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2、興味津々なお年頃

閲覧感謝です!


 そして現在。


 また一つ仕事を終えた俺はいつも贔屓にしている馴染みの宿屋に向かった。


「いらっしゃい!て、またアンタかい…」


 軽やかな営業スマイルも俺の姿を見た途端跡形もなく消え去ってしまう。


「今日こそいなくなってくれると思ってたんだけどね……」


「これ、一月分。足りなかったら言ってくれ」


「なら仕方ないね。金があるならどんな奴でもウチの客だ」


 金を渡した途端、女将は態度をころっと変えた。本当にこの宿屋の女将は分かりやすいな。


「だけどさ、こんだけ金を持ってるなら、アンタもそろそろ自分の部屋くらい借りたらどうなんだい?」


「…掃除するのが面倒なんだ」


「ったく、そんなに若い頃から無駄遣いして、後で後悔しても私は知らないよ!」


「金には困ってない。無くなったらまた稼げばいいだけだ」


 ナタリアはいつも通り深くフードを被り、一度も女将と目を合わせることなく話を進めていく。


「しょうがない子だね…。そうだ、今日はシチューだけどウチで食べていくかい?」


「ああ。いつも通り部屋に持ってきてくれ」


「たまには食堂で食べな。いちいち部屋まで持っていくこっちの気も少しは考えておくれよ」


「人の多いところは得意じゃない。それに目立ちたくないんだ…」


「そんな格好して何言ってんだか」


 確かにナタリアが着ている赤いコートは多くの宿泊客がいる宿屋の中でも異彩を放っている。


「知っての通りウチはワケアリばかりが集まる溜まり場だ。アンタの素顔を見たところで態度を変えるような奴は一人もいやしないよ」


「…部屋で待ってる」


 耳も貸さず、それだけ言い残すとそのまま二階にある自分の部屋に戻っていく。


「一ヶ月以上住み込んでおいて、あれで自分の正体がバレてないつもりなのかね〜…」


「ママ。また今日もあの人泊まるの?」


 すると後ろから女将の娘がひょこっと顔を出す。


「そうよ。また一ヶ月だとさ」


「あのカッコいい人って冒険者なんだよね?お金持ちってことは強いのかな?」


「さあね。金があるくせにウチみたいなボロ屋に好き好んで泊まるんだから、色々訳アリなんだろうさ。まぁどんな奴であろうと金さえ払えばウチの客だ。なんでもいいよ」


 恰幅のいいその姿同様、女将の胆も相当すわっているようだ。


「そういうことだからビアンナ。このシチューをいつも通りあの部屋に届けてくれるかい?」


「うん。分かったよ!」


 ビアンナは不思議な気配のする彼女のことが気になるようで、食事運びを任される度にいつもワクワクしていた。


 パンと一緒にシチューを溢さないように二階まで慎重に運んでいく。


「あの〜、シチューを持ってきました」


 部屋の前で声をかけて、暫くすると女が扉を少しだけ開ける。


「…」


 扉の隙間から外の様子を念入りに確認すると、やがて扉を大きく開ける。


「ありがとう」


 部屋の中でも女は深くフードを被っていて、顔馴染みの少女であっても目を合わせようとはしない。


 シチューを受け取り、扉を閉じようとすると、少女が扉の先にある何かを興味深そうに見つめていることに気づく。


「あれって、なに?」


「…あれ?」


 少女の視線の先にあったのは、メンテナンスの為にバラバラにしていた銃の部品だった。


 俺としたことが、少々目に入る所に置きすぎていたようだ。だが心配はいらない。この世界で銃とは得体の知れない過去の遺物。殆どの人間にとって銃とは使い道のよく分からないただのガラクタ。銃を持っていることを知られたからと言って騒ぎになることは無いだろう。


