17、ああ、めんどくさそうだ
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真夜中の暗闇を照らすのはどの世界も決まって月明かり。そして今宵は満月。普段より一段と輝きを増しているようだ。タバコの煙が満月に向かって浮かんでいくようで、面白い。
それにしても不思議なものだ。ここは異世界の筈なのに、空を見上げると当たり前のように星空が広がっていて、月まで見える。
星空や月が見えるということは、異世界にも宇宙が存在するということなのだろうか。
まぁ、ここはあの女神が管理する世界。しかもここは日本や地球とは異なる異世界で、細かい点を指摘していては埒が明かないし、野暮ってもの。
「おまたせ〜!待った?」
「…待った」
ナタリアはため息混じりで、吸っていたタバコの火を消すと、愛用の携帯用灰皿に捨てる。
待ち合わせ時間から一分も過ぎている。僅か一秒が命取りの襲撃に遅刻とは弛んでる。
「怒んないでよ。たった一分でしょ?それに普通は、待ってても待ってないって言うところだと思うけど」
「たった一分でも待っていたのは事実だ」
「本当真面目ね。そんなに頭が固いと男にモテないわよ?」
「モテる気は無いし男に興味も無い」
「あ…そっち」
なんだその間は…。そっちってなんだ。
「…意味が分からん」
「そうだ。一つ言い忘れてたことがあるんだけど」
「…なんだ?」
「ここの勇者相当キモイから、そっちの方も覚悟しておいてよね?」
「どういう意味だ?」
「行けば分かるわよ。付いてきて、相棒」
「だから相棒じゃない」
さっきからアルレイシャの言っている意味が俺にはさっぱり理解できなかった。
それでもナタリア達はきっちり手入れが施されている庭を通り抜け、裏口から屋敷内部へと無事、侵入に成功したのであった。
「…………」
「こっちよ」
中は暗闇。しかし窓から差し込む月明かりが薄らと辺りを照らしている。
そして壁には、至る所に勇者と見られる肖像画が張り巡らされていてどこか不気味だ。というか気持ち悪い。自分の自画像を飾るのは、俺のセンスとはかけ離れていて理解に苦しむ。
「一応確認だが、さっきのキモイってこういう意味であってるか?…」
「それもある。だけどこんなのかわいいもんよ」
これ以上にキモいことがあってたまるか。眺めているだけで気分が悪くなりそうだというのに。
……それにしても随分静かだな。厳重な警戒体制を敷いているとこちらも警戒をしていたのだが、これといった罠もなければ、人の気配すら感じられない。一度襲撃されているとはとても思えないほど静かで不用心だ。
「大丈夫よ。きっと何も無いから」
俺の心を見透かしたようにアルレイシャが呟く。
「どうしてそう言い切れる?…」
「あの時もそうだったから。護衛もいなければ罠も無い。面白いくらいにね」
それだけ自分の力に自信があるのか、ただのマヌケか。それなら楽で助かるが、どちらにせよやることは変わらない。どんな奴だろうとターゲットは殺す。それだけだ。
結局、アルレイシャの言う通り何も起きないままターゲットが潜伏してると見られる広間の前まであっさりと辿り着いた。
「あの扉の奥が広間よ。この前と同じなら、きっと奴はここにいるはず」
既に夜更け。だが、扉の隙間からは薄らと中の灯りが透き通っている。
扉の近くから人の気配を感じる。どうやらただの夜更かしじゃないみたいだな。
「次こそ殺す。絶対に……」
アルレイシャは静かに気合を入れる。
「三の合図で突っ込むわよ」
ナタリアは黙ったまま銃を構える。
「……一、」
アルレイシャの刀を握る手にも力が入る。
「ニの」
その瞬間、ナタリアは扉越しから発泡。火薬の匂いと共に静寂に包まれた屋敷に複数の銃声が響き渡る。
「……私、まだ三って言ってないんですけど?」
「どうせ殺すんだ。それにターゲットが待ち伏せしているのに悠長に待ってる理由はない」
空になった弾倉を素早く補充すると、ナタリアはボロボロになった扉を蹴破る。
体のあちこちを撃ち抜かれ、その場で倒れ込む勇者の無惨な姿を確認する。
「よし、帰るぞ」
「待って。まだ終わってない」
「ターゲットは死んだ。もうここに用は、」
おかしい。撃ち抜かれた箇所が完全に回復している。
「これは……」
「気持ちいいぃぃぃぃ!!!!」
満面の笑みを浮かべた勇者は奇声を上げながら飛び起きた。
「待っていた甲斐があった……最高だよ君!いやお嬢様!!この調子で、もっと、もっと僕をその手でいじめておくれ!!!」
なるほど。こういう意味だったのか……。
「ね、キモいでしょ?」
「ああ。それにめんどくさそうだ」
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