34、狙う
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とある建物の屋上。風が僅かにナタリアの頬を撫でる。
「……ターゲットは十人。全員補足完了。そっちは?」
ナタリアは低く呟き、スコープ越しに地上を覗き込んだ。
「問題無し。こっち見えたわ」
路地裏。狙うは街灯の下でたむろするチンピラ達。
コイツらを全員、一人残らず始末するのが今日の仕事。奴らの笑い声はここまで届かない。ただ、唇の動きとその仕草だけで、くだらない会話をしているのが容易に想像できる。
「もうすぐ殺されるってのに呑気な奴らね」
隣でアルレイシャも双眼鏡を使って覗き込み、状況を確認している。
「だけど相棒、攻撃魔法も使えないのにここからどうやって奴らを殺すっていうのよ?」
「相棒じゃない…その為にコレを使うんだ」
ナタリアが構えているのはセミオート式のスナイパーライフル。
最近、マスターからぼったくり価格で譲り受けた所謂SVDというやつだ。少し前に魔法鞄とやらも買ってしまったお陰で暫くは安酒で我慢する羽目になってしまった。まぁ、これも一種の自己投資、必要経費だ。
その分、仕事も数をこなして早く元を取らなくては。このままではタバコも碌な数を吸えやしないからな。
「ここからだと結構距離も離れてるけど本当に大丈夫なの?凄腕の魔法使いでももう少し距離を詰めると思うけど」
「いいから黙ってお前は見てればいい」
「は〜い……」
アルレイシャは若干拗ねた様子で口を尖らせるの、間も無く黙る。
「……」
ゆっくりと呼吸を整える。耳を澄ませ、風の声を聞く。
「風速はおおよそ八メートルってところか……」
大分はしゃいでるな。狙撃をするには少し騒がしすぎる。
「少しの間でいい。静かにできるか?」
「え、私!?ちゃんと静かにしてるじゃない!」
「お前じゃない」
「じゃあ誰よ?」
ナタリアはスコープを除いたまま、雲一つない青空をを指す。
「上には何もいないけど?……」
するとナタリアの呼びがけに答えるように、風は吹き止む完全に無風状態となった。
「いいぞ。そのままちょっと待ってろ」
「まさか、風と会話してるの?」
風は余り我慢強くはない。さっさと終わらせよう。
「……一人目」
引き金がわずかに沈むのと同時に乾いた破裂音が響く。
次の瞬間、スコープの中で一人が崩れ落ちる。突然の出来事にチンピラ達は何が起きたのか分からずに固まっている。
「続けて五人」
風が吹いていない分、調整も早く狙い易い。間を空けずにナタリアは淡々と引き金を引き、五人の男達を連続して始末する。
「すごっ……」
双眼鏡でその様子を見ていたアルレイシャも思わず声が漏れる。
「残り四人」
ようやく状況を理解したのか慌てふためくチンピラ達。しかしナタリアは冷静に狙いを外さない。
更に連続する銃声。
照準を合わせるまでの動作が流れるように繋がっていく。
「これで終わりだ」
最後の銃声が無慈悲に響き渡る。
先程まで無駄話に花を咲かせていたであろうチンピラ達が、今は全員揃って瞬く間に地面に転がっている。
「もういいぞ。助かった。ありがとう」
風は返事をするようにナタリアの髪をさっと靡かせると、後に吹いた風がナタリアが履いていたスカートを捲る。
「あ、」
「…困ったスケベな風だ。オマケだぞ」
「なんでそんな冷静にいられんのよ?…」
「お礼だよ。別に減るもんじゃないしな」
すると今度はアルレイシャのスカートを捲ろうと風が吹く。
「ちょっと!!」
恥ずかしそうに顔を赤らめながら、必死にスカートを抑えるアルレイシャ。
「何どさくさに紛れて私のまで見ようとしてんのよ!このスケベ!」
「そんなに怒るな。減るもんじゃないだろ?」
「そういう問題じゃないのよ!!女の子でしょ?ちょっとは恥じらいなさいよ」
ーーそんなこと言っても見た目は女でも肝心の中身が女の子じゃないからな。女の体には慣れたが女の気持ちまでは未だに分からない。
念の為、スコープ越しに全員の死亡を確認していると、ひっそりと物陰に隠れていた男を見つける。
「…ターゲット追加。バレバレだ」
身を隠す男にな狙いを定める。
その時、ナタリアに重くのしかかるような頭痛が襲う。
「ぐっ…」
