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1、鮮血の妖精〈ブラッディフェアリー〉

閲覧感謝です!


「聞いたか、例の噂」


「噂?…ああ、鮮血の妖精〈ブラッディフェアリー〉のことか」


 王都内のパトロールに明け暮れる二人の兵士達。いつもと何ら変わらない日常。そう都合よく事件など起きるはずもなく、今日もなんてことなく時間が潰れて行こうとしている。


「昨日もまた一人勇者がそいつにやられたって話だ」


「これでもう三人目か。勇者を殺すだなんて一体どんな凄い奴なんだろうな?」


「神出鬼没で全身返り血まみれ。どっちにしろまともな奴じゃない。妖精だなんて異名が付くくらいだからな、人間であるかすら怪しいくらいだ」


 男達は無駄話に花を咲かせながらいつものルートで人通りの少ない路地裏に入っていく。


「俺が聞いた話じゃ、めちゃくちゃ美人だっていうのに、口調は男まさりで立ち振る舞いも荒々しいんだとさ。変だよな」


「それこそただの噂だろ。勇者を殺せるだけの力を持ってる奴が目撃者を生かしておくわけがない」


「でもそんなに美人なら一回くらい会ってみたいと思わないか?」


「イヤだね。そんな奴に会ったら俺なんか簡単に殺されちまう」


 するとヒールの音をコツコツと鳴らしながら、男達の横をだぼっとした真っ赤なコートを着た女が通りすがった。

 体系より大きめなサイズのそのコートはまるで男物のよう。


「……今の見たか?この真夏にコートだぞ。どうかしてるんじゃないか?」


「おい、聞こえるぞ…」


「大丈夫だって。もうとっくに後ろだ……うわっ!!」


 気づくと、明らかに二人の横を通りすがった筈の女が何故か目の前にいる。


「なんで…」


「申し訳ない。今のはちょっとした手違いみたいなもので……」


「エルフは寒がりなんだ」


「は、エルフ?」


 深く被ったフードの奥には綺麗な金髪が垣間見える。


「それにこれは返り血じゃない。俺は赤が好きなだけだ」


「まさか……」

「お前、」


 女の正体に気づいた男は剣を抜いて、抵抗しようとするが、銃で男の足を打ち抜き制圧する。


「ぐあぁっ!足がぁっ……!!」


 その勢いのまますぐにもう一人の男も軽々と制圧してしまう。


「ぐっ……!」


 そして女は男の額に銃を突きつけながら呟いた。


「勇者はどこだ?」


 ◇◇◇◇◇◇


 人騒がしい夜の王都の歓楽街。そこは様々な人々の思惑が色めき立つ場所。ここでは己の欲望を隠すことはできない。


 一見さんお断りの会員制クラブ。

 今宵もまた、欲に溺れた一人の男は陽気な様子で複数の女をはべらしながら王様のように笑っている。


「フォンテーヌちゃんも、ラバンナちゃんも、みんなまとめてかわうぃーーねーー!!」


 男はこの店に来るまでいくつもの店をハシゴしていて、既に頬は真っ赤に染まっている。


「もう〜上手なんだから!じゃあ、勇者様。今日もいつもの頼んでもいいかしら?」


「ダメだ」


 店の女は甘えた口調で頼み込むが、男はキッパリとそれを否定する。


「え〜〜…」


「いつものじゃなくて、もっと高い酒を持って来い!!今日は大盤振る舞いだーー!!」


「やったーー!!お願いしまーす!!」


 一瞬機嫌が悪くなったかのように見えた女達もころっと機嫌を直した。


 金払いがいい男は湯水のように高いを酒を頼み続ける。もうベロベロに酔っていて自分がいくら使っているかもよく分かっていないだろう。


 そんな時、突然店の中に一発の銃声が響き渡り、一気に店の中が騒がしくなる。


「キャーーー!!」


 女の悲鳴と共にその音は二発、三発と数が増えていく。


「貴様!!」


 襲いかかってくる店の護衛達に向かって履いていたヒールを蹴り飛ばして牽制すると、近づいてきた男をもう片方のヒールのかかとで頭を殴りつける。更に女は流れるように屈強な男達次々と薙ぎ倒していきながら、的確に銃弾を喰らわしていく。


