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24、ついでにシチュー

閲覧感謝です!


「ナタリア、少しいいかい?」


 アマンダの声が聞こえて、ナタリアはそっと扉を開ける。


「…何のようだ?」


「話がしたい。入るよ」


 少しの扉の隙間に手を入れ、扉を無理矢理こじ開けた。


「おい……」


 ナタリアに有無も言わせず、ズカズカと部屋に入っていくアマンダ。


 最初に会った時から思い切りのいい性格をした女将だとは思っていたが、ここまで強引なのも珍しい。

 ビアンナが今日の事で何か話したのか?いや、そんな小さな事じゃなさそうだ。

 一見、いつも通りに見えるが、僅かに汗をかいているし所々落ち着きも無い。しかも手は汚れているから、まだ料理の途中だったということ。手を洗うのも忘れてここに来たってことは、何かあったのは間違いないと思う。


「……話とは?」


「さっきこれが店に届いた」


 渡されのは1通の手紙。封は開いていて、中身は俺宛のとある食事会の招待状。


 ビアンナがその送り主に攫われたという揺るぎない事実。タイムリミットは今日の日付けが変わるまで。間に合わなければ彼女は殺され、やがてはメインディッシュとして食卓に並ぶという正気を疑うような意味の分からない内容が淡々と書かれていた。


 人を食べるなど、文字の羅列を見ているだけで虫唾が走り数百回は殺したくなる。こんな気持ち自分が自分じゃないみたいだ。


 しかも最後の一文には今では懐かしさすら思える日本語で『成長の勇者より』と綴られた一文が書き記されている。


 コイツがどんな勇者なのかはよく知らんが、コイツがとてもムカつく野郎だってのはよく分かった。

 ビアンナを人質にして俺に勝負を挑み、俺達がムカつく様子を想像してコイツはそれを楽しんでいるに違いない。

 弱者を人質に自らを有利に立たせようとするのは悪人の上等手段。コイツに限った話じゃない。


 だがコイツの場合、それ以下だ。


「このクズが……」


 俺はその手紙をグシャグシャに丸めて灰皿に投げつけると、自分でも気づかず内に火を付けていた。


 どうしてこの世界の勇者はどいつもこいつもおかしな奴ばかりなんだ。

 それにコイツはどうして俺の正体を知っている?この世界で俺が転生者だと知っている者は一人もいない筈なのに。


「…ナタリア。アンタが最近噂になってる鮮血の妖精〈ブラッディフェアリー〉なんだろ?」


「どうしてそう思った?…」


「前からアンタが表向きじゃない仕事をしていたのはなんとなく察していたからね。ビアンナがアンタのことを殺し屋だと言っていたし、その手紙で確信したよ」


「そうか…」


「だからアンタのせいさ……。アンタが勇者殺しで、アンタがエルフだから…アンタがビアンナを巻き込んだんだ!!」


 アマンダは深く被っていたフードを脱がし、ナタリアの首根っこを捕まえ、声が枯れるほど怒鳴りつけた。


 ナタリアは叫び続けるアマンダに抵抗することなく、ただ罵声を浴びつづつけた。


「なんか言ったらどうなんだい…?」


 アマンダは疲れ切った様子でナタリアを突き飛ばした。


「…いつから俺がエルフだと?」


「最初からさ。エルフだろうと金さえ払えばウチの客だと思ってたからね、ずっと知らないフリをしてたのさ。今じゃその選択をとても後悔してるけどね……」


「女将の言う通りだ。俺がアナタ達を巻き込んだ。申し訳ない」


 深々と頭を下げるナタリアを見て、アマンダは髪を引っ張り無理矢理上を向かせる。


「謝ってる暇があるならやることあるだろ。報酬なんていくらでも払ってやるから、さっさと自分の責任を果たしたな!」


「…これは俺の仕事だ。そうさせてもらう」


 ナタリアは早速仕事の準備を始める。首元が寄れてしまったシャツから、キレイにシワが伸びた新しいシャツに着替える。


「だとしてもアンタに仕事を頼むのはこの私だよ。だから一つ条件を聞いてくれ」


「条件?……」


「向かってくる奴は誰だろうと殺してくれたって構わないよ。だけど、何があってもビアンナの前で人は殺さないでくれ。それが絶対条件だよ」


「殺し屋に殺すなか。随分と矛盾した条件を突きつけてくれる」


「自分でも分かってるさ。だけど、あの子の母親としてそれを譲る気はないよ。守れるね?」


 着替えを済ませ、予備の弾丸など入るだけポーチに詰め込み準備完了。気合いを入れるようにいつもの真っ赤なコートを羽織る。


「いいだろう。無駄な殺しをしないのは俺の得意技だ。しかしこちらからも条件がある」


「条件なんか付けられる立場じゃないだろ。まぁいいよ、言ってごらん」


「報酬は結構。代わりに用意して欲しい物がある」


 そして、フードを深く被る。


「殺し屋が、金以外に何が欲しいって言うんだい?」


「…シチューを作って待っていてくれ」


「シチュー?」


「仕事終わりは腹が空くんだ。きっとビアンナも腹を空かせて待っているはずだからな」


 女将の作るシチューはこの世界で食べた料理の中でも一番だった。最近、季節柄もあってか中々メニューに並ぶことがなく寂しかったんだ。


「何を言うかと思ったら、やっぱりアンタは変わってるね。そんなんでいいのかい?」


「そんなんでいい」


「……そんなのいくらでも作って待っててやるさ!だから、あの子のことは任せたよナタリア!」


「改めて言おう。その依頼、引き受けた」


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