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29、キズアト

閲覧感謝です!


 二階へと続く階段を登った先の突き当たりの壁。


「ここか…」


 辺りを色々と調べてみるが、何かおかしな点は見当たらない。押してもびくともせず、取っ手もないから引くことも出来ない。


「壊すか」


 ここで弾を使うのは惜しい気もするが、時間も無い。


 銃を構えて壁を破壊しようとした瞬間、壁の端に僅かだが窪みのようなものを見つけた。丁度、指一つ分は引っ掛けられそうな小さな窪みだ。そうと分かれば試せずにはいられない。


「さて、どうなるか」


 人差し指を窪みに引っ掛けて、横に引っ張ってみる。すると思ったより力は必要無く、スルスルと壁が横に動き、その中は空洞になっていて奥へと続いていた。


「通りで押しても引いても開かないわけだ」


 怪しげな通路をひたすらに前へと突き進むと、その先には、牢に閉じ込められ憔悴しきったビアンナの姿があった。完全に怯えきっていて、宿でいつも見せているような元気溌剌な笑顔は微塵もない。


「おい、」


「ナタリアさん…もしかして助けに来てくれたの……?」


「女将に依頼されてな。直ぐに自由にしてやるから、少し離れていろ」


 ビアンナは言われた通り、牢屋の奥に移動する。するとナタリアは牢の鍵穴に向かって一発。壊れたその衝撃と反動で扉が勝手に開いた。


「いいぞ。来い」


「……」


 しかしビアンナはその一歩が何故か踏み出せずにいた。それを見かねたナタリアは、敢えて部屋には入らず、外から手を伸ばす。


「大丈夫だ」


 変わらぬ様子でナタリアはその手を掴まれるのをジッと待っている。


「……」


 ビアンナは手を震わせながら、ゆっくりとその手を掴む。そして一歩ずつ踏み出して、自らの足で牢を脱出した。


「よくやった。なら、今すぐここから逃げるぞ」


「ねぇ……」


 先導して外へと向かおうとするナタリアの服の裾をギュッと掴む。


「助けに来てくれるなら……なんで、なんでもう少し早くきてくれなかったの?」


 涙を浮かべ、その声も上滑る。


「…言いたいことがあるなら言え」


「私が来た時にはもっとたくさんいて、私よりも小さい子だっていた。だけどみんな、私の目の前で殺された」


「そうか」


「そうかじゃないよ!早く来てくれればあの子達も助かったかもしれないのに!」


「そうだな」


 それでも淡々と話だけを聞くナタリアの様子に思わず感情が溢れ出す。


「…なんで私だけが生き残っちゃったんだろ……だったら私も一緒に、」


 泣き叫ぶビアンナを優しく抱き寄せる。


「それ以上は言うな。言っちゃいけない」


「でも……!!」


「辛かったなら全部忘れろ。今日は長い悪夢だったんだ。そういうことにしておけばいい」


「そんなの無理だよ……。忘れたいよ…でも、忘れられるわけがないじゃん」


 ビアンナの震える手を優しく握り締める。


「だったら、覚えててやれ。そしてその子供達の分まで生きてやれ」


「私が代わりに……?でも関係ない私が生きたからってあの子達が喜ぶわけ……」


「それでも残ったもんは必死になって生きるしかないんだよ。お前にはその資格とその責任があると、俺は思う」


「ナタリアさん……」


「大丈夫だ。お前は強いし、なんてったってお前には妖精が付いている」


「え……?」


 ナタリアはビアンナの涙をコートの裾で拭い、そっと立ち上がらせる。


「歩けるな?」


「うん……」


「約束だ。お前はこの俺が守ってやる。だから生きろ」


 ナタリアは強引にビアンナの小指を絡ませる。


「指切りげんまん 嘘付いたら針千本飲ます。指切った!」


「えぇぇ!?だからっていいよ、そんなことしなくても!!」


 少し外れた音程で聞こえる、聞いたことの無い恐ろしい歌詞の内容にビアンナは驚愕しながら慌てている。


 ナタリアはそんな様子がおかしくて、すこし笑ってしまう。


「フッ……」


「また笑った…!」


「笑ってない。おかしかっただけだ……」


「ほら笑ってるじゃん!」


「笑ってない」


「笑ったよ!!」


「笑ってない。そんなに元気ならおいてくぞ。さっさとついてこ」


「あっ!待ってよナタリアさん!!」


 にしても、さっきのはどうかしていた。あんなくさい台詞を口にするだなんて、自分のことを何かの主人公とでも勘違いしているんじゃないか。


 一体何様なんだ、殺し屋のくせに……。まるで自分が自分では無かったみたい。まさか、この体が原因か?……


 そんなことを考えている矢先だった。


「ナタリアさん!!」


 床に刻まれていた謎の紋章が淡く光を帯びる。


「罠か……捕まってろ、絶対離れるなよ」


「うん!」


 次の瞬間、まるで足場そのものが消えたかのように、彼女たちの視界はぐるりと反転した。


ここまで閲覧頂き誠にありがとうございます。


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