37、領域外の勇者
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パレード当日。
勇者と王女の晴れ舞台を一目見ようと、多くの人々が広場に集まっている。遠く離れたこの屋上からでもその様子が俺の目にはバッチリと見えている。
「本当にここから狙うわけ?この前より離れてるし、天才である私が千里眼の魔法を使ってギリギリ見える程度よ。本当に大丈夫?」
何故か隣から声が聞こえる。
「ねぇ、聞いてる?」
「なんでお前がいるんだ?……」
気がついた時には既に、アルレイシャは当たり前のように俺の隣にいた。
「何言ってんのよ。いるのは当たり前でしょ?私はアナタの相棒なんだから」
コイツも懲りないものだな。
「相棒じゃない。マスターから聞いたのか?」
「まぁね。心配無いだろうけど、念の為に付いてってやれって言われてさ。相棒のためにノーギャラで追いかけてきちゃった!」
今更、かわいく言っても無駄だ。
「追いかけてくるな。心配無いと分かってるならさっさと帰れ」
「そんなこと言わないでよ。相手は一応何をしでかすか分からない勇者なわけだし、戦力は少しでも多い方がいいでしょ。足は引っ張らないって約束するからさ」
マスターも余計なことを口滑らせてくれたものだ。依頼人が王女様だし、報酬が白金貨とあってマスターも気が気で無いのだろう。
パレード開始までもう時間も無い。ここで断って下手にゴネられるくらいなら放っておくか。
「…邪魔だけはするなよ」
「分かってるって」
王女の話では、勇者達を乗せた竜車は向こうの三番通りからこちらの広場に向かってくる筈。
ここから広場まではザッと数えて五キロ。射撃の世界記録が約三.五キロ程。となると、それより遥かに遠いからの射撃など普通は不可能。だが、エルフの視力ならその気になればこの程度の距離は曇りなく見通せる。
そしてマスターに急ピッチで仕上げてもらった、タックルイーグルの核を使って作られた狙撃用の魔弾。これなら速度を維持しながら、何かに当たるまで弾丸は宙を飛び続ける。
肝心な風向きは常にこちらに有利になるように吹くように風とも話はつけてある。故に失敗する可能性は微塵も無い。
「あ、見えてきたわよ。あれじゃない!?」
遠くから装飾された竜車が広場に向かって走ってくるのが見える。竜車の荷台には髭の立派な国王と見られる男が一名。
確か名前はバルヘルド・リーヴァイア。たった一人でこの国を世界随一の大国家へと成長させた立役者。といっても勇者の活躍あってこその結果で、彼は所詮その力に便乗したに過ぎない。その隣には依頼人の王女と、ターゲットの勇者が湧き上がる人々に笑顔で手を振っている。
「婚約者ってアイツだったのか…」
「なに、どうしたの?」
「別に。ただ、あの勇者と顔見知りだっただけだ」
「何それ!?」
ビアンナを救出に向かった際、バシリッサで走る俺の前に突然現れた死にたがりの勇者。
得体の知れない気味が悪い奴だとは思っていたが、まさかアイツが王女様の婚約者だったとはな。
「ねぇ、その話もう少し聞かせてよ!なんかめちゃくちゃ気になるんですけど!?」
「いいから黙ってろ」
アルレイシャの唇に指を置き、静かにさせる。
「はい……」
アルレイシャは少しだけ頬を赤くして、言われた通り口を閉じた。
そうこうしている間に竜車は広場に到着し、用意されたステージには王が現れ、演説を始めている。
何を言っているかまでは俺には聞こえないし、興味は無いが、きっと型にハマった退屈なことを長々と話しているのだろう。王 殆どの護衛達は国王の側に集中していて、竜車にいる王女と勇者の周りは完全にガラ空きだ。しかも、王女が気を利かせて、こちらから狙い易いようにしれっと位置も調整してくれているのも有り難い。その位置なら邪魔する障害物は一切ないし、貫通した弾が王女がそれ以外の人々に当たる可能性も殆ど無い。
「よし……」
スコープの中に勇者を捉え、頭に狙いを定める。
「いいぞ、やってくれ……」
ナタリアが呟くと、風がそっとナタリアの髪を靡かせ、風は広場に向かって追い風が吹く。
「……!」
スコープの中が揺れが完全に止まった瞬間、引き金は引かれる。弾は風の流れに導かれるようにターゲット目掛けて一直線に飛んでいく。
外すことはない。完全に勝利を確信したナタリアはスコープから視線を外す。するとアルレイシャは鏡片手にそれを待ち構えていて、反射する自分と目が合う。
言われた通りだった。その姿は自分でも驚くほど、鏡に反射する俺の顔は口角が上がりとても満足そうに喜んでいるように見えた。
そう目を離していた次の瞬間、風が途端に慌ただしくざわめきだし、ナタリアに異変を知らせた。
「なんだ……」
風の注意に促されるように、再びスコープを覗き、広場に注目する。
広場は騒然となっていた。倒れた勇者の姿を見て、広場はあっという間にパニック状態に陥っている。
しかし何かがおかしい。よく確認してみると、騒ぎの中心になっているのは死んでいるはずの勇者がいる竜車の付近ではない。
「なっ……!!」
騒ぎの中心で倒れていたのは、あろうことか勇者ではなかった。勇者を狙った筈の弾丸が貫いたのは勇者ではなく、国王の頭だったのだ。
「何故だ…」
「ちょっ、何やってんのよ!!」
アルレイシャも想定外の事態に気付き騒ぎ出す。
俺が外したのか?……いや、仮に外したとしてもだ、国王と勇者の距離を考えてもそれはあり得ない。
「何がどうなってる……」
この状況をまったく理解することが出来ず取り乱すナタリア。
ふと勇者がいた筈の竜車に視線を向けると、そこに見えたのは竜車の上で泣き崩れる王女を優しく抱きしめる勇者の姿だった。
「アイツ……」
すると、勇者がこちらを向く。スコープ越しに見えた勇者は笑顔で目配せをしていた。
ーーバレてる……!?
「アイツ、今こっち見なかった!?」
あり得ない。何故気づかれた。広場からここまでどれだけの距離があると思ってる。魔法や能力で視力は を強化したとしてもだ、たった一発。たった一発の弾道から瞬時に狙撃手の位置を的確に特定したというのか?
「ねぇ、どうすんの!?もう一回狙うなら今しかないわよ!!」
「分かってる……」
一度冷静になれ。まだ終わったわけじゃない。スコープの中に確実に勇者は入っていて、逃げる様子は無い。弾は装填済み、風向きも良し。後は引き金を引いてアイツを殺すだけ。大丈夫だ、今度こそ当ててやる。
…いや、本当に当たるのか?このまま撃って、俺は本当にアイツを殺せるのか?…バカか俺は。何をひよってる。いいから撃て。いつもそうしてきたことだろ!
「相棒!!」
「…………ッ」
いくら撃てと頭で命じても、指が引き金に引っかかったまま最後の力が入らない。
「…………逃げるぞ」
「分かった…」
ターゲットは目の前で弾もまだ残ってる。今ならまだなんとかなった可能性だってあったかもしれない。
しかし、今の俺にはもう無理だった。俺はこの手で依頼とは関係無い人物を撃ち殺したのだ。
俺は今日、初めて依頼を失敗した。
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