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19、6人目

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「……昂る気持ちは分かるが、そう焦るなよ。まだ夜は始まったばかり。勿体ぶるのも悪くないぞ……」


 復活するのも楽ではないらしい。痛みや衝撃で傷つけるのは何も肉体だけじゃない。ドMの強心臓だからってこれだけ死ねば、心が無事でいられるわけもない。


「アルレイシャ。お前も突っ立てないで手伝え」


 唖然としていたアルレイシャも我に返る


「え、あ、うん。でもこのままじゃキリがないわよ」


「いいから黙って殺せ。それと、予備の武器が何かあれば貸してくれ。素手じゃ殺すのも時間がかかるんでな」


 異次元の空間に繋がっている魔法鞄から、短刀を取り出すとナタリアに投げ渡した。


「仕方ないわね。じゃあこれ貸してあげる」


「ほう、短刀か……」


「銘は兼次〈カネツグ〉。小さいし、予備だからって鈍じゃないから、大事に使いなさいよ」


「見れば分かる」


 刀にはあまり詳しくない俺から見ても、この刀が凄いことくらいは一目で分かる。


「…こ、来いよ。痛ぶられるのも殺されるのも、願ったり叶ったりだ。僕は絶対に死なないからね!」


 まだ強がるか。しかし言ってることは変わらないが、最初の頃と比べれば勢いは無くなったし、なんだか弱々しい。


「安心しろ。お前が死ぬまで付き合ってやる」


「さあ、楽しいデートの始まりよ」


 ここからは共同作業。


 ナタリアが心臓を一刺し。復活すれば、すぐにアルレイシャがトドメを刺す。


「お、おい!」


 そして首がくっつけば、再びナタリアが心臓を突き刺し、アルレイシャがその体を切り離す。


「だから!」


 それはまるで、正月の餅つき大会の一コマを見ている様。一人が杵で餅をつき、一人がその餅を手早く引っくり返す。


「!……」


 初めてとは思えないほど二人の息は合っていて、勇者に喜ばせる間も与えず、それを阿吽の呼吸でひたすら繰り返していく。


 名刀だろうが、国宝だろうが、所詮刀も人を殺すための武器にしか過ぎない。どんなにこれが無惨でもナタリア達はその役目を全うさせるだけ。


「いい加減そろそろ死になさい!!……」


「……これは、」


「なに?」


「勇者をよく見てみろ」


「え?……うわっ、コイツってこんなんだったけ?」


 冷静になって勇者の顔をよく見てみると、あれだけフサフサだった髪の毛が今では悲しくなる程に少なくなっている。それに下を見てみると、散髪した後のように抜け落ちた髪の毛で埋め尽くされている。


