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26、機械仕掛けの一人娘

閲覧感謝です!


 暗闇に包まれた倉庫に明かりが灯ると、黒い布に覆われた謎の大きな物体が見えた。


「見せたいものってこれか?」 


「そうだ」


 そうしてマスターはこれ見よがしに覆われた黒い布を取る。


「これは……!」


 黒光りする流線形のボディにむき出しの金属フレーム。特徴的な二つの車輪と見慣れすぎたハンドル。


「銃や刀と同じ世界からやってきた遺物。その名はバイク。竜車いらずの魔導式高速機動二輪車だ」


「だよな。知ってる」


 最後の魔導式なんちゃらはよく知らんが、バイクの事ならよーく知ってる。


「なんだよ、驚かそうと思ったのに…」


 別に驚いてないわけじゃない。だが、銃や刀が存在する世界だ。異世界にバイクがあったってそこまで不思議じゃない。


「走らせるために必要な燃料はどうなってる?この世界にはガソリンなんて無いだろ」


「が、ガソリン?なんだそれは?」


「いいから答えろ。これは何で走るんだ」


「まぁいい。元の仕組みじゃ動きそうに無かったんでな、魔石で走るように改造してあるよ」


 つまり魔石に流れる魔力とやらを原動力にバイクを動かすというわけか。


 それにしてもこのバイク、モデルは違うが昔俺が乗っていたバイクによく似ている気がする。


「このバイクの名前は?」


「そこまでは分かってない。なにせ俺の手に渡った時には既にボロボロで原型すら残ってるような状態じゃなかったんだ」


 じゃあ似てるのは偶然か。


「それを俺がこの世界で手に入る部品を組み合わせて好き勝手に改造して直したってわけだ」


 しれっとまたとんでもないことを。銃弾を改造した魔弾の時もそうだったが、独学でバイクを一から作りあげるとは恐ろしい男だな。


「なあ、名前が無いなら俺がつけてもいいだろうか?」


「構わない。だが、その名をこのバイクが納得すればの話だがな」


「バイクが納得……何を言ってる?」


「いいから何か言ってみろよ。上手くいけばエンジンがかかるはずだ」


 よく分からんが、名前なら既に決まってる。


「…バシリッサ」


 その言葉をきっかけに、まるで血流のように光のラインがボディに駆け巡り、エンジンが振動を始めた。


 《ラジャー。ワタシ、その名前気に入りました》


「ば、バイクがしゃべった…」


「やったな。コイツに気に入られみたいだぞ」


 《コイツじゃありませんパパ。ワタシの名前はバシリッサです》


 この世界とは不釣り合いなエンジン音よりも遥かに気になるどこか片言な機械音声。


「どういうことだコレは…」


「それが俺にもよく分かってないんだ。使った魔石がクイーンハーピィのボス個体だったのがよくなかったのか、どういうわけか意思を持っちまったんだ」


 《つまりパパがキセキってやつを起こしたということです。キセキがあるなんてワタシにも驚きです》


「それは俺もだ。コイツ、いや、バシリッサがいきなりパパって言ってきたときは俺も流石に驚いたぜ」


 まぁ、ここは異世界だ。魔法やモンスターが存在する世界なんだ、バイクが喋ったってなんらおかしなことじゃないか。


 《そうだ、マスターの名前を聞かせてください》


「…ナタリアだ」


 《ラジャー。改めまして、ワタシの名前はバシリッサです。これからはナタリアかマスター、どちらで呼べばよろしいですか?》


「どっちでもいい」


 《ではナタリアにします。そっちの方が親しみがあってワタシは好きなので》


「好きにしてくれ」


 《ラジャー。好きにしますね》


 俺が名付けたバシリッサとは女王などの意味を持つギリシャ語。昔、俺が乗っていたバイクもその名前で興味があって調べたことがある。


 原動力にもなっているクイーンハーピィのクイーンも女王。分からずとも同じ意味の言葉に惹かれるものが何かあったのかもしれない。


「どうだウチのバシリッサは?」


「気に入った。いくらだ?」


「ウチの娘に値段なんかつけられるか。だから、貰ってやってくれ」


「本当に俺でいいのか?」


「バシリッサが認めたんだ、俺もお前なら文句はない。そのかわり、こまめに顔を見せに連れて帰ってきてくれ。バシリッサを整備できるのはこの世界で俺だけからな」


「分かった。約束する」


「娘のこと頼んだぞ」


 結婚とは無縁の人生だった俺がこんなことを言われるとは思いもしなかった。しかも結婚前に。


 何はともあれ、これでタイムリミットまで間に合いそうだ。


「目的地はランデルブ。バシリッサ、お前なら日付けが変わるまでに間に合うよな?」


 《余裕ですね。乗ってくださいナタリア》


 バイクに跨り、ハンドルを握る。この感覚とても懐かしい。クラッチ、アクセル、ブレーキ、久しぶりだがちゃんと覚えてる。


「バシリッサ…」


 マスターが倉庫のシャッターを開ける。


「思いっきり飛ばせ」


 《ラジャー》


 アクセルを捻った瞬間、轟音とともに後輪が地面を抉り、弾丸のように前へと放り出し、駆け抜けていった。

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