10、ファッシネイト
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「そこまでだ!」
さっきまでの男とは違う声が聞こえて、迫る破片は局部ギリギリで止まる。
「君が探している勇者ならここにいるよ」
VIPルームの奥から現れたのは、派手な髪色でイケイケなホスト風の男。
「お前が寵愛の勇者、ミサキカイトか」
「やっぱり来たね鮮血の妖精〈ブラッディーフェアリー〉さん」
「こ、この女が例の勇者殺し!?」
「君のお目当ては僕だけだろ。彼らは離してやってくれると嬉しいな」
自分を殺しに来た相手によく笑顔でいられるものだ。
余程自分の力に自信があるらしいな。
ナタリアの手が男達から離れると、男達は慌てて後ろへと逃げていく。
「カイトさーーん!!」
「すみませんカイトさん!俺、この女が例の相手だとは知らなくて」
「気にしないで。こうなることは分かってたから」
「え?」
「とにかく、君達は僕が守るから安心していいよ」
「「はい!!」」
女だけじゃなくて男にもモテるのか。随分周りから信頼されているみたいだな。
まぁ、どうでもいいが。
ナタリアはドレスに忍ばせていた銃を構えると、すぐさま引き金を引く。
「庇って」
「え!?」
その瞬間、カイトの後ろに隠れていた男が突然目の前に体を乗り出した。
「……(なに!?)」
弾丸は男の急所を外れ、悲鳴をあげながら地面に倒れ込む。
「ぐあああ!!」
「か、カイトさん!?」
「ハハっ!」
カイトは倒れ込んだ男を見下すように笑う。
「……(試してみるか)」
ナタリアは若干銃口の先を相手から晒して発泡する。
「君も庇ってくれ」
すると、再び男が突然身を乗り出し弾丸が直撃する。敢えて狙いを外したことで確実に急所を避けられている。
「か、体が勝手に……!」
「助かったよ。君達も僕の為に傷つけたなら本望だろ?」
「「はい!!」」
さっきまで悶え苦しんでいたとはとても思えないほどに元気のいい返事を返す。
「…それがお前の能力とやらか?」
「〈好感度MAX〉それが僕のチートスキルの名さ」
倒れた男達は踏見つけながらカイトは笑う。踏まれた男達もそれが本望かのように笑っている。
「しかし本物の銃なんて初めて見たな。やっぱり迫力がエアガンとは比べ物にならないね」
余裕気に笑うカイトに向けて再び銃を向ける。
「撃ってもいいけど、またコイツらに当たるだけだよ。まぁ殺し屋なんだから、それじゃ脅しにはならないか」
しかしカイトの思惑とは裏腹に、ナタリアが引き金を引く気配は無い。
「あら、撃たないんだ。君って本当に殺し屋?まぁいいや。直ぐに君も僕の言いなりだ」
銃はそのまま向けられているが、カイトは構わずこちらへとやってくる。
「この部屋には僕のフェロモンが充満している。僕のフェロモンを嗅いだものは無意識の内に僕のことを意識せずにはいられなくなる」
この甘い香りが体臭だと。どうりで嫌な匂いなわけだ。
「そう、今の君のようにね」
ペラペラとよく喋る。
「あとは仕上げだ。僕が一度でも体に触れれば、君は僕のことが好きで好きでたまらなくなる。こんな風にね」
カイトがナタリアの唇を奪った瞬間、銃は発泡され、カイトの肩を撃ち抜いた。
「ぐあぁぁぁっ!!」
思わぬ衝撃に蹲ってしまう。
「な、なんで、僕を撃てるんだ……!?」
まさか、この世界での初キスが男相手だとはな。最悪な気分だ。
「僕の能力は完璧だというのに……!」
「お前はターゲットだ。始末屋がこれから殺す相手に好意を持つと思うか?お前のことになど一ミリたりとも興味は無い」
「まさか、僕への殺意が能力を打ち消したというのか!?」
そもそもタイプじゃないし男は趣味じゃない。問題外だ。
「ふざけるな!僕のことを好きにならない人間がこの世にいるわけがない!!」
「それなら不思議じゃない」
「なに?」
ナタリアは肩まで伸びた長髪をかき揚げ、エルフならではの特徴的な尖った耳を見せる。
「それ、お前エルフなのか!?」
「そういうことだ」
「くそっ!そんなの話が違うじゃないか!!」
すると男は血相を変えて部屋から逃げていく。逃がしまいとナタリアも続けて発泡するが、弾は全て外れてしまう。
「チッ……」
ーー逃げ足だけは一流だな。
ナタリアは直ぐに空になった弾倉を補充すると、逃げたカイトを追って大広間へと急ぐ。
音楽と会話で騒がしかった会場内は驚くほど静まり返っていた。
そこにいる人々の目は全員虚でまるで人形のよう。
「僕を殺したいか?」
どこからか声が聞こえる。
「だけど残念だったな。それは無理だ」
声はあのテーブルの下から聞こえる。
「あそこか….」
「お前の相手は僕じゃない!!」
すると、さっきまで動く気配が無かった人々が突然襲いかかってくる。
未だに目は虚のまま。恐らく、あの勇者が能力で操っているのだろう。
「みんな!僕の為にアイツをぶっ潰せ!!」
「やれやれ…」
相手が男だろうと女だろうと襲いかかってくる人々を構わず片っ端から殴っていくナタリア。
ドレスが風で舞い、高いヒールを履いているとは思えないほど俊敏で華麗な体捌きで彼らを翻弄していく。
「ああああっ!!」
「うるさい」
意思は無く、命令されるがまま襲ってくる男達。中には武器を持っているものもしばしば。しかしナタリアは動じることなく、男を思いっきり蹴飛ばす。
「おい、何やってんだ!やっちまえ!!」
勇者の声が彼らを鼓舞し勢いづける。
「ったく、疲れるな…」
ナタリアは仮面を取ると髪をかき上げ、こちらも一段階ギアを上げる。
勢いづいた彼らの攻撃を一歩、二歩と最低限の動きだけで避けながら、相手を華麗にいなす。
会場にあったテーブルからナイフとフォークを奪うと、すぐさまそれらを使って彼らをたちまち無効化していく。
「うがぁぁぁ!!」
体格のいい男がナタリアを背後から襲い、地面へと叩きつける。
「ッ!」
大きく振りかぶった一撃も、瞬時に相手の腕を取り、足を首元に絡まらせる。男もそれに必死に抵抗するが、縛りは厳しくなり、とうとう気を失ってしまう。
「あとは本命だけか」
グラスに汲んであったワインを一気に飲み干すと、勇者が隠れていると思われるテーブルに近づいていく。
その時、背後から突き刺すような殺気に気付き、ナタリアは慌てて振り返る。
「!!」
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