11、5人目
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VIPルームで酔い潰れていた筈の女がナイフを持って突っ込んでくる。
目の前まで迫っていたその手を弾き、間一髪、避けることには成功した。
しかし今のは明らかに首元を狙っていた。普通、素人なら真っ先に狙うのは胸元。それが無理ならどこでもいいから突き刺そうとする筈だ。
だが、この女は確実に俺の首元だけを狙っていた。
女の目も虚で意識は無い。他の人々と同様、操られているの間違いない。この独特な殺気、他の奴らとは何かが違う。
「……」
「お前、同業者か?」
女から返事は聞こえない。返ってくるのは明確な殺意とナイフの一撃。
「(コイツ…)」
ステーキを切るための短いナイフ。射程は短く切れ味もたかが知れてる。
だがこの女がナイフを振ると、短かった刃先がまるで一本の刀のよう。届いていない筈の刃がここまで届くのではないかと勘違いさせられる。
「死ね」
ボソッと女は呟く。
「あの女を殺せ!」
勇者の声が女の背中を押し、殺意をより際立たせる。
ただひたすらに命を狙う女の刃は無駄なく首元へと迫ってくる。このままでは防戦一方。負けはなくても勝ちも無い。やり返さなければやられるだけだ。
ナタリアは渋々銃を抜く。狙いは肩。動きを止めたら一気に拘束する。これが一番手っ取り早い。
「頼むから死んでくれるなよ」
狙い澄まし、引き金を引く。発射された銃弾は狙い通り真っ直ぐ飛んでいく。
「死ね」
直撃したかと思った瞬間、弾丸はナイフによって真っ二つに切り裂かれた。
「ほう?…」
お返しとばかりに女は手に持っていたナイフを投げつける。ナイフはナタリアの頬を掠らせ、壁に突き刺さる。
薄らと伝う血が床に落ちる。
「……流石は異世界ってところか。お陰でここがどこなのか思い出した」
なんて反応速度だ。エルフの動体視力が無ければ今頃は俺はやられていたかも知れない。
よく見ると、あのナイフ、銀色のオーラのようなものを纏っていてキラキラと光っている。あれも魔法とかの一種か。
「死ねぇ!」
強烈な殺気を放ちながら女は床に転がったナイフを拾い、一気に距離を詰めてくる。
俺に近づいたその瞬間、僅かに女の動きが鈍くなり、体が左に逸れた。
「っ……!」
先程までは執拗なまでに首元を狙っていた筈なのに、どうしてかナイフはナタリアの肩に突き刺さる。そして、ナイフが刺さったまま女はそれを抜こうとする様子は無い。
望まない自らの行動に必死に抵抗しているようだった。
ナタリアはそのチャンスを逃さなかった。
「ちょっと我慢しろよ」
女の手を勢いよく弾くと、すらっと伸びた足が女の腹部に直撃。モンスターを軽々と持ち上げ、それを耐えられるだけの強靭な脚力から放たれた強烈な一発は女を会場の隅まで蹴り飛ばした。
女は壁に激突すると、そのまま意識を失い気絶してしまう。
これで正気に戻るといいのだが。
ナタリアは肩に突き刺さったナイフを強引に抜くとその場に投げ捨てる。
ドレスの裾部分を豪快に裾を引きちぎると、鍛え上がった太ももがより大胆に露出する。
が、そんなのも気にせずナタリアは引きちぎったドレスを使って、負傷部分を縛り上げ止血を行う。
「……よし」
腕の感覚はちゃんとある。この世界は便利なものだ。この程度の傷なら回復薬できれいさっぱり完全に治ってしまうのだから。
「後はお前だけだ。さっさと出てこい」
テーブルの下から声は聞こえてこない。
「世話のかかる」
ナタリアはテーブルを豪快に蹴り飛ばす。
しかし、テーブルの下には既に勇者の姿はどこにもない。
「こっちだ!馬鹿野郎!!」
背後からドタドタと音を立てながら、剣を片手に突っ込んでくる。
「僕だって勇者だ。普通の奴より遥かに強いんだよ!!」
確かにその剣は高そうでよく切れそうだ。
だが、
「奇襲なら静かにやれ」
露出など気にせず、剣を勢いよく蹴り上げる。その瞬間、とても艶やかで魅惑的な物が勇者の目に飛び込んでくる。
「!!」
「冥土の土産だ」
思わず見惚れてしまった男を目覚めさせる躊躇ない顔面への一撃。
しかし勇者は吹き飛ばされても尚、まだ息が残っている。
「はぁ、はぁ……くそっ……!!」
流石は勇者と言ったところか。蹴り殺すつもりだったんだがな、中々しぶとい奴だ。
「そろそろ終わりにしよう」
トドメを刺そうとコツコツとヒールを鳴らしながら勇者の元へと近づく。
「ま、待ってくれ!頼む。殺さないでくれ!」
追い詰められると人は本性を晒し出す。といってもコイツの場合は最初からそんな変わらない気もするが。
「なんでも言うことは聞くから!考えても見ろよ!勇者である俺の言うことなら誰でも俺の言う通りだ。俺と一緒なら金も権力もなんだって手に入るんだぞ!な?」
ナタリアはため息を吐きながら、銃の安全装置を解除する。
「お、おい!!頼むって!!」
プライドも捨て、勇者は頭を擦り付けながら必死になって懇願する。
問答無用。
銃声と共に勇者の眉間は貫かれた。
「勇者の称号が聞いて呆れるな。少なくても俺がゲームで遊んでた頃の勇者は命乞いなんて絶対にしなかった。
眉間を貫かれた勇者はそのまま地面へと倒れ尽くしたまま動かない。
「……」
勇者は確かに死んでいる。これ以上は無駄だ。
そう分かっているのに、俺は残っていた弾倉が空になるまで男をとにかく撃ち続けた。鳴り響く銃声は虚しく聞こえる。
こんなの自分でもどうかしていると思う。
だが、無様に死んでいる勇者の顔を見ると、俺の中の何かが満足しているようだった。
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