28、クッキングタイム
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《目的地に到着しました。お疲れ様でしたワタシ》
自分で自分を労うとはできた奴だな。
「お疲れ」
途中のトラブルはあれど、バシリッサのおかげでタイムリミット迄に間に合うことができた。
民家ばかり並ぶランデルブの街で、一際目立つ大きな屋敷。ここにビアンナはいる筈だ。それに勇者も……。一人逃した分、コイツだけは絶対にこの手で殺さなければ。
「バシリッサ、お前はここで待機。但し、緊急時は自分の判断で動いていい」
《ラジャー。ナタリアもお気をつけて》
「ああ」
弾の装填を完了し、安全装置を解除すると、正面から堂々と屋敷の扉を蹴破り中に侵入する。
明かりは付いているが屋敷内部に人の気配はない。一先ず最優先すべきはビアンナの奪還。勇者を狙うのはその次だ。驚くほどに静かな屋敷内部。しかしそれがかえって怪しすぎる。
常に警戒を怠らず、屋敷内部をくまなく調べ上げるナタリア。
「ここもクリア。残されたのはこの部屋だけか……」
不気味な程の静けさといい、まるでこの先に何かがあると言っているようにしか思えない。
「……」
いいだろう。罠だというならかかってやろうじゃないか。
ナタリアは意を決して扉を一気に開き、中に侵入する。
――ここはキッチンか……?
辺りにあるのは包丁や鍋といった料理道具ばかり。
「……」
他におかしな点は見当たらず、ナタリアがその場から立ち去ろうとした瞬間、ナタリアを狙って背後からナイフがすっ飛んでくる。
「貰ったぁ!!」
「……」
「なっ、」
ナタリアは当然のように体を横に逸らすと、ナイフは獲物を見失い、そのままキッチンを飛び出し廊下へと勢いよく飛んでいった。
「ナイスピッチング。だけど叫ぶな」
するとキッチンの奥から大勢の男達がぞろぞろと姿を現した。その中心にいる高さのあるコック帽を被った大柄な男。コイツがこの中のリーダー、いや、ここでは料理長か。
「我々は完全に息を殺し、確実にお前の不意を突いた。狙いも完璧だった筈だ。なのになぜかわせた……?」
「料理人ならきちんと火の元の確認くらいはしておくんだな」
ナタリアが指を指した先のコンロにはまだ火が付いていた。
「なるほど、こんな初歩的ミスで気づかれるとは……。まぁいい、どのみちやりあることは決まってる」
男達は次々と武器を取り出し、威勢良く殺気立つ。
「キッチンとは我々料理人の聖域であり、戦場である。貴様のような素人がここに足を踏み入れた時点で勝ち目は無い」
「だからなんだ?」
「…お前ら、コイツは明日のメインディッシュだ。焼いても煮ても揚げても良し、とにかくバラバラに切り分けちまえ。気合い入れて行け!!」
「「「おう!!!」」」
声色を変えた料理長ダーナルドの合図で料理人達は勢いよく襲いかかってくる。
「…料理なんてものは、カップラーメンだけさえ出来れば基本は十分なんだよ」
威勢良く前から突っ込んでくる料理人達に動じることなく、ナタリアは的確に料理人達の脳天だけを片っ端から撃ち抜いていく。
「構うな!!突っ込め!!」
これだけの数がいればこの弾幕を避けてくる奴らも当然現れる。
だが問題は無い。こんな時こそ慌てず冷静に対処すべき。
接近されれば、直ぐに男の急所を蹴り上げ、怯んだ瞬間頭を撃ち抜く。あの痛みは俺もよく知ってる。
逆に背後を取られたなら、降り帰り際に裏拳を一発。揺らいだ男の体を軽々と持ち上げ、地面に叩きつけて、念押しに一発。
その間に素早く弾倉を入れ替え補充することも忘れてはいけない。
「息がいい食材は嫌いじゃないぜ〜!」
その僅かの隙を狙った男はナタリアを抱き抱え、柱に打ち付ける。
その衝撃でナタリアはベレッタを手放してしまう。
「今だ、息の根を止めろ!!」
「任せろ。そのまま抑えとけ!!」
男は力一杯ナタリアを壁に押し付けながら仲間を呼び込む。
確かに常軌を逸した凄いパワーだ。俺でも簡単に振り解けそうにはなさそうだし、銃を捨てさせ無力化したの見事だ。
「コイツを殺したら直ぐに血抜きだぁ!!」
しかし、殺すつもりならどうして他人に頼るのだ。仲間が駆けつけるまでのこの間は殺しもいいと言ってるようなものなのに。
わざわざチャンスを棒に振るようなこんなミス、プロなら絶対にしない。所詮は料理人、殺し屋擬きににしか過ぎないってことか。
