20、暴食は今も成長中
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「これで六人目。また鮮血の妖精〈ブラッディフェアリー〉が活躍したみたいだね……」
「今度は誰が狙われるのかしら?私?それとも、」
「それなら私がいい。一体勇者殺しはどんな味がするのがずっと気になってたんだ」
男や女の声が聞こえるその部屋には誰もいない。
部屋の中心にある長机には十本の薔薇が飾られている。その内の六本は花瓶を倒され外に出されている。長く放置されていた三本は既に枯れ果てているが、残りの三本はまだ形を保っている。既に萎み始めた物もあるし、まだ水滴が付いてる物もある。
「呆れた。またその話?やめてよね、こっちはこれから食事なんだから」
「……暴食、お前はまだそんなことをしているのか。変なものばかり食べて、腹を壊しても知らないぞ」
「変なものとは食材に失礼だろ。それに私は育ち盛りだからな、食べれる物はなんでも食べる主義なんだ」
「育ち盛りって歳じゃないでしょ。声だけ聞けば若いんだけどさ、実際会うと、」
「おい。育ち盛りに歳なんか関係ないだろ…」
一瞬、とても低くなる男の声に動じた女は慌てて話題を変える。
「そ、そういえば、ちょっと前に思い出したんだけどさ、アイツって今何してるのかしら?」
「アイツって?」
それぞれ聞こえる声は薔薇と連動しているようで、花瓶に残されている薔薇の内、二本が声に合わせて光っている。
「いたじゃない。私達勇者の中でも一番使えなかった出来損ないがさ」
「あーーいたね。そんな奴。名前ってなんだっけ?」
「そんなのも忘れちゃったわけ。名前は、えっと、なんだっけ?」
「なんだ。お嬢も忘れてるじゃないか」
「しょうがないでしょ。随分前にどっか行った奴の名前なんて覚えてるわけないじゃない。アナタと違って存在を覚えてるだけ私の方がいくらかマシよ」
「タクマだ。故郷が同じ奴の名前くらい覚えておいてやってくれ」
今度は真ん中に置かれた、一段と大きな薔薇が光り輝く。
「そうだそうだ。そんな名前だった!」
「あんな出来損ないだった奴の名前まて覚えているだなんて、流石は時間の勇者〈クロノス〉ね」
「当然だ。同じ女神に愛された者同士、存在を忘れたことは無い」
「そんなこと言って、アンタが一番ソイツのことをバカにしてなかったっけ?」
「……忘れたな。そんな小さな出来事、一々覚えていない」
「あっそ」
一番隅に置かれた小さな薔薇が輝くことはなかった。
「ところで、そのタクマって奴は今何してんだ?」
「私が知るわけないでしょ。何もできなかったから、そこら辺でのたれ死んでるんじゃないかしら?」
「いや、冒険者として頑張っているらしい。未だにランクは一番下のままだがな」
俺達と同じく女神様に召喚された筈なのに、何故かタクマだけは何も能力を持っていなかった。それどころか、何の変哲もない特訓用の木刀ですら何故かタクマには持ち上げることが出来なかった。
武器も使えず魔法の才能も無いただの出来損ない。その癖に正義感だけは強くて、一丁前に口だけは達者たったのはよく覚えてる。
しかし未だに分からない。あの慈悲深い女神様が何故タクマだけに能力を与えず、あんな枷を与えたのか。ただの気まぐれだとは思うが、もしかすれば……。
「取り敢えず今は生きてくれていればそれでいい。もう残された勇者は四人しかいないんだ。これ以上仲間を失いたくはない」
「よく言うわよ。まぁ、早いことソイツを何とかしようとするのは私も賛成よ。きっとあの人もそれを望んでるんでしょうしね……」
「その通り。暴食、心配はしていないが万が一がある。決して油断するなよ」
「言われなくたって分かってるよ。あ、そろそろ時間だ、いい加減切るぞ」
そして一人の男は早々と強引に通信を切る。
「はぁ…食事の時間には何とか間に合ったな。にしても薔薇を介して通信するなんてお嬢も奇想天外なことを考えるもんだ。若いのが考えてることはどうも分からん」
男の目の前には長机に置かれていた薔薇と全く同じ薔薇が飾られている。
「念話だけならそんなことしなくても出来るっていうのによ。側から見れば、花と話してるおっさんだぞ。こんなの誰かに見られたらどう責任とってくれるんだ」
「ゴロウ様。少しお話よろしいでしょうか?」
「あ、ああ」
男は慌てて机の上の薔薇を隠すと、コック服姿の男が入ってくる。
「どうしたダーナルド。そんなに改まって、何かトラブルでも?」
「いえ、そういうわけでは無いのですが……」
「それならどうした?」
「そろそろ食材の在庫が尽きそうです。近々、食材の調達をお願いしたく」
「もうそんな時期か。分かった、手配しておくよ」
「お願いします」
そういえば、前にあの方から聞いた鮮血の妖精〈ブラッディフェアリー〉に関する話で、気になった奴がいたんだよな。ソイツを使えば、鮮血の妖精〈ブラッディフェアリー〉を上手く誘い出せるかもしれない。
そうしたら今頃皿の上には……おっといけない。考えただけで涎が溢れてきた。
お楽しみはとっておかなきゃな。その為にもまずは腹ごしらえだ。
「ダーナルド。因みに今日の食事はなんだい?」
「本日はステーキの予定です」
「いいね。一番大好きだ!」
そういうことだから、よーく体を洗って待ってろよ、妖精さん。
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