41、記憶の中の殺意
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「今日でエイラも十五になったんでしょ?大分大人になったよね。初めて会った時はこんなに小さかったのに」
「そんなに小さくないわよ!私だって成長してるんだから」
「ほら、プレゼントあげるから機嫌なおして」
「え、いいの?私に?」
「いらないなら返して、私が自分で使うから」
「いらなくない!使うもん!」
エイラは包装紙を綺麗に外して受け取ったプレゼントの中身を見る。
「これって、髪飾り?」
「エイラに似合うと思って、良かったら付けてくれない?」
「もちろん!」
エイラは早速髪飾りを頭に付けて、手鏡で見栄えを確認する。
「うん。とってもかわいい!」
「気に入ってくれて良かった」
「ありがとうナタリア。これ、大事にするね!」
出会った時から何年も経ったけど、こうやってプレゼントを貰うのは初めてだったから余計に嬉しかった。
「そういえばずっと気になってたんだけど、ナタリアって今いくつなの?見た目は私とそんなに変わらないけど、私より歳上なんでしょ?」
「そうだな〜……」
ナタリアは指で数を数え始めるが、途中で面倒になってやめてしまう。
「分からないわ。百までは数えてたけど、そこから先は数えるのやめちゃったから」
「じゃあ誕生日は?」
「……明日」
「本当に!?じゃあ明日は私がお祝いしてあげる!」
「いいよ。私は」
「ナタリアがよくても私がよくないの!明日もこの時間にここに来て。とびっきりのプレゼントを持って待ってるから!」
ナタリアは少し恥ずかしそうにしながらも、静かに頷いてみせた。
だけど、明日になってもナタリアがいつもの場所に顔を出すことはなかった。
これは後で分かったことだけど、戦争の途中、勇者達が偶々エルフ達が暮らす最後の秘境を見つけたの。そして勇者達はエルフ達を襲い、あっという間に秘境を滅ぼした。
ただでさえ数の少ないエルフ達にとってそこは最後の砦。それを守る為魔法に長けるエルフ達も必死に応戦した。
だけど女神から力を授かった勇者達に敵うわけが無かった。
きっと彼らにとってエルフとの戦いはつまらない戦争を盛り上げるための一興でしなかったのでしょう。
「私がそれを知ったのは戦争に勝利して、全てが終わった頃だった……」
戦争にエルフ族は関係ない。だってこれは人間同士の問題だから。ナタリアが巻き込まれることも無いって勝手に私は思ってた。私達とは関係ない話だって。
でもそれは違った。
ナタリアや私が言っていたみたいに、戦争にも人間とかエルフとかそんなのは関係無かった。
きっとナタリアが度々王都を訪れていたのも、秘境で暮らすエルフ達の為だったんだと思う。言われてみれば、別れの挨拶をする度にナタリアは重そうな荷物をずっと抱えていたから。
私の知らぬところでずっとナタリアは戦っていたんだ。
だけど私は何もしてあげられることは出来なかった。あの時私は助けて貰ったのに……!後悔してもしきれない。
「…だから私は決めたの。ナタリアを殺した勇者達を今度は私が殺してやるって。でも、私の力じゃ勇者は倒せない。だからアナタの噂を聞いて頼ることにした」
感情昂るエイラの瞳には涙が浮かんでいた。
明かされたナタリアとエイラの関係。それがきっかけとなって閉ざされたナタリアの記憶、幾つものの見たことのない景色や映像が断片的だが頭の中に流れてくる。
「これは……」
そこには笑いあうエイラの姿が見える。
更に場面が変わるとナタリアの両親だと思われる二人のエルフと家族水入らずで話している。内容までは分からないが、とても楽しそうだった。
暫くすると場面は一気に変わり、ナタリアの目の前に広がっていたのは無惨にも殺されたエルフ達の亡骸。その中には両親もいて、それを見たナタリアの感情が今にも伝わってきそうだった。
他に生き残りはおらず、生きているのはナタリアだけ。抵抗する力さえ残っていないナタリアはもう、なるように身を捧げることしかできなかった。剛力〈マッスル〉や魅了〈ファッシネイト〉など俺が殺してきた男達がナタリアを変わり代わりに気が済むまで襲っていった。どんな泣き喚き叫んでもそれが終わることはなかった。