「このっ!…」


 ナイフを片手に飛びかかってくる男も、一歩横にズレて、更に一歩前へと足を出すと簡単に男は転がっていく。


 女はノールックで転がっていた男の足を撃ち抜く。


 この騒ぎに勇者と呼ばれていた男も流石に酔いが醒めたようだが、突然の出来事にまだ頭が追いつかないでいる。


「なんなんだお前は……」


 段々と状況を理解してきたのか、女に銃を突きつけられても男は動じるどころか笑いながら立ち上がった。


「銃ね…確かにそれは強力な武器だ。だけどな、そんな物に怖がる奴はこの世界にはいねぇんだよ!!」


 お目当ての勇者を目の前に、早まる鼓動が抑えきれず、男の声も聞かずに女は躊躇なく銃を発砲するが、男は掌でそれを無傷で受け止めた。


「……」


「ここは異世界だ。そして俺は女神から加護を受け取った勇者だぞ。そんな武器なんかより、よっぽど俺のスキルの方が強えんだよ!!」


 大きく振りかぶった一発も女は体を逸らして回避するが、風圧でフードがめくれてしまう。


「金髪、その特徴的な尖った耳。さてはお前、エルフだな?」


「……」


「そういうことか、分かったぜ。最近噂になってる例の勇者殺し。確かブラッディーフェアリーとかって言ったか」


 男は余裕の笑みを浮かべながらジリジリと女との距離を詰めていく。


「勇者を殺すだけの力を持った奴がどんな凄い奴なのか結構期待してたんだがな、その正体がただのエルフだったとは、中々笑えるぜ!!」


 男は連続で殴ってかかるが、その攻撃全てを完全に見切られると、女の反撃を受け顔面に一発入れられる。


「……無駄だ。俺の筋肉はお前の力じゃ傷一つ付けられねぇよ」


 ニタっと笑みを見せると、女の腕を引きつけ、銃を払い除ける。


「……!」


 女は直ぐに男を蹴り上げると銃が飛ばされた場所とは逆方向へと距離を取る。


「おいおい、武器が無くなったらもう降参か?これじゃトレーニングの足しにもなりやしねぇ」


「……」


「だからよ、逃げる前にもう少し味わっていけ。俺のチートスキル<筋肉500倍〉の威力をな!!」


 男は服を脱ぎ捨て、気合いを入れるとみるみるうちに肉体は大きく膨らんでいく。その姿はまるで鎧を纏っているようだ。


「どんな時も筋肉は裏切られねぇ。筋肉こそが、最強……!!」


 その時、一発の銃声が鳴り響くと男の脳天は貫かれ、そのまま倒れ尽くした。


「剛力の勇者〈マッスル〉ナカハタカズヤ。だったら頭も鍛えておけ」


 利き手ではない女の左手にはもう一本の銃が握られていた。


 俺が一つしか銃を持っていないと勝手にたかを括ったのがコイツの敗因だ。

 しかもどんなに体が大きくなったところで、俺が狙うのは頭だけ。返ってそのままだった頭が目立って逆に狙いやすくなったくらいだ。

 どいつもコイツも勇者ってやつは未だにゲーム感覚。この世界は現実だというのに。


「さてと、」


 女は念の為に男が完全に死んだことを確認すると、動揺して動けずにいた店の女に金貨や銀貨が大量に入った袋を投げ渡す。


「え、」


「迷惑料と口止め料だ」


 そして飛ばされた銃を回収すると、側で転がっている男達を指差す。


「あと、そこら辺に転がってる奴らの手当ても頼む。今ならまだ助かる筈だ」


「い、生きてるの?」


 よくよく確認してみると転がっている男達は全員微かに息が残っている。


「俺は依頼されたターゲットしか殺さない主義なんでね」


