ふぅ……」
ナタリアは昂る気持ちを落ち着かせる為、タバコに火をつける。
式の始まりの合図を表す鐘の音が外にも響き渡る。中には一度きりのお祝いの席を盛り上げようと多くの貴族や友人達が参列していることだろう。うんざりする程のお祝いムードは外にいても伝わってくる。
「さてと、やるか…」
タバコの火を消し、携帯用の灰皿に捨てると粗雑に左のポーチにしまう。
辺りに薄らと漂うタバコの香りを肺に流し込むように大きく息を吸って、止める。
「……」
直ぐにナタリアはガジェットを起動すると、いくつかあるスイッチを適当に押し、ツマミを軽く捻る。白いガスが噴射されると一瞬で無色透明へ変わり景色に溶け込んでいく。
左手にはベレッタ。右手には魔弾入りのコルトパイソン。頼もしい相棒を両手にしかと握りしめ、ナタリアは教会の扉を渾身の力で蹴破る。
「!!」
会場内が騒然とし人々の視線がナタリアに集中する。
中は絶賛、誓いのキスの真っ只中。あと数秒遅れていたらエイラのファーストキスはあの男に奪われていたことだろう。それにはエイラもなんだかホッとした様子を浮かべていた。
ナタリアはベレッタの引き金を引き発泡。この状況を見せしめるかのように分かりやすく女神らしき女が描かれたステンドグラスを派手に破壊する。
――いくらなんでも美化し過ぎだ。本物はそこまでじゃない。
「キャーーーー!!!」
思惑通り、この一発で全てを理解した人々はあっという間にパニック状態に陥り、我先にと出口へと走っていく。
ナタリアは逃げていく人々が目の前を通り過ぎても、気にすることなく、その瞳はターゲットを真っ直ぐと睨みつけていた。
肝心のシキジマレンはというと、何か慌てた様子もなく、冷静に側近達にエイラを安全な場所へと連れて行かせる。
――ここまでは想定内。落ち着け。感づかれたら全て終わりだ。
「全員、フォーメーションアルファ!訓練通り鮮血の妖精〈ブラッディフェアリー〉を包囲しろ!!」
騎士団長の合図で、会場内で身を潜めていた騎士団員達が一斉に姿を現し、一糸乱れぬ動きでナタリアを取り囲んだ。恐らく彼らもこのような事態を想定し、あらゆるシミュレーションを行い訓練を重ねてきたのだろう。
「シールド構え!!」
兵士達は全員巨大な盾を構える。
「前進!!」
盾で身を守りながら兵士達は一歩ずつジリジリと距離を詰めていく。
――まずは邪魔な奴を片付ける。マスターからここにいる兵士達の殺しの依頼は受けている。といっても殆ど金にならない格安案件だがな。
ナタリアは意味ありげにその場をくるくると周りながら、着ていたコートの裾を靡かせていると左手で構えていたベレッタを宙に放り投げる。
「止まれ!」
ナタリアの意味不明な行動に騎士団達も思わず足を止め、様子を見てしまう。
――数は三十。たった一発。それだけあれば十分だ。
コルトパイソンの引き金が引かれ、放たれた一発は真正面の盾に命中する。
普通ならそれで終わり。
しかし魔弾はは鋼鉄の表面を滑るように弾かれ、盾から盾へと跳弾する。弾け飛んでいく魔弾はやがて壁や窓枠などに次々と反射していくたびに軌道が変わり、魔弾は予測不能な光の線となって駆け抜けていく。
「なっ、なんだ!?」
「何が起こってる!?」
兵士達の足元すら正確に撃ち抜き、完璧だった隊列を崩壊させる。
慌てふためく兵士達が目を見開く。
その直後、勢いが衰えることなく跳弾を続ける弾丸は、身を守っていた盾をすり抜け、戸惑っていた兵士達の頭を次々と貫いていく。
――十。
「ぐっ……!」
「位置が読めない!」
「全員落ち着け!!狼狽えるな!!残っているものだけで奴を囲め!!」
隊長の号令通り、残っていた者達だけで再度ナタリアを囲む。しかし、その間にも魔弾は的確に男達の頭を貫いていき、確実に数を減らしていく。
――十五
ポッピングラビットの素材から作られた白の魔弾は跳弾するたびに加速を繰り返す。
――二十五
跳弾する方向と当たる箇所は全て教会内に循環する空気を風として操り調整している。常人離れしたエルフの視力とエルフならではの風との対話を活かしたナタリアしかできない戦闘スタイルでなす術もない騎士団達を圧倒していく。
――二十九。
壁を跳ね、天井を跳ね、半永久的に加速を繰り返した魔弾はやがて最後の一人を残して砕け落ちた。
「この、化け物が……!!」
瞬く間に残りは騎士団長ただ一人。目の前で転がる部下達の未練を果たすため、盾を捨て勇猛果敢に突撃する。
「うおおおおおお!!」
――三十。
ナタリアは宙を回転するように落ちてきたベレッタを手に、躊躇なく引き金を引いた。
騎士団長の体はナタリアを目の前に、途端に力が抜けて崩れ落ちた。
開いたままの扉を閉め、二人きりの空間に閉じ込める。少なくなった弾倉を補充しながら、中央に向かってゆっくりと歩き出す。
するとシキジマレンは笑顔と共にナタリアに大きな拍手を送る。
「素晴らしい!実に一方的で見事な惚れ惚れする腕前だったよ」
――さぁ、後はどれだけ時間を貰えるか、だな。
ナタリアはガジェットのつまみを捻り出力を最大にする。
「死んでいった彼らも見事な働きをしてくれたものだ。君にこれ程の活躍の場を演出してくれたのだからね」
――所詮部下は使い捨ての噛ませ犬か。
シキジマレンは近づくナタリアを前にしても何か動く仕掛けてくる気配は無い。武器も持ってはおらず、隠し持っているような様子もない。反撃してきそうな素振りもなく、余裕綽々といった様子。やはりコイツはこの状況を楽しんでいるようだ。
しかしその余裕振りと気味の悪さは、寧ろ此方には都合が良かった。
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