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14、殺し屋狩りがやってきた

閲覧感謝です!


「…なんでついてくる?」


「別にいいでしょ。何か問題でも?」


「問題だ。さっさと消えろ」


「そんなこと言っていいの?せっかく優しい私が世間知らずのエルフに忠告してあげようと思ってたのに」


 思わずナタリアは足を止める。


「忠告?…」


「やっぱり知らなかったんだ。アレ見てみなさい」


 アルレイシャが指差す先にあったのは店の宣伝やらのチラシで埋め尽くされている掲示板。

 そのチラシを隠すように一番目立つ場所に貼られていたのは、ナタリアらしき女のイラストが描かれた手配書だった。


「これは、俺か?…」


「このイラストはともかく、ここに書いてあるでしょ。鮮血の妖精〈ブラッディーフェアリー〉って。つまりアナタのこと」


 手配書のイラストに顔は載っていなく、描かれているのは赤いコートを着てフードを被った女の姿だけ。

 似てはいないが、確かに特徴は捉えているような気がする。


「分かったなら、さっさとその目立つコートを脱いだらどう?」


「断る。結構気に入ってるんでな」


 赤は昔から俺のラッキーカラー。それに赤いコートなら返り血を浴びても目立たない利便性もある。


「今のアナタの首には一億の賞金がかかってるのよ。なのに随分と気楽なもんね」


「興味無い。狙われるのは慣れてる」


「流石は勇者殺しってところかしら。でも用心しておくのね。今や勇者はこの国にとって欠かせない存在。それを脅かす敵はもはや国家の敵同然なんだから」


 この世界でよく見かける罪人の手配書には管轄のギルドのロゴが描かれているものだ。


 しかしよく見るとこの手配書には国の国旗が描かれている。どうやら想像以上に敵は多くなっているようだ。まぁ、職業柄、仲間より敵の方が圧倒的に増えやすい仕事だ。こういうことは珍しくない。