 テーブルに残っていた酒瓶を手に取り、店を去る。


「あと、これは貰ってく」


 俺の名前は伊樽瑛二。正確に言えば数ヶ月前までは伊樽瑛二だったと言うべきか。裏の世界ではそこそこなの知れた始末屋だった。


 訳あって今はエルフであるナタリアという人物の体を借りて異世界で暮らしている。


 ある日、女神という名の人物から手紙を受け取った俺は、約束通り指定された場所に顔を出すと、気づいた時には辺り一面真っ白な不思議な場所にいた。


 そこにはやけに肌色要素が多いコスプレ姿をした露出狂がいた。


「失礼ね。誰が露出狂よ!これはれっきとした女神の正装なのよ!」


 そう。この女は本物の女神らしい。俺も最初は信じていたわけではなかったが、正直どっちでもいいので俺は直ぐにそう信じることにした。


「アンタが俺に手紙を出した依頼人か?」


「私は女神アフロディア。女神からの直々の使命を光栄に思いなさい」


 アフロディア。名前の割に髪は長くてサラサラしている。


「当たり前でしょ。そっちのアフロとは関係ないのよ!」


「さっきから、心の声が聞こえるのか?」


「もっちろん!だって私は女神ですもの〜!!オホホホ!」


 だそうだ。


「…リアクションしなさいよ!目の前に女神がいるのよ!もっと他に驚いたりとかしないわけ!?ここがどことか気にならないの?」


「別に」


 でも、一つ気になるとすれば、


「いいわよ。なんでも答えてあげる。何が気になるわけ?」


 声が大きい。


「そっちかい!!…やっぱアンタ変わってるわ」


「で、依頼の内容は?」


「興味があるのはそっちだけってことね。まぁいいわ」


 女神は俺の前に一歩近づくと、真剣な面持ちで変な息遣いをしながら耳元に囁く。


「私の為に勇者を殺して欲しいの」


「分かった」


「即答……。女神の吐息よ。ちょっとは悶えなさい」


「数は?」


「…十人よ。手段は問わないわ。とにかくソイツら全員殺してくれたらそれでいい」


「分かった」


 すると女神は俺の態度に不満があるのか大きなため息を吐く。


「あのさ、物分かりがいいのは助かるんだけど、もうちょっと質問してくれない?例えば、どうして勇者を殺して欲しいのか、とかさ」


 依頼人の理由などどうでもいい。依頼があれば俺の仕事。そして仕事は完璧にこなす。それだけだからだ。


 だが、この女神はそれだけじゃ不満らしい。


「そんなに理由を聞いて欲しいのか?」


「う、うん…」


 恥ずかがるならやらなければいいのに。


「…ユウシャヲコロシテホシイリユウヲオシエテクレ」


 まるで二昔前の機械音声の様で興味が無いのが丸わかり。しかしそれでも女神は嬉しい様で悠長に理由を話し始めた。


「ほら、アナタ達日本人の中で最近異世界転生してオレツエーーーってする話がよく流行ってるでしょ。暇だったから私もそれを真似してみようと思って勇者を召喚してみたのよ」


「よく知らんが、ようはそれが失敗したから俺にどうにかしろってことか?」


「ま、そういうことになるわね」


 自らのミスだというのに女神は全く悪びれる様子も無い。


「一応、失敗の原因も聞いた方がいいのか?」


「私が思うに倒す魔王もいないのに転生させて特別な力を持たせたのが良くなかったみたいなのよね。結局、手に入れた力を使って好き勝手やられた挙句、今じゃ私の世界は奴らのせいでめちゃくちゃよ。そこでアナタの力を貸してもらおうと思ったわけ」