「素人が」
「なにっ!?」
ナタリアは天井にぶら下がる照明に手を伸ばすと、それを男の頭に力一杯叩きつける。
「ぐはっ……!」
男の力が一瞬抜けて脱力すると、すぐさま男を振り払い、銃を取りに走る。
「させるかぁぁ!!」
駆けつけた仲間の男も危機を察知して、慌てて銃に向かって走り出す。
単純な距離だけなら俺よりあっちの方が遥かに近いだろう。だがここは厨房、武器の宝庫だ。
「だからいちいち叫ぶな」
ナタリアが目をつけたのは、先程まで火にかけられていた沸騰した湯が入った鍋だった。それを手に取ると、男に目掛けて盛大にぶっかける。
「ぐあぁ!!顔がぁぁぁ!!……」
辺り一面に白い湯気が立ちこもり男達の視界を惑わす。その隙にベレッタを取り戻し、もがき苦しむ男にトドメを刺した。
「さっきはよくもやってくれたなぁ!!」
急所を蹴られて動けなくなっていた男も辛うじて復活すると、僅かに見えたナタリアの姿を頼りにして、手に持っていたナイフを投げ飛ばした。
「今度こそ貰ったぞ!!」
立ち込めていた白い湯気が晴れ、ナタリアの姿が見えると、投げ飛ばされていたナイフは見事に命中していたが、体に突き刺さることなく止まっていた。
「な、鍋……?」
「いい加減学習しろ」
中華鍋のような大きな鍋を盾に、その隙間から男の頭を撃ち抜いた。
「な……」
ナタリアの足元には大量の死体が積み重なり転がっている。
あっという間に部下達を殺され、それを目の前に料理長は完全に呆気に取られていた。
「後はお前だけだな」
それらを踏み台に、ナタリアは唖然としながら立ち尽くしていたダーナルドの元にゆっくりと近づく。
「よくもまぁ…あれでもウチの料理人達は元冒険者ばかりの手練ればかりなんだぞ」
「知るか。俺が知りたいのは攫った少女の居場所だけだ」
ナタリアは熱を持った銃口を額に突きつけた。
「ぐうぅっ!!…」
「抵抗すればもっと苦しくなるだけ。さっさと答えろ」
「殺すなら殺せばいい…。どうせ、知ってる事を話したって殺されるんだろ?」
「そうだな。話しても殺す」
「だったら言うかよ。手も足も出ないまま女に殺される。こんな屈辱的な事はない……それなら最後くらいお前の足を引っ張って死んでやるよ」
料理長の目つきが変わり、ガンとして意見を変える気は無いようだ。
「やれやれ……拷問は得意分野では無いんだがな」
そう呟きながら、右手の人差し指を躊躇なく折った。
「ぐあぁぁっ!!……」
「二本目」
今度は左手の人差し指。
「ぐあぁぁぁ!!……」
料理長の顔色はどんどんと悪く、血色を失っていく。
「言ったはずだ。抵抗は苦しむだけだとな。早く楽になりたいなら知っている事は全て教えろ」
それからもナタリアだけは顔色を変えず、機械のようにそれらを繰り返していく。
次第に叫び声も言葉では無くなっていく。やがてその声も静かになり、残りは両方の親指を残した二本だけとなった。
「まだやるか?やらないなら九本目だ」
「もういい……」
蚊の鳴くような声で呟いた。
「お前、本当に女かよ……?」
「一応な」
折りかけていた九本目から手を離した。
「…場所は?」
「……二階へと続く階段を登った先に見える突き当たりの壁、その奥に隠し部屋がある」
「お前を雇った勇者はどういう奴だ?……」
「悪いことは言わない……これ以上あの人には関わるな」
大した話では無いが、それも一つの情報か。
「もういい。生憎これは仕事なんでな、そういうわけにもいかないんだ」
ナタリアは再び銃を突きつける。
「……お前も俺と一緒だな。こんなことになるなら、仕事だからって関わるんじゃなかったぜ……」
コイツと俺が同じ…だとしたら何かが妙だ。最近勇者を殺す度にありもない私情を挟んでいるような気がしてならない。
この俺に、仕事以外で勇者を殺す理由など一つもない筈なのに。
「後悔してるなら、俺みたいな奴らに狙われないように来世は真っ当に生きろ。料理人とかな」
「……そうさせてもらう」
そして、引き金を引いた。
「誰が言ってんだか……」
どっちにしろ、きっと俺に来世はない。数えきれないほど命を奪ってきた俺には最早地獄など生ぬるいだろう。
そんな俺を待っている場所があっちの世界にもあるのか、皆目見当もつかない。
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