その場に全ての勇者がいるわけでは無かったが、そこに居合わした勇者と思われる女が何も抵抗出来ずに襲われるナタリアの姿を嘲笑っている。
これ以上の記憶は朧気で、何が何だか分かったものではない。だかしかし、一つ確かなのは、死ぬ直前までナタリアは決して諦めてなかったということ。
それだけはこの体で生きる俺には良く分かる。
「全部そういうことだったのか…」
「え?」
勇者を殺す度に胸が高鳴り満足したような気持ちになったのも、俺の意思とは無関係に上がる口角や喜びの感情も全部そのせいだったのか。
「俺は……ナタリアは勇者達に復讐していたんだ」
しかし納得がいかないのはそれを分かっていて何故女神はこの体に俺を転生させたのか。正直、碌な理由では無さそうだ。
「…ねぇ、人を殺すのってどんな気持ち?」
「俺にとって殺しはただの仕事だ。それ以上の感情は無い。が、彼女の気持ちは違うらしい」
「それってお父様を殺した時も?…」
「いや、彼女も俺もあの時は動揺していた。殺すつもりのない相手を殺してしまったからな」
ナタリアはあの時起こった状況を自分の考えも合わせながら、包み隠すことなく全てを話した。
「そう。あの勇者がお父様を……」
「自分で言うのもアレだが、信じていいのか?俺は父親を殺した相手だぞ」
「信じたいって言う方が正しいかな。アナタがナタリアじゃないのは分かってるけど、私はやっぱりナタリアを信じたいから」
「そうか……ありがとうエイラ」
その時、エイラには本物のナタリアの面影が一致して見えた。
「ナタリア…」
「どうした?」
「いや、なんでもない。とにかくシキジマレンだけは止めないと」
シキジマレン。またの名を時間の勇者。勇者の中でもリーダー的存在で、誰よりも頭がキレる。立ち振る舞いは人たらしの人格者。だけど時折り見せる笑顔は張り付いたようで、何を考えているかは分からない。とにかく食えない男で誰よりも敵に回してはいけない存在であるのは確かだ。
「王女という立場がら全ての勇者と会った事があるけど、彼はその中でも別格だった。何を考えてるのか分からなくてとにかく不気味だった」
「勇者なんてどれも碌な奴じゃない」
揃いも揃って一癖も二癖もある変わったやつばかりだしな。
「だけど最初は皆さんあんなんじゃなかった。戦争が彼らを変えてしまった。ただ一人を除いては……」
「一人?」
「最弱の勇者。めげずに彼だけはずっと変わっていない。最弱という名前が似合わないほど、彼は強い男だと私は思ってる」
――最弱と呼ばれても尚、強いと言わしめる男か。多少は勇者らしい男もいるらしい。
「どちらにせよ勇者は全員俺が殺す。ソイツがどんな奴だとしてもな」
エイラには、その言葉がまるでナタリア本人が喋っているように聞こえた。
その言葉からは二人の強い意志を感じさせる。勇者を殺したいと願う理由や目的は違えど、目指すところは同じなのだから。
「……明日、正式にシキハラレンとの婚姻の儀を行います」
「こんな状況でよくやるな」
「そういう奴なんですよあの男は。婚姻の儀が済んでしまえば、奴が国王の座を継ぐことを止められなくなる。それまでになんとしてでも奴を殺してください」
「分かってる。俺もそのつもりだ」
――しかし、シキジマレンが俺の思うような奴ならば、恐らくこれは俺を誘い出す為の仕掛けだろう。殺したければ殺しに来い。悔しかったらやってみろってな。
「シキジマレンの能力がアナタの言う通り時間を止められる類の力なら、一体どうすれば…」
「俺に殺せない奴はいない。手なら考えてある」
奴の能力が俺の考えるような能力であれば、あの手段なら殺せるかもしれない。少々俺にもリスクを負うことになるが、そうも言ってられない状況だ。どんな手を使ってでもやるべきだ。
「その為にアナタに頼みたいことがある」
「頼みたいこと?」
「今回の依頼の報酬の前借りだ。生憎、今の俺の手持ちはスッカラカンでな。僅かに残っていたヘソクリもさっき使い切ってしまったんだ」
「それで本当に勇者を殺せるならなんでもいいわ。だけどどうするつもりです?」
強い相手に勝つにはそれ相応の強力な武器が必要だ。
「決まってる。その金で対勇者用の秘密兵器を用意する」
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