32、7人目
閲覧感謝です!
《ナタリア!》
ライトは輝き、エンジンを激らせる。
「…待て、お前は手を出すな!」
《しかし……》
「命令だ。いいから待ってろ……!」
《ラジャー……》
悪いなバシリッサ。別に意地悪でいっているわけじゃないんだ。だが、ここでお前に頼れば、バシリッサは躊躇なく奴を轢き殺すだろう。何せそれが俺を助ける一番の最善策だからな。
それでもビアンナがこの様子を見ている以上そうはいかない。
「お前だ……お前さえいなければ!」
「……ッ!」
必死に抵抗を試みるが、今頃になって蓄積されていた疲労やダメージが足を引っ張り、思うように力が入らない。
「アイツの勝手にはもううんざりだ…!好き勝手やってるのはいつもあっちの方だろうが!!」
「人の首を絞めながら、八つ当たりか?……」
「黙ってろ。お前もその内この気持ちが分かるようになる。そしてそれをアイツは笑いながら見ているんだろうさ。本当にあの女は気にくわない!!」
感情の昂りに比例するようにその手に入る力は強くなっていく。
「ぐっ……」
「ここで私がお前を殺せば、少しはアイツも悔しがるだろうよ……最後くらい、アイツの思い通りにさせてたまるか!!」
「な、ナタリアさんを離して!!」
「あ?……」
ビアンナは手にしたベレッタを勇者に向ける。
「いいから離れて!!」
俺の動きを見て覚えたのか、一丁前に安全装置は解除されていて、引き金には指がかかっている。
「よせビアンナ!」
強がる姿勢と裏腹に力強く握られたその両手は酷く震えていた。
「…そんな手で撃てるのか?」
「う、撃てるもん!」
「言うじゃないか。だったら撃ってみるがいい」
「え、」
「私は逃げない。ほら、撃ってみろ?早くしないと私が死ぬ前にコイツが死ぬぞ!!」
感覚的に悟る命の重さと感じたことのないプレッシャーが小さな体に重くのし掛かる。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
いつもの呼吸は忘れ、自然と息は荒くなる。
「撃てよ。そして私を殺せ!」
「やめろ、絶対に殺すなよ!!……」
「でも、このままじゃナタリアさんが……!」
「一度殺したら二度と戻って来れなくなる。お前にその道を歩ませたくはない」
「ナタリアさん……」
そんな未来、俺も女将も望んではいない。
「撃つなら撃て!!」
「よせ!殺すな!!」
迫り来るプレッシャー震える手に力が入る。
「うわああああ!!」
カコンッ。
「あ、」
「え、」
その瞬間、ビアンナの膝裏に、絶妙な角度でバシリッサのフロントフレームが軽く当たる。力は最小限、だが効果は抜群。叫び声と共に彼女の体勢は崩れ、思わず上半身は上に向く。同時に引き金は引かれ、上に向かって放たれた銃弾は天井の照明を破壊した。
辺り一体は一瞬で暗闇に包まれる。
「なんだ今のは……?」
「そういうことか。なんて女だ……」
ナタリアはバシリッサの意図を瞬間的に理解すると、ポーチから小さな筒を取り出す。
同時にバシリッサは射出したサングラスをビアンナに被せる。
「え!?」
ナタリアは目を瞑りながら筒の蓋を片手で軽く捻り、地面に打ちつける。
その衝撃が筒の中に仕込まれた閃光虫を刺激、瞬く間に一体を眩い光が支配した。
「ぐぁぁぉ!!目が、目があっ!!……」
視界を眩い閃光が焼き付け遮断する。
ナタリアは突然の衝撃に怯む勇者を蹴り飛ばす。
《ナタリア今です!》
煌々と輝くヘッドライトが勇者を一直線に照らす。
「よくやった!!」
ナタリアはバシリッサから射出された、預けておいた予備の銃を受け取る。
すぐさまバシリッサはヘッドライトを消し、念の為ナタリアの視界に車体を被らせる。
「この気に及んで小癪な真似をして……!!」
治癒魔法によって遮られていた視界を回復していく。
「よし、見えるようになってきた。目さえ見えれば……は?」
目を開き、完全に視界が回復した頃。その瞳に最初に映った光景は目の前に突きつけられた無機質の銃口だった。
「消えろ」
無慈悲な銃声が頭を貫き、ナタリアの声を掻き消した。
「……反応は?」
《確認できません》
「そうか」
今度こそ終わった。これでようやく気持ちよく酒が飲めそうだ。
「ナタリアさん、今の音って……」
ナタリアは無造作に着ていたコートを転がる死体に被せる。
「何も無かった」
「でもその人は……」
「コイツは眠くなったから寝ているだけだ。イビキもかけないほどぐっすりとな」
「それってやっぱり、し…」
「そういうことにしておけ。その方がお前の母親も喜ぶ」
「うん。そうだね……」
ビアンナを連れ屋敷を脱出したナタリア達。
「ねぇ、コートはそのままでよかったの?お気に入りだったんでしょ?」
「気にするな。予備なら三着は持っている」
ナタリアはビアンナを抱えバシリッサに乗せる。
「凄いねコレ……」
《コレではありません。ワタシはバシリッサです》
「喋った…聞き間違いじゃなかったんだ」
「行くぞ、しっかり捕まってろ」
「うん」
バシリッサはビアンナを驚かせないよう程良いスピードで順調に荒野を駆けていく。
「……ナタリアさん」
「なんだ?」
「私、いつか絶対に強くなる。強くなって、みんなの分までこの世界を生き抜いてやる」
「…強くなるのは否定しないが、俺みたいには絶対になるなよ」
「ならないよ。私は自分の為に、ママや大切な人達だけでも守れるようになりたいだけだから。それが私の強くなりたかったの理由。だから銃もいらない」
「それがいい」
自分の為に誰かを守れるだけの力が欲しいか。この短い間に随分と立派になった。
どんなに御託を並べても、人は結局、自分の為にでしか強くなれない。それをその歳で理解するとは大したものだと俺は思う。
「だからさ、私もナタリアさんの弟子にしてよ」
お前もか。
「どうしてそうなる。俺みたいにならないと言ったばかりだろ」
「それはそうだけど、強くなるには強い人の弟子になるのが一番早いと思うの。だからいいでしょ?」
「お断りだ。弟子になりたいなら他を当たれ」
こんな時ばかり甘えたって無駄だ。そんな小憎い技をどこで覚えたのかは知らんが、子供には興味無い。
《いいではありませんかナタリア。少しくらい鍛えてあげては?》
「ほら!バシリッサさんもそう言ってるよ!」
「お前まで変なことを言うな。真に受けるだろ」
《しかし彼女の言うことは間違っていませんよ》
「そういう問題じゃないんだよ……」
なんとなくバシリッサはこちら側に付いてくれると思っていたんだがな。
ナタリアはガッカリした様子で溜め息を吐いた。
「疲れてるならタバコでも吸ったら?大人はみんなそうするでしょ」
「子供の側では吸わん」
「どうして?」
「どうしても」
「…やっぱりナタリアさんって変わってるね」
日は跨ぎ、夜も明けようとしている。薄明に照らされながら過ぎた悪夢を振り切るようにバシリッサは加速していった。
ここまで閲覧頂き誠にありがとうございます。
よろしければブックマーク、評価を頂けると、とても励みになります!
少しでも「面白そう!」「続きが楽しみだ!」
などと思っていただけましたら、下↓にある【☆☆☆☆☆】から、
ポイントも入れてくださるとめちゃくちゃ嬉しいです!
次回もお付き合い頂ければ嬉しい限りです。




