33、一歩目のプログレス
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〈最弱の勇者〉タクマの目の前にいるのは、ゴブリンの群れ。
奴らは基本群れで行動し、家畜を奪い、人を襲う。一体の強さは大したことないが、数が増える毎にその脅威は増していく。
「はあぁっ!!」
ザッと数えて百はいるゴブリンの群れに、たった一人で威勢よく果敢に飛び込んでいく。
魔法も能力も使えないタクマの武器は、ヒノキの棒一本のみ。
「ギャギャギャッ!!」
誰がみても頼りない装備にゴブリンも笑いが止まらない。
無謀ともいえるタクマの選択を、遠くからバンバとエンフィがそれを見守っている。
「余裕でいられるのも今の内だ」
「行けタクマ!特訓の成果、見せてやりなさい!!」
二人の思惑とは裏腹に一匹のゴブリンが我先にと飛び出した。
「ギャギャッ!」
小柄ならでは素早い動きで錆びた短剣が振り下ろされる。普通なら避けきれない速度だ。
今までならば。
「ここだ!」
ガラ空きになった懐に一歩踏み込み、たった一本のヒノキの棒がゴブリンを勢いよく吹き飛ばす。相手の勢いすら利用した強烈な一撃によってゴブリンは、木の幹に衝突。そのまま動かなくなった。
「ギギャァァ!!!……」
鉄ですらないただの棒だ。魔法も能力も何もかかってはいない。しかし今の一撃は、まるで鋼鉄の槌のよう。
「ギャギャ……」
想定外の出来事にゴブリンたちがざわめく。
次の瞬間、ゴブリン達は一斉に襲いかかってきた。
「「ギギャァァ!!」」
「来い!!」
恐怖はある。膝も震えている。それでもタクマは無我夢中、ひたすらにヒノキの棒を振るい続ける。
振っては吹き飛ばす。叩いては叩き潰す。技術とはとても言えない力任せの強引なやり方だが、ゴブリン達を確実に圧倒していく。
「はぁ、はぁ、はぁ……!」
息を切らしながら地面に腰を落とす。気づいた時には、大量のゴブリンの死体がそこら中に転がっていた。
お世辞にも気持ちがいいと言えた風景ではない。しかしタクマにはそれ以上の達成感で満ち溢れていた。
「よくやった。上出来だ!」
「やればできるじゃん!」
疲れ切ったタクマに二人は手を伸ばす。
「二人とも…こんな僕だけど、なんとかなったよ」
その手を借りてタクマはゆっくりと立ち上がる。
「能力も、魔法も、武器すら持てない。だったら使えるものを使いこなすようになるしかない。そう思えたのは二人のおかげだよ。ありがとう」
「謙遜するな。これはお前の努力の結果だ。もっと誇ってもいい」
「どんなに腕の立つ奴だって、そんな棒切れで戦うなんて普通は無理。自分が思っている以上にタクマは結構、凄いことをやってのけたのよ。もっと自信持って」
「そうかな?…」
「そうだ」
「そうよ」
二人は自信満々に口を揃えた。
「これで師匠も、ちゃんと弟子って認めてくれるかな?」
「やっぱりあの女のためだったのね。ちょっと嫉妬…」
「え?」
「なんでもないわよ!」
分かりやすくエンフィは頬を赤らめる。
「いいじゃないか。結果的に強くなったわけだし、本当に彼女の弟子になれたとすればきっとタクマはもっと強くなるぞ」
「それは私だってタクマが強くなるのは嬉しいわよ。あ、勿論仲間としてね。仲間!」
何故か仲間という言葉を執拗に強調するエンフィ。タクマはその意味に気づいてないようだが、バンバだけは不器用なエンフィの様子に歯痒くて仕方なかった。
「しかしタクマは一人でよくここまで強くなったものだ。後はきっかけだな」
「きっかけ?」
「努力は大事だが、いずれ努力には限界が来るものだ。その限界を何かのきっかけ次第で越えることが出来れば、タクマは恐ろしく成長する筈だ」
「そのきっかけがあの女にあるかもしれないってこと?」
「俺はそう思ってる」
バンバの言う通りナタリアの存在がタクマをより成長させたことは間違い無いだろう。
しかし三人は知らない。
ナタリアとの偶然な出会いも、そのきっかけすらも、全てはタクマのために仕向けられているものだとは。
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