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25、残された方法

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 日付けが変わるまで残り約三時間。


 いいや、まだ三時間。時間は無いが、時間はまだ残ってる。急いでいる時こそ決して焦ってはならない。焦りこそが最大の敵だからだ。焦らず急げ。こういう時こそ長年の経験が生きるものだ。


 ナタリアは〈closed〉と書かれた看板を無視して、バーの扉を開ける。


「……看板が見えなかったか?悪いが今日は休みだ。分かったら帰れ」


 薄明かりの中、マスターはひっそりと一人で酒に耽ながら、こちらも向かずに呟いた。


「休みなら鍵くらい閉めておけ」


「その声……アンタだったか。ならいいか、あの扉の鍵壊れてんだよ。直さなきゃいけないのは分かってんだが、最近他に付きっきりの物があってよ、それどころじゃなくてな」


 マスターは重い腰を上げると、いつものようにグラスを用意する。


「まぁ、飲んでけ。丁度話し相手が欲しかったし、アンタに見せたい物もあったんだ。いつものでいいよな?」


「いや、今日は結構」


「え、珍しいな。アンタが酒を断るだなんて」


 ほろ酔い気味のマスターを若干羨ましながらも、ナタリアは椅子にすら座る様子も無く続ける。


「訳あって急用が出来た。地図が欲しい」


「場所は?」


「ランデルブ。成長の勇者の根城がある街だ」


「ここより東の小さな街だな。にしても、勇者の根城だなんてよく知ってるな。俺でも知らない情報だぞ」


「いいから地図だ。急げ」


「そう急かすな。すぐ用意してやるから」


 早速酒棚の仕掛けを起動すると、右下の棚から分厚い地図帳を取り出す。


「えっと、ランデルブ、ランデルブ……あったぞ。こうしてみると思ったより遠いな」


「見せろ」


 想像していたより遥かに距離がある。タイムリミットに間に合うかは正直ギリギリかもしれないな……。


「もういい。助かった」


「しかし、今度のターゲットはよりにもよって成長の勇者か。アイツに関しては悪い噂ばかりで、出来ることなら相手にしないことをオススメするね」


「人を食べてるからか?…」


「なんだ知ってるじゃないか。噂じゃアイツの能力は戦った奴の力を自らの力にする能力らしいんだが、戦って勝つだけじゃ気が済まなくなったって話だ。イカれてるよな」


 力を与えた女神もその使い方にきっと驚いているに違いない。ゲームのように倒せば倒すほど強くなる力を与えたつもりが、倒した奴の肉を喰らって強くなるだなんて間違った解釈をしたとんでもないサイコパスを生み出してしまったのだから。


「だとしても関係ない。もう行くぞ」


「待てよ。どうしてそこまで急ぐ必要がある。いつだって用意周到なアンタらしくない」


 一応理由くらい話しておくか。


「……世話になってる宿の女将の娘が攫われた。急がないと、明日にはテーブルの上に並ぶことになる。彼女を救うのも今回の俺の仕事なんだ」


「まさか、女将の娘ってビアンナちゃんのことか!?」


「知り合いか?」


「あそこの女将とは古くからの知り合いでな、今でもたまに顔を出してる。しかも明日までって、もう日が変わるまで三時間も無いじゃないか!」


「だから急いでるんだろ」


「だけどここからだとどんなに早くても三時間はかかる距離だぞ。転移魔法も使えないのにどうするつもりだ?」


 そんなの使えるわけがないし、移動用の竜車もこの時間じゃ難しいだろう。

 転移魔法が使えるであろうアルレイシャはこんな時に限って姿を現さない。俺のことを相棒だというくせに空気の読めない奴だ。


 となれば残された方法はこれしかない。


「走るに決まってるだろ」


「走るって、どれだけ距離が離れてると思ってんだ!間に合うわけがない!」


「だとしてもそれ以外に方法はない。だったらやるだけだ」


 こんな時の為に毎朝走り込んでいるんだ。なんとかならなきゃこれまでの努力が水の泡になってしまう。意地でも間に合わせてやる。


「…いいや、他に方法ならある。お前がアレを乗りこなせるならの話だがな」


「なんだアレって?…」


「お前に売りつけるつもりで用意してたヤツがあるんだ。いいから付いてこい」


 少しでも早く辿り着ける方法が他にあるならそれに越したことはない。


 走らなくて済むなら尚更だ。


 俺はは若干の下心を胸に秘めながら、マスターに言われるがまま裏の倉庫へと足を進めた。

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