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22、幼き好奇心

閲覧感謝です!


「よーし!これでキレイになった!!」


 今日もビアンナは部屋の掃除のお手伝い。散らかっていた物は丁寧に整頓されていて、キレイに磨かれた床はチリ一つ無く、光り輝いている。おまけにベッドメイキングなども完璧で、直ぐにでも客が泊まれるよう完璧に準備を終えている。

 これも母でありこの宿の女将でもあるアマンダによる地獄の鬼特訓の賜物だろう。


「これで今日の分は準備完了。後は……」


 掃除道具を手に向かったのは、人気の少ない二階の一番奥の角部屋。


「ナタリアさんの部屋だけね」


 この部屋は元々客室では無く、備品や使わない家具などをしまっていた物置部屋だ。他の部屋と比べて少し狭く、日当たりもあまり良くない。


 それなのにナタリアさんは他の部屋が空いてもこの部屋から動こうとしない。

 理由はよく分からないけど、狭くて少し暗い方が居心地がいい気がするのは私も分かる気がする。


「ナタリアさーん」


 扉越しに声を掛けるが返事は無い。


「ですよね……」


 返事が無いのは分かってた。だってナタリアさんは少し前に外出していったから。それでも一応声をかけたのは、いないと分かっていても、一度は必ず声を掛けろとママにしつこく言われていたからだ。


 私はマスターキーを使って部屋の鍵を開けて、中に入る。


「おじゃましま〜す……」


 当然、中に人の気配は無い。昼間なのにカーテンが閉じているせいで部屋は真っ暗。


 下にある線を慎重に跨いで中に入る。ナタリアさんが言っていた通り、踏んだら部屋が爆発するのは冗談だとは思うけど、一応ね。これももう慣れた。


 無事部屋に入ると私はカーテンを開けて、窓を少し開き、空気を入れ替える。


「さーて、やるぞー!!」


 私が毎日掃除をしているのもあるけど、ナタリアさんの部屋は毎回とても掃除がしやすい。


 空いた酒瓶やゴミは決まってテーブルの側にまとめて置いてある。タバコの吸い殻は灰皿に捨てたままが普通なのに、何故かこれだけは別の袋にまとまっていて、キツく縛ってある。


 それにナタリアさんの部屋はこまめに窓を開けているからなのか、部屋も余りタバコ臭くなく掃除がしやすくて助かっている。


 アルレイシャは慣れた手つきでゴミを片付け、固く絞った雑巾で丁寧に床を磨き上げる。見える部分の掃除がある程度終わると、今度は棚を開けてタオルなどの備品の確認や補充をする。


 ナタリアさんは備品もタオルくらいしか使わないから、この工程も余り難しくない。 


 備品の確認で洗面台の下の棚を開くと、見慣れない大きな袋を見つける。


「こんなのあったっけ?」


 中を確認すると、入っていたのはとても高そうなお酒といつも吸っているタバコの予備だった。


「ナタリアさんの好きな物だらけだ」


 でもどうしてこんな所にお酒やタバコが入ってるんだろう?しまっておくなら普通に部屋の棚にしまえばいいのに。


 なんだか気になった私は部屋に戻り、棚を開けようとする。しかし、棚の取手には何故か見慣れない錠がつけられている。


「なにこれ?この棚にはそもそもこんなの無かったのに……」


 お酒やタバコをしまうなら普通にこの部屋の棚にしまえばいいはず。なのに別の所にしまってあったということは、この棚にしまってある物はよほど大事な何かってことだ。


 しかもわざわざ棚に鍵までつけなきゃいけない物って一体なんなんだろう?


 考えれば考えるほど余計中身が気になってしまう。

 中身が見たい。でも、お客さんの物を勝手に見ただなんて、ママに知られたら絶対怒られるに決まってる。


 だけど……。


「ちょっとくらいならいいよね……?」


 付けていたヘアピンを外し、鍵穴に差し込む。


 前にこれで鍵を無くして開かなくなった部屋の扉を開けたことがある。周りの人にはとても驚かれたし、ママには二度とするなって怒られた。だけどママもナタリアさんも帰ってくる様子は無いから大丈夫。