「殺すのに夢中で気づかなかった。こんなことになってただなんて…」


「どうやら、死なないその能力にも限界があるらしいな。恐らくその限界は」


「髪の毛の数ってことね。よっしゃ!終わりが見えて俄然燃えてきたわ。このまま一気に殺すわよ!」


「ああ」


 そして切り殺し続けて、もう何百回殺したかなんて覚えていないほど俺達は殺し続けた。


 勇者に残された髪の毛は僅か一本のみ。


 あんなに煩かった勇者も今では何も言わなくなり、とても大人しくなった。反撃する力も残ってはおらず、殺されるのにも飽きてきたらしい。


「もう殺してくれ……」


「ようやくね。無駄にしぶといからもう全身ベタベタよ」


 無心で殺し続けて、二人の体は返り血で全身血塗れ。赤いコートを纏っていてもその血が目立つほどだ。もはやどっちが鮮血の妖精〈ブラッディフェアリー〉なのか分からない。


「おかげでアナタが好んでその目立つ真っ赤なコートを着てる理由が少し分かった気がするわ」


「店なら紹介してやる」


「帰ってシャワーを浴びてからね。そういうことだから、子豚さん。お望み通りそろそろ死なせてせてあげるわ」


 ほんの前までなら大興奮。しかし今の勇者にはそれで喜ぶ気力など微塵も残っていなかった。あるのは心の底から死にたいという、切実な願いだけ。


「つまらないの…。じゃ、死んで」


「待て」


 刀を振り下ろす瞬間、ナタリアがそれを止めた。


「また邪魔するわけ?……まさかコイツまで殺すなとかいうんじゃないでしょうね?」


「そうじゃない」


「だったらなんのつもりよ?」


「やるなら徹底的にだ。念には念を入れる」


 するとナタリアは筒状の何かを勇者の近くに仕掛ける。


「準備は終わった。一度、ここを出るぞ」


「ちょっとどこ行くのよ!?」


 ナタリアは戸惑うアルレイシャを強引に連れて外に出る。ここからだと屋敷は遠くに見える。


「お前、天才だから魔法が使えるんだよな?」


「ま、まぁね」


 お世辞だと分かっていても天才と言われるとつい頬が緩んでしまう。


「でも、使えるのは攻撃魔法以外だし、バニーは種族柄、魔力の保有量が少ないから使える魔法はどれか一日一回が限界でそれ以上は無理」


 一日一回でも使えるだけマシだ。俺はエルフのくせに魔法が全く使えないからな。


「それで構わない。今日はまだ使えるのか?」


「ええ。でもして欲しいことがあるならさっさと言ってくれると助かるわ。もう少しで日が跨ぐ。今日の分は今日の内に使っておきたいから」


「周辺に俺達を除いた勇者以外の生命反応があるか探れるか?」


「そんなことでいいの?任せて」


 アルレイシャはペンダントを握りしめ、そっと目を瞑る。


「範囲探索〈サーチ〉」


 そしてナタリアは数秒ジッとしていると、ゆっくり目を開けた。


「どうだ?」


「勇者以外の気配は特に無し。人もいなければモンスターすらいないわ。静かなもんよ」


「それならいい」


「だけど肝心の勇者の生命反応は微かで、いつ死んだっておかしくない状況よ。このまま放っておいても勝手に死ぬかもね」


 そうなる前にトドメを刺す。


「いや、勝手に死なれては困る。勇者を殺すのは俺の仕事だ」


 ナタリアはポケットから何かのスイッチを取り出す。


「殺すって、魔法も使えないのにここからどうやって殺すのよ?」


 ナタリアがそのスイッチを押した瞬間、屋敷が大爆発を起こした。


「え……」


 遠く離れたこの場所からでも屋敷が炎に飲み込まれていく様子はよく伺える。


「勇者の反応は?」


「完全に無くなったわ……てか、そんなことどうでもいい。アンタ何したのよ!?」


 唖然としていたアルレイシャは、すぐにナタリアに詰め寄る。


「何って、見た通り屋敷を爆発させただけだ」


「そんなの見れば分かるわよ!そうじゃなくて、魔法は使えないって言ってたのにどうやって爆発させたかを聞いているのよ!!」


「魔法じゃない。ダイナマイトワームの核を組み合わせて時限式の爆弾を作り、それを使って爆発させたまでだ」


「さらっと意味分からないこと言ってるし……」


 しかし期待通りの凄まじい威力だ。高い金を出して買った甲斐があったというものだ。これならリピートもアリだな。


「だけど爆発って、死にかけだった勇者にそこまでする必要あったわけ?…」


「言ったはずだ。やるなら徹底的にやると」


「だからってやり過ぎでしょ…………」


 この時アルレイシャは密かに誓った。この先何があろうとしてもこの女だけは絶対敵にはしないと。

 死にかけだった男をわざわざ爆発させて殺すような物騒な女だ。もしもこんな奴を本気で怒らせたとしたら……そう考えただけで恐ろしく夜も眠れない。


「さあ、帰るぞ」


 殺しに手段は選ばない。殺せるならなんでもいいし、なんでもする。俺は今までずっとそうやってきた。世界が変わろうと、性別が変わろうと、それは決して変わらない。


 しかし、あの大きく燃え上がる炎を見ていると、妙にスカッとした気分になっているのは何故だろうか。


ここまで閲覧頂き誠にありがとうございます。


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