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21、ウィークデイ

閲覧感謝です!


「あーあ……」


 人混みが落ち着いた昼過ぎ頃、深い溜め息を吐きながらテーブルに項垂れるレズハ。


「どうしたんです先輩。そんな浮かない顔して、あ、彼氏にでもフラれちゃいました?」


「フラれた時ってこんな気持ちなわけ?彼氏なんて一度も出来たことないからよく分からないや……」 


「え、」


「……って、何言わせてんのよ!!」


 我に帰ったレズハは思いっきりザンネの頭をぶっ叩く。


「いたーい!何するんですか先輩!ちょっとした冗談でしょ?そんなに怒らなくたっていいじゃないですか〜」


「アンタが変なこと言うからいけないのよ。もう!……」


 顔を真っ赤にしながら頬を膨らますレズハ。


 受付は私とザンネ以外はいないし、ギルド内も殆ど人はいないからそれだけが幸いだった。

 こんなこと周りに知られたと思ったら気が気でない。


「フラれたとかじゃないなら、なんでそんな顔してるんですか?先輩らしくない」


「そんなの、最近ナタリアさんが全然顔を見せないからに決まってるでしょ」


「あーそっち。ナタリアって、ウチの秘密兵器だって先輩がこの前言ってた人ですよね。冒険者でもないただの無職なのに」


「言い方」


「だってそうでしょ。冒険者にもなろうとしない人が他の仕事をしてるとは思えませんよ」


「いや、何か他にもやってるんだとは思う。それが何かは分からないけど」


 前にこっそり聞いた話だと、普段の寝泊まりは毎晩宿だって噂だし、いつも着ている真っ赤なコートは、常にシワの一つも無い新品のようだった。こまめにクリーニングに出している証拠。そんな生活、フリーの依頼だけでとてもやっていけるわけが無いもの。


「少し前も、こうやって暫く間が空いた日はあったんだけどね、こんなに来ない日が続くのは珍しいから。それにラピシアの花の依頼も締切が今日までだし、何かあったのかなナタリアさん……」


「もしかして死んでたりして?」


 ナタリアさんが強いことは私が一番知ってる。あの人がそう簡単に死ぬわけがない。だけどナタリアさんって色々と誤解されがちな人だから、変な目にあってなければいいけど。


「あの人はきっと来るわ。そうに決まってる」


「どうして言い切れるんです?特に今なんか鮮血の妖精〈ブラッディフェアリー〉だなんておかしな殺し屋が幅を利かせてる時代ですよ。私達だっていつか標的になるかもしれないし」


