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39、アナタは誰?

閲覧感謝です!


「あらら、びしょ濡れじゃない。傘くらいさせばいいのにその姿じゃ王女様の肩書きも台無しね」


「エイラ様になんて口を利いてんだ。それよりタオルだ」


 他人事のアルレイシャを叱ると、マスターは慌ててタオルを手にエイラの元に駆け寄る。


「良かったらこれ使ってください」


「……」


 しかしエイラはマスターにも目をくれず中へと突き進む。その勢いのまま、黙って酒を飲むナタリアの胸元を掴んだ。


「どうして……どうしてよ……!」


 静かに呟きながら鬼のような形相でナタリアを鋭く睨みつける。


「ちょっと!」

「エイラ様!」


「よせ」


 嫌な空気を察して慌てて二人の間に入ろうとするアルレイシャ達だったが、ナタリアの呼びかけでその足を止めてしまう。


「理由がなんだろうと、彼女の父親を殺したのは俺だ。それを否定するつもりは無い」


「だけどあれは……」


「いいから黙ってろ」


 ナタリアは抵抗する素振りを見せるどころか、持っていたベレッタの安全装置を解除し、エイラに握らせる。


「どういうつもりよ……」


「目を見れば分かる。お前は俺を殺したい程憎んでる。そうだろ?」


「…アナタは私の父を殺した。殺したいに決まってる…!」


「だったら殺せ。お前にはその覚悟も、権利もあるのだから」


 微かに震えるエイラの手を強く握りしめ、ナタリアは自らの手でその額に突きつけさせる。


 その様子を見ているアルレイシャやマスターも思わず戸惑いを隠せずにいる。


 息が詰まりそうな空気に完全に飲み込まれてしまった。アルレイシャ達は二人の危機迫る迫力に圧倒されなす術なくその場で黙っていることしか出来なかった。


「やれ。俺にはこんな責任の取り方しか知らない」


「ふざけないで……」


「ふざけてなどない。俺は本気だ。覚悟は出来てる」


「ふざけないでよ!!」


 するとエイラはナタリアの手を振り払い、フードの上から思いっきりナタリアの顔を張る。


「分かった気にならないで!!殺したいわよ…殺したいに決まってる!!だけど、死んで終わりになんて絶対にさせないから!!」


 見事に振り抜いた渾身の一撃はナタリアの頬を赤く染め上げ、フードによって隠れていたその素顔を露わにした。


 微かに涙を浮かべながら目を尖らせるアルレイシャ。しかしその素顔を見た途端、エイラの顔は怒りから驚きへと変わる。


「ナタリア……?」


 ここにいる誰もが、エイラの前では一言もナタリアという名を発してはいない。なのに何故か彼女はその名を呟いた。


「え、なんで……本当にナタリアなの?本当に!?」


「待て、何故俺の名前を知ってる?」


「やっぱりナタリアなんだ。私だよ!私!覚えてるでしょ!?」


 ナタリアの素顔を見た途端、明らかに様子がおかしくなっている。グイグイと詰め寄ってくるエイラに妙な恐怖を覚えたナタリアはエイラに銃を向けた。


「動くな!さっきから一体なんなんだ……?」


「良かった、本当に良かった……」


「来るな!」


 ――まさか俺の、いや、ナタリアのことを知っているのか?


 突きつけられた銃口を目の前にしても怯むことの無いエイラ。


「ずっと探してたんだよ?生きてるなら教えてくれれれば良かったのに」


「黙れ」


 ナタリアは脅しのつもりでエイラの足元を狙って発泡しようとする。


「なっ……」


 しかし引き金にかかった人差し指には妙な力が入り硬直を起こし引き金を引くことができない。


 ――まさか、この体が彼女を傷つけることを嫌がっているとでもいうのか。


「ずっと死んだと思ってた」


 その時俺は思い出した。あの頭痛の時、脳裏に過った見知らぬ女との記憶。その特徴的な緑色の髪飾り、やはり間違いない。あれはエイラだったのだ。


「…止めた。どうやら昔の俺はお前のことかよほど大切だったらしい」


 ナタリアは銃を下ろし、飲みかけだった酒を一気に飲み干す。


「ねぇ、死んだってどういうこと?相棒はこのお嬢様と知り合いだったの?」


 今度はアルレイシャが詰め寄ってきて質問攻めしてくる。ナタリアはそれを黙って遇らうと、マスターに金の入った小包を渡す。


「これで暫く二人だけの貸し切りにして欲しいんだが、構わないか?」


「……あいよ」


 マスターの察しが良くて助かった。


「ちょっと待って!二人の関係めちゃくちゃ気になるんですけど!?」


 妙に察しが悪くて面倒な奴もいるけどな。


「いいから行くぞ、ほら」


「やだ」


「ヤダじゃない」


「イヤなのはイヤなのよ!なんで相棒の私が出てかなきゃいけないのよ!出てくならマスターだけ出ていけばいいじゃない!」


「駄々を捏ねるな。後でミルクをサービスしてやるから」


「それじゃ割に合わないわよ。ねえ、相棒ってば〜〜〜!!」


 まるでおもちゃ売り場で駄々を捏ねる子供のように中々店を出て行こうとしないアルレイシャをマスターは強引に引き摺りなから店を出ていく。


 アルレイシャの叫び声も大雨に掻き消され、扉が閉まった。

ここまで閲覧頂き誠にありがとうございます。


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