頭が割れるのではないかと勘違いするような激しい痛み。突然の頭痛の中、脳裏に過ぎるのは霧に包まれたようなぼんやりとした景色。そこには緑色の髪飾りを付けた女とナタリアらしき女が仲良く笑い合っているのが見えた。
――なんだこれ…こんな記憶、俺は知らないぞ。
「チッ…!」
その一瞬の戸惑いが、放った弾丸の弾道を僅かに右へと逸らした。
「うわぁぁぁぁ!!!」
男は慌てて絶叫しながら全速力で逃げていく。
「なに、どうしたの?」
痛みはもう治ったが、こんな初歩的なミスをするとはなんてザマだ。弛んでいる証拠だな、改めて気をに引き締めなくては。
「悪い。一人逃した……」
「…珍しいじゃん。いいわよ、だったら助けてあげる!」
アルレイシャは揚々と屋上を飛び移りながら男を追いかける。
「その必要は無い。自分のケツくらい自分で拭くさ!」
ナタリアも直ぐに男を追って、屋上から飛び降りる。
「バシリッサ!」
《ようやくワタシの出番ですね!》
それをバシリッサがタイミング良く受け止めると、そのまま男を追って走り出す。
《ターゲット補足。速度を維持します》
バイクの振動、風圧、刻々と変わる距離と角度全てをすべてを一瞬で読み切り、的確に狙いを定める。
「逃しはしない」
銃弾はスコープ越しに捉えた逃げ惑うターゲットの頭を貫いた。銃弾は逃げ惑うターゲットを貫き、地面を転がっていく。
「トドメ!!」
追い討ちをかけるように、屋根から飛び降りたアルレイシャが転がる男の体を真っ二つに切り裂いた。
「どんなもんよ〜!」
「…やり過ぎだ」
「何が?」
合流して早々褒められるかと思ったらいきなり小言を言われ、全く意味が分からないといった表情を浮かべるアルレイシャ。
「俺が撃った時点でターゲットは死んでいた。ここまでする必要は無かった筈だ」
「念には念をってヤツよ。て、なんで私が怒られなきゃなんないのよ。それに相手はターゲットで人間なのよ。別になんだっていいじゃない」
エルフもバニーも人間に迫害されてきた存在。怨みを持っていたって不思議じゃない。
「プロなら仕事に私情を持ち込むな」
「そう言う割りには相棒も勇者を殺す時はいつもいい顔してるじゃない」
「……なわけあるか」
「まさか自分で気づいてないの?あんなに楽しそうに笑ってるのに」
俺が笑う?しかも殺しの最中に?あり得ない。
アルレイシャの言っていることに全く心当たりはなかった。
「デタラメはやめろ。俺は笑ったことも殺しに快感を覚えたこともない」
「デタラメじゃないってば。あの爆発の時だって炎を見ながら笑ってたのよ」
《確かにナタリアは勇者を目の前にすると心拍数が急激に上がる傾向にありますね。それが笑いや快感といった感情と関係があるかはワタシには分かりませんが》
「やめろバシリッサ。お前までコイツの戯言に乗るな。調子が狂う」
アルレイシャならともかく、バシリッサまでこんなことを言うとは。マスターにメンテナンスでもして貰うか。
慣れた手つきでライフルを分解し、ケースに収め、撤収作業を終える。
「帰るぞ」
「はーい」
少し派手にやり過ぎたが、依頼通り仕事を終えたことには変わらない。これでまた仕事終わりの美味い酒が飲めそうだ。安酒でも仕事終わりの一杯はいつも格別だ。
「そういえば、ずっと気になってたんだけど、さっきから当たり前に喋ってるコレ、なんなの?」
そういえばまだ話して無かったな。
「…自己紹介してやれ」
《初めましてアルレイシャ。ワタシはバシリッサ。ナタリアの相棒です》
「へぇー相棒なんだ〜。相棒ね〜……相棒!?それってどういうことよ!相棒は私でしょ!?」
相棒が渋滞し過ぎだ。ただでさえ嫌いな言葉なのにこんなに何度も聞いてはうんざりする。
にしてもバシリッサのヤツ、アルレイシャのことを揶揄ってるらしい。普段感情の分からないバシリッサだが、今回はなんだか楽しそうだ。
「そういうことだから、帰るぞ相棒」
《ラジャー》
ナタリアはバシリッサに乗ってアルレイシャを置いて早々と帰ってしまう。
「あっ、待って!!まだ話が終わってない!相棒ってばー!!」
再び吹いた風はアルレイシャを揶揄うように再びスカートを鮮やかにめくったのであった。
「ちょっと!!」
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