18、最高に狂ってる
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こういう仕事柄、常に危険とは隣り合わせ。いつ何時もある程度の困難は予想してるし、もしもの時の覚悟だってできてる。
勇者と呼ばれる規格外な奴が相手なら尚更だ。
しかしこんな展開になるだなんて、誰も思わないし、想像出来るわけがない。
勇者が常軌を逸したドMだったなんて、俺が子供の頃に遊んでたゲームじゃ絶対に考えられないとんでもっぷりだ。
「はじめまして鮮血の妖精〈ブラッディフェアリー〉。君がこうやって来てくれることはずっと前から分かっていたよ」
自分を撃った相手が目の前にいるというのにこの笑顔だ。どうかしてる。
「それに平和殺し〈ピースキラー〉。君とは久しぶりだね。こうやってまた僕に会いにきてくれたなんてとても嬉しいよ!」
「……こっちは別に、嬉しくなんて、ないのよ!!」
目の前にはターゲット。しかも一度はしてやられた相手。
黙って話など聞いてられるわけがなく、感情の赴くまま、勇者の首を見事に一刀両断。切り離された頭は重力に従って地面に落ちる。
「……」
アルレイシャの剣捌きも大したものだが、流石は名刀三日月宗近。凄まじい切れ味だ。
その断面は艶々していて、美しいとすら思えるほどだ。
「……どうせ復活するんでしょ?」
アルレイシャの予想は見事に的中。切り離された筈の頭と胴体はまるで磁石のN極とS極が惹かれ合うように互いを求め合い、やがて元通りくっついた。
「……いいねぇぇぇ!!相変わらず惚れ惚れするよ平和殺し〈ピースキラー〉。一瞬感じる、頭と首が切り離されるこの独特な感覚。正にエクスタシーって感じでめちゃくちゃ興奮するよ!!」
首を落とされても、落とされた側は僅かに意識が残っているだなんて話は聞いたことがあるが、その感覚に興奮するのはコイツだけだろうな。
「気持ち悪い……」
思わず漏れる心の声。
「おっと、そういえば自己紹介がまだだったね。失礼した。僕の名前はミカゲハルイチ。復活の勇者〈リボーン〉とも呼ばれる勇者の内の一人さ。出来れば君達には僕のことを豚だって呼んでほしいな。てか呼んでください!」
「呼ぶか」
「黙って死んでくれる?」
「おおおふっ!!…いいね、実にいい感じだ!!」
体を震わせ悶えながらも、楽しそうに笑みを浮かべる勇者。
命を狙われたこんな状況でもまだ自分の性癖すら晒して楽しんでいられるだなんて、筋金入りのドMだな。
「やめよやめ。何を言ってもコイツを喜ばせるだけだわ」
「いいじゃないか、ほら、もっと僕を罵っておくれ!僕は君達を傷つけるつもりはない、寧ろ傷つけて欲しいと願ってる!」
「…………」
「おいおい、ここで無視とはやるじゃないか……!!俄然ドM心がくすぐられるぞ!!」
正反対のリアクションを見せる勇者にアルレイシャの顔は完全に引き攣っている。
「それだそれ!ゴミ虫を見るような蔑んだその冷たい瞳。僕はそういうのを求めてたんだ!ありがとうございます!!」
「な、なんなのよコイツ!バッカじゃないの!!キモいんだよ!死ね!!!」
「おい、」
「あ、」
シンプルイズベスト。直球、ストライクゾーンど真ん中の罵倒を喰らい、勇者は言葉を発せなくなるほどよだれまで垂らしながら喜んでいる。
「!!!……」
言葉にならない程の鬱憤と叫びたい気持ちを必死に抑えるアルレイシャ。
やればやるほど今のアイツにとってはご褒美でしかないのだ。
「最高だよ。僕にとって君達は本当に最高の女王様だ!!今までの見た目だけの出来損ないとは大違いだ」
「出来損ない……?」
「多分コイツがお気に入りの女王様を求めて、今まで攫った女達のことよ。私の依頼者もコイツに傷つけられた女の家族だったから」
「傷つけたとは酷いな。僕は彼女達に見本を見せただけ。それなのに、少し痛めつけただけで泣き叫び、感謝の一つすらできない出来損ないばかり……そんなんで僕を満足させられるわけがない。たかが腹をひと刺しした程度で死んでしまうんだから」
「別に人間を庇うつもりはないけどさ、こういう奴が女の敵って言うんだろうね…イライラする」
アルレイシャは無駄に勇者を刺激しないように小声で呟く。
「最低だろ?ほら、そうやって罵ってくれよ。ほら!さっきみたいに僕をもっと虐めてくれぇ!!」
このまま黙っていてもアイツを喜ばせるだけだ。コイツの口を黙らせるには殺すしかない。
「……どうする?」
「決まってる。殺すだけだ」
「だからその方法を聞いてんのよ。死なない奴をどう殺すわけ?」
「簡単だ。死ぬまで殺し続ける」
死んでも死なない不死身の勇者。女神も頭の悪い能力も授けたものだ。それもこんな奴に。
「そうだ。ほら、遠慮するな。僕は絶対に死なない。だから全力で僕を殺してくれ。アハハハ!!!」
しかし相手が悪かったな。
「勝手に笑ってろ。このクソ豚が……」
勇者の目の前で引き金は引かれた。気持ちの悪い笑い声は銃声よって掻き消され、待ちに待った静寂が訪れる。
しかしその静寂も長くは続かない。いつの間にか撃ち抜かれた筈の眉間も完全に回復している。
「アハハハ!!いいぞ!」
むくっと起き上がり満面の笑みを浮かべる勇者。反撃してくる様子は無くこの状況を楽しんでいる。
再び引き金は引かれ、銃声が鳴り響く。先程同様寸分狂わず眉間を撃ち抜いた。
「そうだ!もっと俺を殺せ!!」
起き上がれば、ナタリアは引き金を引き、眉間を撃ち抜く。弾が無くなれば、復活するまでの間に補充する。
「イイネェェ!!その調子だ」
引き金を引く。
「最高ダァァァァ!!!」
眉間を撃ち抜く。
「お嬢様もノってきたなぁ!!」
ナタリアはそれをひたすら機械のように繰り返す。
「いい感じだ。だが、もう少し、」
何かに取り憑かれたかのように。
「ちょっと待って。少しは俺も余韻に、」
ナタリアに躊躇は無い。
「だから落ち着けって、」
死ぬまで殺し続ける。
「少しは人の話を、」
ナタリアの顔はまるで能面のようで、ジッとターゲットを見つめている。
「何これ……」
笑うことも、悲しむことも、殺気も、今の彼女には何もない。
一回で足りなければ十回。十回で足りなければ百回。それでも足りないなら千回。
相手が死ぬまでとにかくひたすらに無心で殺し続けるだけ。
「お……!」
眉間を撃ち抜き貫通した弾は全く同じ箇所に着弾する。少しずつ壁の穴が黒く、広がっていく。
「いい加減にしろぉぉぉぉ!!はぁ、はぁ、……」
再び引き金を引くが弾は出ない。夢中で撃ち続けて弾倉は空っぽ。予備も撃ち尽くしてしまった。
「チッ……」
「ちょっとは躊躇えよ。どうかしてるんじゃないか!?」
それはこっちの台詞だ。
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