31、命令違反のサプライズ
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やがてその轟音は窓を突き破り、怪物へと変貌を遂げた醜い勇者の急所を突き飛ばした。
「オフッ…!!」
怪物になっても男なら弱点は変わらない。
「グオオオオゥゥゥ……!!」
思わず苦悶の声が漏れ、悶絶する。
ナタリアは落下し、それをバシリッサが見事にキャッチ、背に乗せる。
《あんな所に当たってワタシの体は汚くなりました。後で洗ってくださいねナタリア》
「バシリッサ。お前、どうして……?」
《緊急事は自分の意思で判断しろ。そうナタリアが言っていたので》
「確かに言ったな、俺」
バシリッサがいなければ今頃俺はアイツの胃袋の中だろう。かといって手放しで喜べる状況ではない。この絶望的な状況は変わらないのだから。
「仕方ない……」
行動するなら勇者の動きが止まっている今しかない。
「時間は俺が稼ぐ。バシリッサはビアンナを連れてここから逃げろ」
今はビアンナを無事家に連れ帰ることが最優先だ。
《いえ、それはできません》
「…いいから従え。これは命令だ」
《お断りします》
バシリッサは頑なに否定し続ける。まるでイヤイヤ期真っ盛りの子供の様。
「……理由は?」
《ナタリアを置き去りにして彼女を連れて逃げる。それが最善策だとはワタシにはとても思えません》
バシリッサはこんな状況でも声のトーンも喋る速さすら変わらず淡々と続ける。
「それは何を言っても従う気は無いってことか?」
《ハイ》
即答だった。しかも食い気味に。
「強情な女め…」
《それはナタリアも同じでしょ》
「じゃあ聞くが、お前の考える最善策はなんなんだ?」
《こうしている間にターゲットの分析は完了。それに伴い弱点を発見。それを用いてナタリアがターゲットを撃破。それが最善と考えます》
おいおい……。
《どうしました?》
「…あのな、そういうのは先に言え」
《言われなかったので、つい》
機械なのは分かっているが、まるで人間と話しているみたいだ。てか、人間でも入ってるのではないかと錯覚してしまうほどに面倒くさい。こうやって融通の効かない所が余計に人間臭いのだ。
もっと機械らしければ、叩いてでも無理矢理言うことを聞かせられたのだが、こうなるとそうもいかないじゃないか。
「ったく……マスターはとんでもない娘を嫁に出したものだな」
《大丈夫です。ワタシと一緒になったこと後悔させませんから》
「だったら証明してみせろ」
《ラジャー》
すると、バシリッサの側部が開閉し、そこからショットガンが射出される。
「これは…」
《M870。いざという時にと、パパに頼まれてきたサプライズプレゼントです》
「ほう、嫁入り道具にしては随分物騒じゃないか」
中を確認すると弾が一発装填されていた。
「見たことのない魔弾だな」
《通常の魔弾はモンスターの素材と組み合わせて作られるのに対し、この魔弾は通常のスラッグ弾に聖魔法が付与されています》
つまり、文字通り魔法の銃弾というわけか。
《ターゲットには聖魔法が有効と判断。現在ターゲットの肉体は死者達の魂によって乗っ取られ、暴走状態だと考えます》
自我を失い、文字通り人が変わったように暴れているのも、無残にも殺された人々の祟り。端的に言えば、コイツは食べた物に当たったというわけだ。
罰が当たるのも当然。自業自得だな。
「細かいことはよく分からんが、この魔弾を使えば奴を殺せる。そういうことでいいんだよな?」
《ハイ。しかし、弾は一発のみ。絶対に外さないでくださいね》
愚問だな。
「俺が外すとでも?」
《フフッ。冗談ですよ》
スラッグ弾の射程距離は七十から百といったところ。普通の人間相手なら十分に離れていても狙える距離だが、相手は規格外の怪物だ。的は大きいが、そのくせ意外と身軽ですばしっこい。
当てるだけなら難しくないだろうが、確実に仕留めるならギリギリの距離まで近づくのが安牌か。
「ナタリアさん前!!」
「……グオオオオォォォオ!!!」
今度はあっちの番。倍返しでもしなきゃ気が済まないって感じだ。
「どうやらおしゃべりの時間はおわりみたいだ。バシリッサ、ビアンナを頼む」
《そういうことでしたらお任せを》
「グオオオオォォォオ!!!」
「…そんなに叫ばなくたって聞こえてるよ」
動きならもう見切った。
まずは右からの大振り。それを避ければ次は左。もう一回右。間髪入れずに次々と攻撃を仕掛けナタリアを追い詰めていく。
しかしナタリアは冷静に攻撃を見極めながらかわしていく。一撃は強力だが、大振りなだけに隙が多い。
「……グオオオオッ!!」
ちょこまかと動き続けるナタリアに勇者も苛立ちを隠せない。攻撃の速度は上がるが、それ以上に隙が目立ち始める。
「そこだ!」
ナタリアは勇者の攻撃を確実にかわすと、一気に踏み込み滑り込むと、紙一重で股を潜り背後に回る。
「!?」
姿を消したように見えた一瞬の出来事。勇者は戸惑い僅かに行動が遅れた。
「安らかに眠れ」
ナタリアはそのチャンスを決して見逃さない。
引き金は引かれ、炸裂する魔弾。着弾と同時に、眩い閃光と衝撃が勇者を襲う。
「グオオオオォォォオォォォオ……!!!」
勇者の体は聖魔法の暖かく眩い光は、勇者に囚われていた幾千もの魂を解放していく。
勇者は絶叫を上げながらもがき苦しむ。やがて、巨大化していたその体も次第に小さくなっていき、怪物となったその姿も人間に戻っていった。
「やったか…?」
終わったと分かった瞬間、ドッと疲れが押し寄せてくる。
「流石に疲れたな……」
勇者の数が減るほど、相手にする勇者が次第に厄介になっていくのは気のせいだろうか……。
残りの勇者は三人。これ以上厄介な能力を持った勇者が現れないことを心から願うばかりだ。
《……微弱な反応を確認。イヤな予感がします》
「奇遇だな。俺も同じ気持ちだ……」
バシリッサの言葉を受けて、俺の頭にもイヤな想像が過ったその瞬間。
「ぐおおお!!」
「なっ、」
死んだと思っていた筈の勇者が復活。死にものぐるいの勢いでナタリアを襲い、その衝撃で銃を手放してしまう。勇者はナタリアに馬乗りになって押さえつけると、勢いのままに首を締めつけた。
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