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27、顔合わせ

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 夜の帳が降りた異世界の大地を、ひと筋の光が切り裂いていく。豪快に唸りを上げるエンジン音を掻き鳴らしながら、黒鉄のバイクが荒野を駆け抜ける。


 《どうですかナタリア。ワタシの乗り心地は?》


「悪くない。だが、お前ならもっと出せるだろ」


 前傾姿勢はさらに深くなり、タンクに胸を押しつけ、視線を地平線すれすれまで落とす。スロットルをひねる指に、ほんのわずかな躊躇もない。


 《欲しがりですねナタリアは》


 アクセル全開、ギアは一段上がる。その瞬間バイクは雷光の様に加速し地面に蹴り上げていく。


 エンジンは咆哮するように鳴き叫ぶ。


 視界の端で岩が線になる。暗闇の中の木々は夜に溶け、風はもはや流れではなく壁ようだ。真正面から叩きつけてくる空気の塊をナタリア達は切り裂いていく。


 全身を使って風にぶつかるこの感じ、やはりバイクはこうでなくては。


「いいぞバシリッサ。期待以上だ」


 《ありがとうございます。でも、その気になればもっと出せますよ》


「面白い。だったらやってみろ。このまま全速力で一気にランデルブに向かう!」


 《ラジャー》


 フレームを青白い光が脈動し、排気口から噴き出す炎は一段と長く燃え上がり、鋭く伸びる。スピード計はとっくに振り切り、とにかく全速力で広野を駆け抜けていく。


 《……ナタリア。前方に生命反応、良からぬ気配を感じます。注意を》


 そんなことまで分かるのか。しかし、目の前には人どころか障害物すら見当たらない。


「何も無いぞ」


 《感じるのです。間違いありません》


「……!!」


 ほんの一秒、目を閉じただけ。ふと瞬きをしたその瞬間、何も無かった筈の道の向こうに突如謎の人影が出現した。


「いつの間に。言ってたのはアレか…」


 《どうしますか?直撃まで五秒》


「気にするな。このまま突っ込め」


 目の前のアイツがどういうわけで何を考えているのか、俺には分からないし、知るつもりもない。だが、高速で移動する鉄の塊が直撃すると分かれば、余程のバカでもない限り、嫌でも避けるに違いない。


 《四秒》


 男との距離は縮まるばかり。しかし、男はこちらから目を逸らすどころか腕を組みジッと立ち尽くし、逃げる様子はない。


 《三秒》


 かといって攻撃などをしてくる様子も無く、ただこちらが近づいてくのを待っているといった様子だ。


 《二秒》


 なんだアイツは……ただのバカか?それとも……。


 《一秒》


「ッ…避けろ!」


 ナタリアの合図でバシリッサは車輪を浮かし、勢いよく跳躍する。


 車輪は男の顔を寸前で透かし、そのまま男を飛び越えてみせた。


 そして着地。激しい衝撃と共に砂煙が舞い上がり、男はなんとか無傷。無駄に殺しをせずに済んで何よりだ。


 《危機回避》


「…よくやった」


 《ありがとうございます》


 にしても、この男は一体何を考えてる。白い装束を纏った貴族のようないで立ちと、見るからに人の良さそうなその風貌。


 俺の経験が言ってる。こういう見た目がいい奴に限って考えていることは碌じゃないと。


「…お前、ただの死にたがりじゃないよな?」


「驚かせてすまない。僕はただ、アイツに殺される前に君の顔を一目見ておきたかっただけさ」


 アイツ?……その言葉の示す相手が俺の考えている相手だとすれば、コイツの正体は恐らく。


「お前も勇者か」


「まぁね」


「だったら死ね」


 ナタリアはすぐに銃を構え、一瞬の躊躇いもなく引き金を引く。


「そう焦らないでくれ。僕はまだ君と戦う気はないんだ」


 目の前にいた筈の男は既に俺の背後に回り込んでいる。


 逃げる様子や、何か能力などを使ったようにも見えなかった。


「コイツ……」


 ナタリアは再び男に向けて銃を構えるが、気づいたときにはまた背後に回られているではないか。


「お前、何がしたいんだ?……」


 コイツは完全に俺の動きを圧倒している。その気になれば殺すチャンスなどいくらでもあった筈だ。つまりコイツには殺す気が無い。


「言った筈だよ。君がどんな奴なのか顔を見たかっただけだって」


「どうやらそのようだな…だが、お前が勇者である限り俺は必ずお前を殺す。ここで俺を生かしたこと、後悔してもしらんぞ」


「望むところさ」


 プレッシャーをかけても効果無し。動揺するどころか、笑顔を見せる余裕まである。悔しいがコイツを相手にするには情報も時間も足りなすぎる。


「……出せ」


 《…ラジャー》


 すぐにバシリッサが猛スピードで加速を始めると、あっという間に肉眼では見えない距離まで走り去っていった。


「応援してるよ鮮血の妖精〈ブラッディフェアリー〉。君がここで死なれちゃ、僕もあの方もがっかりだからね」

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