 つまり今回の俺の仕事は女神の尻拭いというわけか。


「もう〜そんなこと言っちゃって。女神のお尻を拭けるだなんて光栄なことなのよ。もうちょっと感謝してちょうだい」


「それで報酬は?」


 頬一つ緩まない男の態度に女神だんだん慣れてきたようで、もう文句を言うのも面倒になったようだ。


「私の力で元の世界に返してあげる」


「分かった。それで構わない」


 拍子抜けといった様子で女神は続ける。


「あのさ、本当にそれだけでいいの?もう少し何か強請ってもいいのよ。ほら、分かりやすくお金とかさ」 


「どんな報酬でも依頼があればそれは仕事。依頼なら全て引き受けると決めている」


「そう。それならいいわ」


 取り敢えずこれで依頼の内容は分かった。色々とおかしな点はあるが、やることはいつもとなんら変わらない。


「依頼は引き受ける。だがその前に、一度に拠点に戻り準備をしたい」


 完璧な仕事には完璧な準備が必要だ。俺はそれを一度たりとも怠ったことはない。


「明日またここに来る。詳しいターゲットの情報はその時で構わない。出口はどこだ?」


「流石はプロね。でも悪いんだけど、それは無理」


「何故だ」


「そもそもここに出口は無いのよ。あるのは異世界への入り口だけ。必要なものがあるならあっちでなんとかすることね」


 道具や情報は全て現地調達ということか。面倒だが、それが依頼人の要望なら仕方ない。


「でも安心なさい。手に入れようと思えばあっちの世界でもアンタの得意武器は手に入るから」


「なら俺はどうやってその異世界とやらに向かえばいい」


「それは私が送ってあげる。ついでにこの世界で生きていくための最低限の知識と、イマイチなその見た目も良くしてあげるわ」


 知識は有難い。だが、最後のだけはよく分からない。これでも結構モテてた方だと思うのだが。


「私の好みじゃないの。ちょっと前にエルフが命を落としたところなのよ。だからアナタにはその体をあげるわ」


「なんでもいい。用意が出来たならさっさとしてくれ」


「マイペースな人ね。分かったわよ」


 呆れた様子を見せながら女神が指を鳴らすと、辺り一面真っ白だった世界に亀裂が入る。


「あ、こっちで全員殺せたことが確認出来るまでは、二度と私には会えないからそういうつもりで」


「問題無い」


「最後までさっぱりしてるわね。じゃあそういうことだから、頼んだわよ始末屋さん」


 亀裂は次第に広がっていき、俺を勢いよく吸い込んでいく。


「行ってくる」


「行ってらっしゃい。そうだ、直ぐに依頼は終わらせないでよ。それじゃつまらないから」


 依頼人の要望には出来るだけど応えることが俺のポリシーだが、最後のだけは頷けそうにない。長くて面倒なのは嫌いだからな。


 そして俺はそのまま亀裂の中へと吸い込まれてしまった。


「さて、上手くいけばいいんだけど……あ、そうと決まったらポップコーン用意しなくちゃ!!」


 女神が浮き足立つ一方、俺が亀裂の先から放り出された先はどこかの森の奥地だった。


 そこで俺は湖に映る姿を見て初めて気づいたのだ。


「エルフってこういうことだったのか…」


 このエルフの体が男ではなく女だったということを。しかし身長は男の時より高く、スタイルもいい。出るところは出ていて、引き締まる所はちゃんと引き締まっている。産まれた時から当たり前にあったものもこの姿には存在しない。


「…… まあ、仕事には支障ないしその内これも慣れてくるだろ」


 それでも男は動じない。戸惑う素振りも見せることなく、男は一歩を踏み出した。


ここまで閲覧頂き誠にありがとうございます。


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少しでも「面白そう!」「続きが楽しみだ!」


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次回もお付き合い頂ければ嬉しい限りです。


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