「だけど、そう考えるとバカよね。こんな手配書を本気にする奴がいるのかしら?」


 するとアルレイシャは普段より声を張って喋り始める。


「金に目が眩む奴なんていくらでもいる」


「でもそんな奴が勇者を殺せるだけの力を持った奴に勝てるとはとても思えないわ。いたとしたらソイツはやっぱりただのバカよ」


「…かもな。それが分かってればわざわざ俺達の後をついて来たりなんてしないだろうから」


「あら、気付いてたの?」


「当然だ」


 魔法は使えないが、殺し屋なら相手の殺気くらいは感じ取れる。しかもこの数なら尚更な。


「だってよ。バレてるんだから、潔く良く出て来なさいよおバカさん」


「さっきから言わせておけば誰がバカだ!!!」


 大声を張り上げながら男が物陰から飛び出てくる。男の後ろからはゾクゾクとその部下達も姿を見せる。


「あらま、バカがこんなにいっぱい。みんな揃って大バカね!バーカ!!」


「バカバカ言うな!!さてはお前ら、この俺が誰だか分かってないのか!?」


「さー?ナタリアは知ってる?」


「俺に聞くな」


「だってさ」


 今すぐにでも飛び掛かりたい気持ちを抑え、男は大きく深呼吸をする。


「……知らないなら教えてやる。俺の名はギャクカバ。泣く子も黙る殺し屋狩りだぁ!!」


「殺し屋狩り?」


「私達みたいなのを専門的に狙う殺し屋のことよ。やってることは同じくせに自分達は正義の味方の義賊気取り。そういう中途半端な奴らが私は一番ムカつく」


「嫌ってくれて結構。俺達もお前達のような裏の仕事を平気にこなし、命を蔑ろにする殺し屋の事は大嫌いなんでな!」


「ほら、こういうところが大っ嫌い!!」


 気持ちは分かる。俺も苦手なタイプだ。


 そんなことより少しコイツの名前で気になることがある。


「ギャクカバ……逆、カバ……あー、やっぱりバカじゃないか」


「本当だ!つまり生粋のバカってことね」


「ギャクカバだ!!おのれ〜〜人を小馬鹿にしやがって……!」


「小馬鹿じゃない。バカにしてるの。そんなこともわかりないなんてやっぱりバカね!」


 ――なんかマヌケ過ぎて可哀想になってきた。


 油に火を注ぐとは正にこのこと。とうとうギャクカバも我慢の限界。


「黙れ!!お前ら、口の利き方も分からないコイツらにも目にものを見せてやれ!!」


「「「おーー!!!」」」


 ギャクカバの命令で部下達が一斉に飛び出してくる。


「それはこっちの台詞だっつーの」


「無駄に怒らせるな。面倒になるだけだ」


「どうせこうなる運命よ。どうせならプロの私が手伝ってあげましょうか?」


 ナタリアは静かにため息を吐き、少し気怠そうに銃を取り出す。


「必要ない。プロなんでな」


 ナタリアはそこから一歩も動かずに、襲いかかる男達の肩や足を的確に撃ち、次々と無効化していく。


「怯むな!一億は目の前だぞ!!」


 しかし目の前の一億は近くて遠い。男達は一人もナタリアに近づくことも出来ないまま、完全に圧倒されてしまったのだった。


「へぇー、やるじゃん」


「この程度か……」


 銃を使うまでもなかったか。ここまで呆気ないと分かっていれば銃に頼る必要も無かったかもしれない。無駄撃ちして損したな。


「まぁいい。あとはお前だけだ」


「おのれ…泣く子も黙る殺し屋殺しをあまり舐めるなよぉぉ!!」


 地面が揺れ、下からミシミシとした異音が聞こえる。


 地震のようだが地震ではない。


「うわっ、何これ!?…」


 すると突然、地面が壁のように競り上がり、ナタリア達を囲むように行手を塞いだ。


「変わった魔法ね。バカはバカだけど、ちょっとはやるバカだったみたい」


「一億は俺のもんだ。絶対に逃がしやしねぇぞ!!」


 声は聞こえるがギャクカバの姿はどこにもない。


「バカが消えた。いつの間に……」


 壁の高さはおおよそ三メートル程度といったところか。しかしエルフの脚力ならその気になれば飛び越えられそうだ。


「!!」


 その瞬間、ナタリア達の不意を突くようにどこからとも無く土の槍がこちら目掛けて勢いよく飛んでくる。


「ッ」


 殺気に気づいたナタリアはそれを紙一重で避ける。しかしその先にはアルレイシャが待ち構えている。


「ちょ、なに避けてんのよ!!」


 アルレイシャは愚痴混じりに得意の剣捌きで、まるで金属を切ったときのような甲高い音が辺りに鳴り響き、土の槍を寸前で真っ二つに切り落とした。


「危なかった。ねえ、アナタのせいで死ぬところだったじゃない!!死んだら責任取ってくれるんでしょうね!?」


「あれは……」


 アルレイシャの持つ剣はこの世界に当たり前に存在する剣とはそもそも形が違う。あれは剣じゃない、刀だ。


「おいおい、これで終わりだと思うなよ!」


 再び声が聞こえると、ナタリアの足元の土が足枷のように変化する。更には、腕まで拘束されて、身動きを完全に封じ込められてしまった。


「しまった……」


 ーー少し侮りすぎていたか。


「ハハハッ!!」


 何も無い土の壁から、大笑いと共にギャクカバが現れる。


「勝負アリだ。一億は貰った!!」


 ギャクカバが指を指すと、ナタリア目掛けて大量の土の槍が発射された。


「(死ぬのか……?いや、まだ依頼は達成していない。それなのに死ねるか!)」


 ナタリアは力づくで腕の拘束を破壊すると、直ぐに銃を構える。


「しょうがないわね〜。じゃあ今日の分使っちゃうか!」


 迫る槍を狙い、引き金を引こうとした瞬間、目の前にアルレイシャが飛び出てくる。


「おい、」


「切れ味強化〈シャープ〉」


 魔法を唱え、鞘から刀を抜くと、横にたった一振り。刀に纏った白銀の輝きが斬撃となり一筋に突き抜ける。


 黙って刀を鞘にしまうと、鉄のように硬化していた土の槍は粉々に戻り、地面に流れ落ちた。


「これ貸しだからね」


「頼んだ覚えはない」


 枷を撃ち抜くと足を拘束していた土も元の砂に戻る。


「邪魔をするな平和殺し〈ピースキラー〉!今はお前のような三下の殺し屋に興味はない!!」


「は?」


 ギャクカバの一言をきっかけにして、アルレイシャ目は鋭く尖る。


「誰が三下ですって?……」


「所詮お前の首は一千万の端金。お前程度の殺し屋なら数え切れない程狩ってきた」


「へぇー、一千万が端金ね……」


 雰囲気が変わった。激しく突き刺さるような殺気。どうやらあのカバは虎の尾を踏んでしまったようだ。


「だったら見せつけてやろうじゃない。アンタの目の前の一千万がどれだけ価値のある女の首なのかをね!」


 ムキになり過ぎだ。怒りは力だが、感情的になり過ぎれば自らを見失うことになる。


「ただの挑発だ。お前もやっていたことを相手にやられてどうする」


「いいからそこで黙って見てなさい。コイツは私がやる」


「……勝手にしろ」


 困った女だ。だが、この女の力がどんなものかを確かめるにはいい機会かもしれない。

ここまで閲覧頂き誠にありがとうございます。


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