「この感じ……」


 ガチャっと音が鳴って鍵が開く。


「やった!上手くいった!」


 早速、棚の扉を開けて中身を確認してみる。


「どれどれ〜」


 中に入っていたのは、大量の銃弾と予備の銃、一丁だけだった。


「なーんだ。これだけか……」


 これって前にナタリアさんが見せてくれた銃ってやつだよね。きっと一緒に入ってやるやつも銃に使う部品なんだろう。


 でも少し残念。ナタリアさんのことだから、私が見たことないような物が入ってると思って期待してたんだけどな。


「だけどやっぱりカッコいいよね、これ……」


 私はそっと銃を手に取る。


 思っていたよりずっしりとした重さを感じる。


 そういえば、前に覚悟が無いなら持つなって言ってたけどあれはどういう意味なんだろう?私はてっきり伝説になってる聖剣みたいに、選ばれしものしか使えないと思ってたんだけど……。


 だけど私にはこれが持てた。


 それに不思議と銃を持った途端、自分が少し強くなったような気がするのはなんでだろう?


「あ!それってもしかして、私がこの銃に選ばれたってことだったりして!?」


 きっとそうだ。そうに決まってる。これも女神様のお導きね!


「嬉しい!これで私もナタリアさんみたいにカッコいい冒険者になれるかな〜」


 気分は絶好調。私は時間を忘れて部屋ではしゃぎまくっていた。


「でもこれどうやって使うんだろう?」


 使い方も分からずとにかくブンブン振り回していると、部屋の扉がゆっくりと開いた。


「ったく、酷い目にあった……おい!何してる!」


「え!?」


 私はナタリアさんが帰って来ていたことに全然気づかなかったのだ。


「それは……返せ!」


 ナタリアさんは私から物凄い勢いで銃を取り上げた。


「どうやってこれを。鍵はかけてあった筈だが……」


 床に落ちている錠を見つける。


「まさか自分で開けたのか……?」


「う、うん…。ごめんなさい…」


 ナタリアさんは深い溜め息を吐きながら、棚に入っていた弾丸や銃を取り敢えずバッグに詰め込む。


「この世界での貴重品は魔法鞄とやらにしまって自分で管理しておくべきだったか。少しでも酒代を浮かそうとケチった俺のミスだな……」


 やめて。このままじゃ、私を選んでくれたあの銃が私の物じゃ無くなっちゃう。


「ま、待ってよナタリアさん!」


「あ?……」


「その銃が私を選んでくれたの。だから、それだけは返して!」


「何を言ってる?……」


「お願いだから!」


 私は必死にナタリアさんから銃を奪い返そうとするが、簡単にあしらわれてしまう。


「これはおもちゃじゃないし、銃は人を選ばない。それに、覚悟があるんだろうな?…」 


「え?」


「言った筈だ。覚悟を持たない奴が銃を触るなと。お前にこれを使って命を奪う覚悟があるのか?」


「いつか私もナタリアさんみたいなカッコいい冒険者になりたいの!その銃で悪いモンスターを倒してママを守りたい。それが私の覚悟だよ!」


 その時、窓から吹き込んだ悪戯な疾風がナタリアのフードを脱がし、特徴的な尖った耳と金髪が顕になってしまった。


「……!」


「ウソ。ナタリアさんって、もしかして、」


 それでもナタリアは脱げたフードを被り直そうとはしなかった。


「お前の覚悟が本当ならその銃をくれてやる。冒険者になるなり、好きにすればいい」


「ほ、本当に!?」


「お前のその小さな手で引き金を引き、その手で人を殺す覚悟が本当にあるというのならな」


「待ってよ。ナタリアさんは冒険者でこれはモンスターを倒すための武器。違うの?……」


「俺は冒険者なんかじゃない。モンスターも人も同じ命であることには変わりない。これはそんな命を奪い、殺すための武器で、そして俺は殺し屋だ」


 淡々と言い放つナタリアの姿にビアンナは唖然とするしかなかった。


「…もういい。勝手に棚を開けたことは許してやる。だから全部忘れて、さっさと帰れ」


「で、でも、まだ掃除が、」


「いいから帰れ!!」


「!!……」


 ナタリアさんのオーラに私は圧倒され、逃げるようにその場を立ち去った。


 ナタリアさんがあんな怖い顔をするだなんて、私はとても信じられなかった。

ここまで閲覧頂き誠にありがとうございます。


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