38、デタラメな意味不明
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「……相棒、大丈夫?」
「…………」
バーのカウンターで下を向いたまま黙って項垂れるナタリアを心配そうに見守るアルレイシャ。
何を言っても返事は無く、この状態がかれこれ一時間は続いている。
「ダメだ。やっぱり聞こえてない」
「さっきからずっとこの調子か……」
いつもなら『相棒じゃない』って怠そうに即答してくるのに、今日はその声も聞こえない。
マスターがいつもよりちょっと高い酒を差し出してもナタリアは目もくれず、いつも山のようになっているタバコの吸い殻も灰皿の上は空っぽだ。
「こりゃ重症だな」
「仕方ないわよ。私だってこんな結果になるだなんて思ってもいなかったし」
「まさか無敵の鮮血の妖精が失敗するだなんてな……」
「この一件で国中は大パニック。前まで鮮血の妖精を影の英雄だなんて持て囃していた世論の連中も、一瞬で手の平をひっくり返して目の敵にしてるわ。所詮はただの殺し屋だったてね」
「その分、こっちの世界での鮮血の妖精の株は大上がりだぞ。なんてたって勇者殺しに国王殺しだからな。その噂を聞いて貴族や他国の王殺しの依頼まで殺到しているくらいだ。全てなこなせば大儲けだぞ」
「アレが仕事のできる状態ならね……」
やっぱりナタリアは動かない。まるで魂が抜け落ちたみたい。
「だけど、どうして相棒が撃った弾は勇者じゃなくて、国王に当たったのかしら?」
「銃弾は風の抵抗を受けやすい。どんなに予測したって思い通りになるとは限らないものだ」
「でも相棒はその風すら完全にコントロールしてたのよ。となると、やっぱり他に原因があるんじゃ?」
「その原因ってなんだよ?」
「それは私に言われても……」
「原因なら予想はついてる」
するとナタリアは顔を上げ、ようやく好物の酒に手を出し始めた。
「聞いてたんだ」
「…死んでたわけじゃない。当たり前だろ」
「酒を飲んでちょっとは調子が戻ってきたって感じね。でも、本当に大丈夫?」
「……大丈夫かどうかで言えば、大丈夫じゃない」
「やっぱり」
「だからって終わったことを悔いてる暇はない。後悔も反省もした。後はそれを活かして前に進むだけだ」
そういうとグラスからみるみる内に酒が空になる。調子良くタバコもふかし始め、少しずついつものようにリズムを整えっているのが分かる。
「流石は私の相棒ね。逞しい」
「それでいい。こんなところでアンタに腐られちゃ、俺の商売もあがったりだからな」
正直、マスター達の前だから平気そうにしているが、内心はめちゃくちゃ悔しいし戸惑っている。それが本音だ。
だが、人生生きていればこんなことは日常茶飯事。今までも似たような修羅場なら幾らでもあった。
だから分かる。こんなところで立ち止まっていては、後で上手くいくものも上手くいかなくなると。
「伊達に長生きしてたわけじゃないんでな…ちょっとは学習するさ」
「エルフって長寿命だもんね。私達バニーはあまり人間と変わらないから羨ましいかも」
別にそういう意味じゃなかったんだけどな。エルフとしての生活はまだ一年も経っていないし、俺がいくつなのかも俺は知らない。
「それで相棒」
「相棒じゃない……」
「!!」
喜ぶことは何一つ言われていないのになんだか嬉しそうにするアルレイシャ。
「…それよそれ。相棒はそうこなくっちゃ!」
「だから俺は相棒じゃ、」
「もういい。このままじゃ全然話が進まない」
そんないつものやり取りを微笑ましく思いながらも、マスターが間に入る。
「それより、アンタが外した原因についてだ。一体何が分かったんだ?」
「恐らく奴の能力は時を操れる系統の類だろうな」
「それってつまり時間を止めたりできるってこと?」
「そうだ。前に俺と勇者が接触した時も、奴は突然姿を現し姿を消していた。それも止まった時間の中で移動していたと考えれば説明はつく」
フィクションで時間停止は子供向けから大人向けまで幅広く使える定番コンテンツだ。
漫画やアニメに大きな影響を受けているあの女神なら、この手の能力はきっと大好物だろう。勇者を召喚したのだって、巷で異世界転生とやらが流行っていたから真似したかったとかいういい加減な理由だったからな。
そんな女神のことだ。どうせそれがどんな使い方をされるとか考えもせずに力を与えたに違いない。
「引き金が引かれ弾が発射された瞬間と、国王が撃ち抜かれた瞬間では僅かに風の向きが変わっていたらしい。それは恐らく奴が時間を止めたのが原因だろう」
「どういうこと?」
「これは想像だが、奴は止まった時の中で、自分目掛けて発射された弾を国王目掛けて飛んでいくように弾道を変えた。弾道を変えたことで僅かだが風の流れに影響が出て向きが変わったのかもしれない」
あの時の風は銃弾が勇者に目掛けて飛んでいくように真っ直ぐと追い風が吹いていた。しかし、終わってみれば風は若干右方向に流れていた。そう、風が俺に教えてくれたのだ。
ついでに言えば、勇者がこちらの位置を知っていたのも時間を止めいてた時に片っ端から狙撃ポイントをしらみつぶしに探したからだろう。普通に考えれば気が遠くなるようなあり得ない作業だが、止まった時の中なら時間に囚われる必要は無い。
しかし不思議なのは、自分の命を狙ってる狙撃手の位置が分かったのにも関わらず、俺達を殺すどころか、なんの反撃もしてこなかったことだ。さっきからずっとその理由を考えているのだが、これっぽっちもそれらしい理由は思いつかなかった。
「でもそれってちょっと変よね?…」
「やっぱお前もそう思うか…」
「うん。国王を殺したのは勇者だったとしたら、どうして国王を殺す必要があったんだろう。このまま行けば黙ってても国王になれた筈なのにさ…」
国王の娘は依頼人の彼女一人。そもそも今回の結婚はこの国の英雄である勇者を次期国王にするための政略結婚だった。勇者がその気になればこの国だって他の国のように滅ぼされてしまうかもしれない。だから今回の結婚だ。勇者を国王として国に取り込んでしまえば、どんな結果になろうともこの国が勇者によって滅ぼされることは無くなるし、勇者が国王となれば他国への圧力にもなる。
「だから分からないんだ。あの男が何をしたいのか……」
何故わざわざ国王を殺す必要があったのか。俺達の存在に気付き、生き残るだけなら弾道を自分から少し逸らせばいいだけだ。アルレイシャが言った通り、殺さずとも国王にはなれたのだから。
あの時もそうだった。
奴は俺に命を狙われていることが分かっているのに、俺を殺すつもりがない。さっきからこの勇者の行動には意味不明でデタラメだ。何かあるのは間違いないがその意図が分からない。殺さなくていいものを殺してみたり、殺せるものを敢えて殺さないでみたり。
自分は絶対に殺されないと、自分の力に余程の自信があるからなのか。これが今までの勇者ならそんな子供みたいな理由でも疑わなかっただろうが、あの男がそんなバカだとは俺にはどうしても思えない。
寧ろこの状況を何かの余興のように楽しんでいるように、俺はあの笑顔を見てそう感じた。
「俺達は思った以上に面倒なことに首を突っ込んでしまったらしいな……」
その時、店の扉がゆっくりと開くと、地面に打ちつける激しく地面を打ちつける大きな雨音が中に響きわたる。
全員がふと視線を向けると、立っていたのはずぶ濡れ姿のエイラだった。
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