「教えてください!アレってなんなんですか!?」


 一度は無視して扉を閉じようとするが、余りにもしつこく質問してくるものだから、俺は仕方なくそれを教えることにした。


 何故銃なんかにそこまで興味を抱くのか俺には分からない。この年頃だ。目に入った物が何か分からないと気が済まないのだろう。所詮子供のすることだ、一回満足させれば大人しくなるだろう。


「分かった。特別に見せてやる。入れ」


「本当ですか!?ありがとうございます!!」


「待て!」


 喜んだビアンナはウキウキで部屋に入ろうとするが、それを女が慌てて止める。


「え?」


「下を見ろ」


 女が指差す方を見ると、扉の近くには一本の白い糸が通っている。


「下に線があるのが見えるよな?それは絶対に踏むな。必ず跨いで入れ」


「う、うん」


「踏んだらこの部屋は吹っ飛ぶからな」


「えぇ!?」


 絵に描いたような見事な驚きっぷりだ。面白い。


「ほ、本当に?…」


「冗談だ。そんなことしたら女将に殺されるだろ」


「そうだよね。怒るとママって怖いもん。びっくりした〜!」


 余りにも可哀想なので、そういうことにしておくが、実は冗談では無い。

 あの線の先には火薬と繋がっていて、少しでも線に触れれば爆発する仕掛けなっている。


「危ないから抱っこしてやる」


「いいよ。このくらい私でも飛び越えられるもん!」


「念の為だ」


 これで巻き添えなんてくらったら一生笑いものだ。


 ビアンナを片手で軽々と抱え、部屋の中に入れる。


「…お姉さんって力持ちなんだね」


「そこそこ鍛えてるからな」


 エルフの体は人間とは異なる部分が多々ある。分かりやすいところが筋力。見た目は華奢に見えるが実際はこの通り。余裕で林檎だって片手で潰せるし、その気になれば人の頭だって…まぁ、片付けが大変なのでそれはしないが。


「お姉さん。これはなんの道具なの?」


 目をキラキラと輝かしながら俺に質問するその姿は正に子供だった。


「武器だ。人を殺すためのな」


 そう言われた瞬間、キラキラと輝かせていた筈の目も疑いの目に変わる。


「冗談、だよね?」


「どうだろうな」


「えぇぇぇ……」


 今度は素直におどおどと戸惑う。冒険者達が武器を当然のように携帯するこの世界でも、その響きは強烈だった。

 それにしても一々反応が大袈裟な気がするが、子供というものはこういうものだった気がする。


 すると女はバラバラになっていた部品を慣れた手つきで組み合わせ、あっという間に銃を完成させる。


「ベレッタの92FS。それがこの銃の名前だ」


「ベレッタ?きゅうじゅう、」


「覚えなくていい。こんなの知らなくても人生は生きていける」


 この子が銃の名前を覚えたところでメリットなんて一つも無い。


「触っていい?」


 俺の答えも聞かず触ろうとするので、直ぐに銃を取り上げる。


「ダメだ」


「え〜〜。ちょっとだけでもダメ?」


「ダメだ」


「イジワル…」


 玉は抜いてあるから大した危険はない。だが、子供が易々と触っていいおもちゃじゃない。


「覚悟が無いなら持つな。イジワルで言ってるわけじゃない」


「覚悟?」


「とにかく、今日の出来事は俺と君との秘密だ。約束できるな?」


 ここでようやくナタリアが初めて少女の目を見た。


「うん。約束する」


 そして女がビアンナを再び抱え、部屋の外に連れ出す。


「あの、ありがとうございました。結局よく分からなかったけど…」


「それでいいんだ。あと、ついでに女将さんに伝えておいてくれないか?」


「なに?」


「…いつも、料理が美味しい。特にここのシチューは絶品だと。じゃあ頼んだぞ……」


 そう小声で呟くと女は勢いよく扉を閉めた。


「私、なんか凄いの見ちゃった気がする…!でも変なの。ナタリアさんってなんで男の子みたいな話し方をするんだろう?ま、いっか。ママー!?」

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