「だとしても、あの人なら大丈夫」


 ナタリアさんなら勇者殺しにだって負けるわけがない。


 自分のことのように自信満々に頷くレズハの様子を見てザンネが問いかけた。


「どうして先輩はそんなにナタリアって人に拘るんですか?別に冒険者ってわけでもなければ、男でも無いんですよ。いい顔する必要なんかこれっぽっちも見当たりません」


「あの人がどんな人でもなんだっていいのよ。前に私が助けられたから、理由はそれだけよ」


 あの時ナタリアさんが偶然通りすがらなければ、今頃私はきっと……。


「助けられた?あの人となにがあったんです?」


「話すと長くなるからやめとくわ」


「え〜〜!?ここまで聞いてそれは無いですよ。少しだけでもいいですから教えてくださいよ〜!」


「イヤよ。てか別になんだっていいでしょ。ほら、口ばっか動かさないで少しは手を動かしなさい。目を通さなきゃいけない書類もこんなにたくさん残ってるんだから!ほら!」


「は〜い……」


 レズハに急かされザンネは気の抜けた返事と共に残っていた書類仕事に取り掛かった。


「しょうがない子なんだから……あ、」


 レズハの目に飛び込んできたのは、待ち望んでいたあの人の姿。


「やっぱり来た……!」


「うわ、先輩の予感が当たったよ…」


 こんなにあったかい日だというのに、いつもの真っ赤なコートを着ているのも変わってない。


「悪い、遅くなった」


 ナタリアが受付にやってくるや否やレズハは大声を上げる。


「もう〜っ!!今までどこで何してたんですか!?心配してたんですからね!!」


 そしてレズハは思わずナタリアに抱きついた。


「……」


「先輩……!?」


 突然の行動にザンネは勿論、ギルド内にいた少数の人々もそれに釘付けになる。


「遅くなるなら遅くなるで、一言くらい言ってくださいよ。言ってくれれば少しくらい融通きかせたんですから」


「近い…」


「え、あ、あ!!……ご、ごめんなさい!!」


 レズハは再び顔を真っ赤にしながら、慌ててナタリアと距離を取る。


「べ、別に変な意味じゃないですからね!あの、ただの挨拶みたいなものですから…今のは忘れてください……!」


 ――これが俗に言うツンデレってやつか?よく分からんが珍しいものを見れた気がする。


 恥ずかしそうにするレズハをナタリアは不思議に思いながら、静かに頷いた。


「分かってる。それに謝るのは俺の方だ。依頼達成の報告が遅くなりすまなかった」


「それはいいですけど、何かあったんですか?」


「色々と別件が立て込んでいてな、つい後回しになってしまった。まだ間に合うか?」


「もちろんです」


 なんとか無事、採取したラピシアの花を納品の終えたナタリア。


「そうだ!今日もお仕事何か受けていきますよね?丁度ナタリアさんにうってつけの仕事があったんですよ。えっと、依頼書どこだったけ?」


 山積みになっているの依頼書の山を急いで漁るレズハ。


「いや、今日は遠慮しておく」


 本業の方が勢いづいているからな、暫くはそっちの方に集中するつもりだ。あくまでもこっちの仕事は仮凌ぎ、それで本業が疎かになってしまえば意味は無い。


「そ、そうですか……」


 がっくりと肩を落とすと、その拍子に積み重なっていた依頼書の山も崩れ落ち、さらにレズハのテンションも降下してしまう。


「あ、師匠!」


「ゲッ……」


 また厄介なのが。面倒なことにになるのはごめんだ。ここは黙って知らないふりをするに限る。


 フードを深く被り直し、そっとギルドを後にしようとするナタリアだったが、嫌な予感が的中。タクマに捕まってしまった。


「探しましたよ師匠!」


「え、ナタリアさんがタクマさんの師匠!?……(でもそれなら、この前のクラウンコングはやっぱりナタリアさんが……)」


 まだ間に合う。この前のことは忘れたことになってる。このまま知らないふりをすればそれでいい。


「なんのことだ?俺は師匠じゃない」


「でも僕はこの前のこと忘れてません!だから僕、絶対諦めませんから!」


 やれやれ、やっぱり面倒なことになった。これだから諦めの悪い奴は嫌いなんだ。


「全部忘れろと言った筈だ。俺は忘れた」


「覚えてるじゃないですか」


「……覚えて無い」


 面倒くさそうに無視して帰ろうとするナタリアをタクマは慌てて追いかける。


「待ってくださいよ師匠!」


「……師匠じゃない」


「師匠ってば!!」


 無視を続けるナタリア。それを必死に追いかけるタクマ。


 そんな二人の様子をレズハはなんだか微笑ましく思えていたのだった。


 ◇◇◇◇◇◇


「…おい、なんでついてくる?」


「気にしないでください。僕が勝手に付いて行ってるだけなんで」


「勝手についてくるな」


「なら、僕と師匠の向かう方向が偶々一緒だってことにしましょう。それないいでしょう?」


「よくない。そんな偶々あってたまるか……」


 いくら言ってもナタリアの側を離れようとしないタクマを見て、溜め息を吐く回数も増えていくばかり。


 本当なら、開店前のマスターの店にでも顔を出して、使い果たした弾丸の補充をしようと思っていたのだが、こうも付き纏われると、それも無理そうだ。


 仕方ない。今は一度宿に戻って、部屋に隠してある昨日買った上等な酒を飲みながら、時間が過ぎていくのを待つことにしよう。酒は夜に飲むものだが、偶には昼間からでも悪くない。こんな風にストレスが溜まった時には特に。


「あーいぼうっ!!」


 しかしこの世界はそんな簡単にストレス発散はさせてくれないらしい。


 疲れた様子でとぼとぼと宿屋に向かって歩くナタリアを見つけたアルレイシャが子供のように懐に飛び込んでくる。


「ッ…(また面倒なのが…!)」


 それを素早く察知したナタリアは颯爽とそれを避けた。


「ちょっと!なんで避けるのよ!?」


「来ると分かっているのに、懐に入れるわけないだろ」


「別にいいじゃん。相棒なんだからさ」


「相棒!?」


 その一言に、案の定一番食いついて欲しくなかった奴が食いついた。


「どういうことですか師匠!師匠に相棒がいるだなんて僕は聞いてません!」


「違う。コイツは相棒じゃないし、俺はお前の師匠でもない」


「でも今確かにこの人が相棒だって」


「ただの聞き違いだろ」


「いーや!正真正銘、私が彼女の相棒よ!!」


 そんなこと一度たりとも俺は認めたことはない。


「ほらやっぱり!相棒だって言ってるじゃないですか!」


「これも何かの聞き違いだ。それより、お前は何しに来たんだ?…」


「何しにって、暇つぶし?ここら辺うろうろしてたら、偶々相棒を見かけたから声をかけたのよ」


 つまりは俺はコイツの暇つぶしに付き合わされたというわけか。今日はやけに偶々が偶々続く日だな、いやらしい。


「てかさ、さっきから隣にいるコイツは一体なんなわけ?アンタは私の相棒のなんなのよ!!」


 俺はお前の物でも無ければ、相棒でも無いのだがな。


「コイツはただの冒険者で俺のストーカーだ」


「ストーカー!?…って、なによそれ?」


「お前と同じ面倒な奴だってことだ」


「なんか失礼ね。でも、ただの冒険者か」


「いいえ、僕は師匠の弟子です!」


 なんか既視感。


「嘘を吐くな。俺はそんなの認めては、」


「弟子!?なによそれ!?そんなの私聞いてないんだけど!」


 ほらな。少しはこっちの話も聞いてくれよ。いい加減俺も疲れてきた。


「相棒!」

「師匠!」


「だからさ……俺はお前の師匠でも、お前の相棒でも無いんだよ!!」


 我慢の限界。ナタリアは心の底から叫んだ。


 大人になって、こんな大声を出したのは随分と久しぶりな気がする。


「相棒ってば!」


「ですよね師匠!」


「はぁ……」


 いつもの宿屋までの道のりが、なんだかとても長く感じる今日この頃であった。


 その時、ナタリア達の前を華麗なドレスに身を包んだ一人の少女が通りすがる。


「今のって…いや、ありえないわね」


「如何なさいましたかお嬢様?」


「ちょっと知り合いを見つけたような気がしたんだけど、気のせいだったみたい。行くわよ爺や」



ここまで閲覧頂き誠にありがとうございます。


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